numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

2Dラインから3Dラインへ JリーグのVARはどう進化する?

Jリーグでは、2023シーズンからビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)によるオフサイド判定の際に、3Dラインテクノロジーが採用されることが決まりました。

これまでの2Dラインでは、ピッチの接地面にしかラインを引けなかったので判定精度が低かった(それでも導入前より見逃しは減ったと思いますよ)ですが、3Dラインが引けるようになったことで、今シーズンからは上半身も含めた立体的な確認ができるようになります。

一方、3Dラインを生成し、正確に判定する分、これに要する時間が増加します。サッカーを観る側は、このことをきちんと理解する必要があると思い、今回の記事を書くことにしました。楽しくサッカーを観戦できるように、リーグ開幕前にきちんと理解しておきましょう。

3Dラインはどうやって引くのか

Jリーグ.jpの説明によると、3Dラインを使っての判定は、次の6つの手順で行うそうです。

ポイント・オブ・コンタクトの確定

まずは、①攻撃側がパスを出した(ボールを蹴った)瞬間(ポイント・オブ・コンタクト)を確定し、このとき各競技者がどこにいたのかを確認します。これまでの2Dラインでもそうですが、この瞬間を確定することが判定の根拠となるため、コマ送りで慎重に確認するのだそうです。

2Dラインで確認

次に最終ラインがどこにあるかを2Dラインでチェックします。この段階で明確にオフサイド判定ができれば、3Dにする必要はないので、直ちに判定になります。しかし、2Dで判断が困難な場合は、ここから3Dラインに切り替えます。

必要ならば、3Dラインを引く

3Dラインの特徴は、これまでは確認できなかった空中の位置まで把握できること。例えば肩や頭でもラインを合わせられることになるため、より正確な判定が可能です。そのため、3Dラインを引く作業では、身体のどの部位が最もゴールラインに近いところにあるかを判断することが重要となります。足なのか、肩なのか、頭なのかをVARが判断してリプレーオペレーターに伝達し、オペレーターがある程度の位置までラインを引き、最終的にVARがラインを定めます。これを守備側、攻撃側と繰り返し、2本のラインが確定します。

これだけの手間がかかる作業で、しかも人の手がかかるので、3Dラインは、引く必要があるときのみ行われます。何でもかんでも3Dを引くわけではありません。

3Dラインを使うと、これまでより時間がかかる

とはいえ、必要な機会はそれなりにあるでしょうし、その都度時間がかかってしまいます。これまでよりもVARチェックのためにプレーが止まる時間は長くなります。

今季からJFA審判マネジャーのJリーグVAR担当となった佐藤隆治さんは、3Dラインの導入に際して「最初はきっと時間がかかる。ラインを引けるカメラが増えるので、より精度が上がる。判定を変えなければいけないプレッシャーがある中で、3Dを使いたいというマインドになると思うが、2Dで確認ができるものは2D、アバウトなら3D、その判断までの時間は詰めていきたい。」とのことです。

経験を重ねる中で少しずつ上達し、時間短縮できるようになっていくのは、どんな仕事でもそうでしょう。観戦するファン・サポーターも、このあたりのことはぜひ理解しておきたいところです。

ワールドカップでは半自動でやってたんじゃね?

確かに、ワールドカップカタール大会では、半自動オフサイドテクノロジーにより、AIが画像生成までやってくれました。

num-11235.hateblo.jp

でもそのためには、放送用のものとは別に、スタジアムの屋根に選手の身体の動きを捉えるための専用4Kカメラを8~12台設置し、センサーが入った専用ボールを少なくとも7球(ボールパーソンが持っている予備ボールも含めて)準備する必要があります。さらに、これらを駆使して瞬時にデータ処理して選手やボールの位置をミリ単位で算出しCG映像を生成する高度なシステムと、それを扱える技術者が必要です。当然、このシステムに対応できる審判員も養成しなければなりません。全てのスタジアムでこれを実現してJ1リーグ戦(306試合)をやるにはコストがかかりすぎるのでしょう。

スタジアムの屋根にカメラが設置されているのが分かりますか?あれが必要です。

今シーズン、2Dラインから3Dラインに変え、オフサイドラインを生成できるカメラも2台から5台に増やされるのですから、それだけでもかなりのコスト増。致し方ありません。

画面のラインの色に注意!

3Dオフサイドラインを描くホークアイ社のシステムでは、攻撃側が赤いライン、守備側が青いラインで表現される仕様となっています。赤いラインがゴール側にあればオフサイド、青いラインがゴール側ならばオンサイドです。

両者が重なった場合は、少しでもゴールに近いほうが上書きして描かれるようになっているそうなので、どちらのラインがゴールに近いかを確認すれば判断が可能になります。

このカラーリングは2Dのときでもそうだったのですが、ユニフォームの色が赤のチームと青のチームの対戦だと混乱してしまうことも起こりえます。

赤のリヴァプールが守備側で、オフサイドラインは青。青のチェルシーが攻撃側で、ラインは赤。赤のラインが青のラインよりも前なので、このプレーの判定は「オフサイド」でした。

それでも誤審がなくなるわけではないことも承知しておくこと

テクノロジーが入ることで、これまで以上に事実に基づく正確な判定ができるようにはなるでしょうが、それでも人が判定することに変わりはありません。誤審が完全になくなることはありません。ワールドカップカタール大会もそうであったように、「これだけ金をかけてるのに、なんでこんな誤審が起こるんだ」とか「こんなシステム意味がない」などと言う人はきっと出てくるでしょう。

しかし、機械だって100%正しく動く保障はないのだし、正しく動いていたとしても、判定に必要なデータが取れないこともあれば、得られたデータで白黒はっきりできずどちらともいえる状況になることもあります。

例えば、カメラで撮っている映像は、瞬間瞬間のコマ映像の連続によるものであることは皆さんご存知のことでしょう。そのため、ポイント・オブ・コンタクトの瞬間が捉えきれない(コマとコマの間の瞬間だった)ということも起こりえますし、その瞬間、カメラとポイント・オブ・コンタクトの間に競技者が入ってしまって、あらゆる角度のカメラを確認してもポイント・オブ・コンタクトが特定できない、なんてこともあるでしょう。

そうなれば、何らかの形で人が決断するしかありません。どのような状況が起こっても、判定するのはその試合を任されている審判員であり、主審が最終決定権を有します。テクノロジーはあくまでも補助であり、人が判定するからこそスポーツは面白い。私はそう信じています。

そんなわけで、それだけのプレッシャーを背負いながら審判員は判定します。審判は敵じゃない。選手、サポーターと共に一緒にゲームを創り上げる仲間です。リスペクトを忘れず、時には審判も応援してあげてください。