numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

「ホームベースを踏んで打撃をするとアウト」は間違い?野球の「反則打球」の正しいルール

2024年4月26日のDeNA対巨人戦での関根選手の死球(デッドボール)の判定を巡って、様々な意見が挙がっているようです。

  • バッターボックスを出て打撃をしているのでは?
  • ホームベースを踏んで打撃しているとアウトと聞いたことがある
  • バッターボックスを出て投球にあたってもデッドボールなのか?
  • あれが許されるならわざと投球に当たりに行くこともできるじゃないか

などなど。

特に、「ホームベースを踏んで打撃をするとアウト」だと思っている人がかなり多いようですが……

このプレイ、どのようなルールが適用されるのか、公認野球規則本文に基づいて解説します。

どんなプレイだったのか

まずは当該事象のリプレイを見てみましょう。

8回裏、DeNAの攻撃。一死一三塁で、関根選手の打席でした。

このプレイの論点

SNS上でいろいろな意見を見ましたが、以下の4点に集約できそうだと感じました。

  • バッターボックスを出て打撃をしているのでは?
  • ホームベースを踏んで打撃しているとアウトと聞いたことがある
  • バッターボックスを出て投球にあたってもデッドボールなのか?
  • あれが許されるならわざと投球に当たりに行くこともできるじゃないか?

今回は、この4点に答える形で解説をしていこうと思います。

バッタースボックスから足を出して打撃をしてもいいの?

打者が「構えるとき」や「打つとき」の足の位置は、公認野球規則にそれぞれのルールがあります。

まずは打者が構えるときから確認しましょう。

公認野球規則5.04(b)(5)

打者は、正規の打撃姿勢をとるためには、バッタースボックスの内にその両足を置くことが必要である。
【規則説明】 バッタースボックスのラインは、バッタースボックスの一部である。

規則5.04(b)(5)【規則説明】に、バッタースボックスの範囲が示されており、バッタースボックスを表すラインは、バッタースボックスに含まれます。

図示すると、このようになります。

さて、打者が構えるときは、バッタースボックスに両足を完全に入れなければなりません。このとき、ラインを踏んで構えていても、ラインの幅に収まっていれば問題ありません。

しかし、初めからラインを踏み越えて構えてはいけません。

一方、打者が打つときは、バッタースボックスから足がはみ出てもよいことになっています。

公認野球規則6.03(a)(1)

〔次の場合、打者は反則行為でアウトになる。〕
打者が片足または両足を完全にバッタースボックスの外に置いて打った場合。

【原注】 本項は、打者が打者席の外に出てバットにボールを当てた(フェアかファウルかを問わない)とき、アウトを宣告されることを述べている。球審は、故意四球が企てられているとき、投球を打とうとするバッターの足の位置に特に注意を払わなければならない。打者は打者席から跳び出したり、踏み出して投球を打つことは許されない。

バッタースボックスのラインに足が一部でもかかっていれば、「完全にバッタースボックスの外に置いて打った」には該当しないので、正規の打撃として扱われます。

打者が片足または両足を完全にバッタースボックスの外に置いて打った場合、球審反則打球(Illegally Batted Ball)と宣告して、打者をアウトにします(反則打撃、不正打球などとという用語はありません)。このとき、打球がフェアかファウルかは問いません。また、ファウルチップでも該当します。

反則打球は、バットにボールが当たらないと適用されません。

打者が片足または両足を完全にバッタースボックスの外に置いただけでは反則になりません。

ちなみに、関根選手の足はバッタースボックスのラインにかかっているように私には見えます。

ホームベースを踏んで打撃しているとアウトと聞いたことがあるけど…?

野球では、「打者が片足または両足を完全にバッタースボックスの外に置いて打った場合」というルールなので、反則打球の適用でホームベースを踏んだか踏んでいないかは関係ありません。

なお、ソフトボールではホームベースを踏んで打撃をするとアウトになるルールがあるようです。

バッターボックスを出て投球に当たってもデッドボールなのか?

死球(デッドボール、Hit by Pitch)のルールは、公認野球規則5.05(b)(2)にあります。

公認野球規則5.05(b)(2)

〔打者は、次の場合走者となり、アウトにされるおそれなく、安全に一塁が与えられる。(ただし、打者が一塁に進んで、これに触れることを条件とする)〕

打者が打とうとしなかった投球に触れた場合。ただし、
(A) バウンドしない投球が、ストライクゾーンで打者に触れたとき、
(B) 打者が投球を避けないでこれに触れたとき
は除かれる。
 バウンドしない投球がストライクゾーンで打者に触れた場合には、打者がこれを避けようとしたかどうかを問わず、すべてストライクが宣告される。
 しかし、投球がストライクゾーンの外で打者に触れ、しかも、打者がこれを避けようとしなかった場合には、ボールが宣告される。

【規則説明】 打者が投球に触れたが一塁を許されなかった場合も、ボールデッドとなり、各走者は進塁できない。

【原注】 投球が打者の身に着けているネックレス、ブレスレットなどの装身具にだけ触れた場合には、その打者が投球に触れたものとはみなさない。

【注1】 〝投球がストライクゾーンで打者に触れた〟ということは、ホームプレートの上方空間に限らず、これを前後に延長した空間で打者に触れた場合も含む。

【注2】 投球が、ストライクゾーンの外で打者に触れた場合でも、その投球が、ストライクゾーンを通っていたときには、打者がこれを避けたかどうかを問わず、ストライクが宣告される。

【注3】 打者が投球を避けようとしたかどうかは、一に球審の判断によって決定されるものであって、投球の性質上避けることができなかったと球審が判断した場合には、避けようとした場合と同様に扱われる。

【注4】 投球がいったん地面に触れた後、これを避けようと試みた打者に触れた場合も、打者には一塁が許される。ただし、ストライクゾーンを通ってからバウンドした投球に触れた場合を除く。

規則通りに解釈すると、死球によって一塁が与えられるのは、球審から見て「打者が避けようとしたかどうか」が規則適用上のポイントということになります。

しかし、【注3】にもあるように、投球の性質上避けることができなかった場合は致し方ないので、私はむしろ、打者が「投球に当たりに行こうとしなかったか。よけられるのによけようとしていなかったか。そうでなければデッドボール」と考えています。

わざと投球に当たりに行くこともできるじゃないか?

公認野球規則5.05(b)(2)に記載の通り、

(A) バウンドしない投球が、ストライクゾーンで打者に触れたとき

(B) 打者が投球を避けないでこれに触れたとき

死球となりません。(A)はストライク、(B)はボールと判定され、打者に投球が触れたことで、ボールデッドになります。塁上に走者がいる場合、盗塁をしていても進塁は認められず、投球当時の占有塁に戻されます。

つまり、普通、打者がわざと投球に当たりに行ったところで攻撃側チームには得にならないし、当然痛いし、下手をすれば大怪我のリスクもあります。

関根選手はバントをしようとして確かに本塁方向に足を出したのですが、投球が思ったような軌道ではなく、出した自分の足のほうに向かってきたので慌てて足を引っ込めようとして、結局避けられず、足に当たってしまいました。

果たしてこれは、投球に当たりに行ったのでしょうか?

私はそうではないと思います。

巨人ファンの方々は不満に思っているでしょうが、こういう事象が「致し方ない」です。

なお、当たりに行ったと見るのなら、判定はボールで、ボールデッドになります。

こういう状況で打者をアウトにするルールはないの?

もちろんあります。

公認野球規則6.03(a)(3)

次の場合、打者は反則行為でアウトになる。

打者がバッタースボックスの外に出るか、あるいはなんらかの動作によって、本塁での捕手のプレイおよび捕手の守備または送球を妨害した場合。
 しかし例外として、進塁しようとしていた走者がアウトになった場合、および得点しようとした走者が打者の妨害によってアウトの宣告を受けた場合は、打者はアウトにはならない。

 

公認野球規則5.09(b)(8)

次の場合、走者はアウトとなる。

0アウトまたは1アウトで、走者が得点しようとしたとき、打者が本塁における守備側のプレイを妨げた場合。2アウトであればインターフェアで打者がアウトとなり、得点は記録されない。

【注1】 ここにいう〝本塁における守備側のプレイ〟とは、野手(捕手も含む)が、得点しようとした走者に触球しようとするプレイ、その走者を追いかけて触球しようとするプレイ、および他の野手に送球してその走者をアウトにしようとするプレイを指す。
【注2】 この規定は、0アウトまたは1アウトで、走者が得点しようとした際、本塁における野手のプレイを妨げたときの規定であって、走者が本塁に向かってスタートを切っただけの場合とか、一度本塁へは向かったが途中から引き返そうとしている場合には、打者が捕手を妨げることがあっても、本項は適用されない。
 たとえば、捕手がボールを捕らえて走者に触球しようとするプレイを妨げたり、投手が投手板を正規に外して、走者をアウトにしようとして送ったボール(投球でないボール)を打者が打ったりして、本塁の守備を妨げた場合には、妨害行為を行なった打者をアウトにしないで、守備の対象である走者をアウトにする規定である。(以下略)

規則6.03(a)(3)は、多くの場合、一塁走者の盗塁を刺すために捕手が二塁に送球するときに、打者が前に飛び出したようなときに適用されることが多い規則です。

規則5.09(b)(8)は、本塁クロスプレイ時の打者による守備妨害とか、投手が正規にプレートを外して本塁に〝送球〟したのに打者がバットで打ったとかいう、言い逃れができない守備妨害のときに、守備の対象である三塁走者をアウトにする重い規則です。ちなみに、かつては日本で独自に【注】を設けて、スクイズのときの反則打球にも適用することとしていたのですが、2006年にこの【注】がなくなり、現在はスクイズで反則打球をしたときは打者アウトとなっています。

まとめ

今回のプレイは、結論だけ見ると

  • スクイズが企図されていた
  • しかし投球にバットを当たらず、三塁走者が飛び出した状態になった
  • この状態で打者の〝はみ出した〟足に投球が当たった

そのため、「攻撃側のスクイズ失敗なのに、はみ出した足でデッドボールになって救済された」という感情から、巨人ファンの皆さんに不満の残る結果になったのだろうと思います。

しかし、ルール上、反則打球にはならないので関根選手はアウトではないし、投球に当たりに行こうとしたわけでもない。死球と判定した審判団の裁定は適切だと私は考えます。