numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

誤審なのか、競技規則適用ミスなのか。浦和vs神戸オフサイド見逃しについて

2023J1リーグ第32節 浦和レッズvsヴィッセル神戸戦の後半ATの決勝点のシーンでオフサイドの反則があったとして大きな話題となりました。誤審なのか、競技規則適用ミスなのか、ネット上では混乱しているサッカーファンも多く見られます。

少し時間が経ってしまったのですが、この件について私なりの見解をまとめます。

何が起こったのか

まずはDAZNの中継映像による公式ハイライトを見てみましょう。90+5分からです。

www.youtube.com

後半AT、浦和のフリーキックを神戸GK前川選手がキャッチし、一気にカウンター。浦和のGK西川選手がフリーキックに攻撃参加していたため浦和のゴールは空っぽで、前川選手からのロングパスを受けた大迫選手はゴールに向かって蹴りこみ、ボールは無人のゴールに入っていきました。

VARはチェックしたのか

このとき、中継では解説の水沼さんが「オフサイドの可能性」とつぶやいています。

中継映像では確認できませんが、おそらくスタジアム内にVARdict(バーディクト)*1で「ゴール確認中-オフサイドの可能性」が表示されたのだと推察します。

したがって、(当然ではあるのですが)VARによるチェックは行われていました。

しかし、すぐキックオフに

浦和サポーターの不満はこの点にあります。このVARチェックに要した時間がほとんどないように感じられたからです。

中継映像で確認すると、ゴールが決まったのが95:04、水沼さんがオフサイドの可能性とつぶやいたのが96:01、水沼さんが「ゴール」と言い、VARチェックが完了して主審が得点を認めたと思われるのが96:19で、この直後にキックオフが行われています。そのため、「VARは本当にチェックしたのか」「オフサイドを見逃したんじゃないか」などの意見が挙げられています。

さらに、スタジアムで観戦していた人が撮影した、前川選手からのパスが出る瞬間の動画がX(旧Twitter)に投稿され、オフサイドなのかどうかが大きな議論になりました。

大迫はオフサイド

後日、【Jリーグジャッジリプレイ2023 #31】でこのシーンでは、このシーンのスカウティング映像*2が公開されました。

スカウティング映像

オフサイドポジションかどうかはどうやって決まるの?

オフサイドライン(今回はハーフウェーライン)を体の一部が超えていればオフサイドポジションにいるとみなされます。

このとき、よくある誤解ですが、オフサイドポジションを判定する際、ゴールキーパーを含むすべての競技者の手や腕(当たるとハンドの反則とみなされる部分)は、オフサイドポジションに含まれません。

ゴールキーパーを含むすべての競技者の手や腕は、含まれない

よって、スカウティング映像から明らかに、大迫選手は明らかにオフサイドライン(この場合はハーフウェーライン)よりも前に体が出ているので、オフサイドポジションにいたことになります。

上記の指摘の通りですね。

審判団はオフサイドポジションを確認できなかった?

副審はなぜ判定できなかったのか

スカウティング映像を改めてみると、副審の位置取りが浦和陣内に1人だけ残っていた大畑選手に合わせているのが分かります。しかし、この場合のオフサイドラインはハーフウェーライン。つまり、副審の位置では、オフサイドポジションを正しく見極められなかったことになります。

Jリーグジャッジリプレイ2023 #31】では、家本さんが「本来であれば、ハーフウェーラインの延長線上にステイしたままでなければならない」ポジションが「どういう訳か動いてしまっている」、それは「副審が西川選手が前に出ていることが、ふと抜けてしまった」ことで「適切な競技規則が適用されなかった、判断出来なかった」のではないかと指摘しています。

なお、家本さんのこの指摘を挙げて、「副審がオフサイドポジションの競技規則を正しく適用しなかったのだから、競技規則適用ミスだ、再試合だ」と主張する浦和サポーターがみられます。しかし、これは副審の判断ミス、つまりはオフサイドラインの見極めの誤りであって誤審の類です。こんなことでいちいち再試合になるようなことはありません。

VARはなぜすぐにチェックを終えたのか

今回のオフサイド判定で必要なのは、GK前川選手が蹴った瞬間の大迫選手の位置が確認できる映像で、2人が同時に映っていて、かつ大迫選手を横から見ることができる映像です。スカウティング映像ではこれが確認できたのですが、VARルームではこの映像を見ることができなかったということです。

確かにX(旧Twitter)上での指摘の通り、ハーフウェーラインにオフサイドライン投影カメラは設置されていますが、

そのカメラで撮っていた映像はおそらく中継で使用されていたこの映像か、これに近いものでしょう。

つまり、同一フレームでGK前川選手が蹴った瞬間の大迫選手の位置が確認できなかった。VARルームで見ることができるすべての映像を見ても、確認できる映像が発見できなかったのでしょう。

ないものは仕方がないので、早々にVARチェック終了になったのだと私は考えます。

まとめ

このように、副審の位置取りが悪かったことと、VARがオフサイドを確認できる映像がVARルームになかったこと。これが今回の誤審の要因だったと私は考えます。

確かに、スカウティング映像のような映像がVARルームにあったら、と思う人は多いでしょう。しかし、そのとき使えるようにはなっていなかったのですから、それを言ってもどうしようもありません。

ビデオ判定が神の視点であるかのように、全てのプレーに対する正確な判定を期待している人があまりにも多いように感じます。確かにVARは映像を繰り返し見ることができる審判員ですが、だからと言ってピッチ上の全ての出来事を監視できているわけではありません。

また、「競技規則適用ミス」と「誤審」は全くの別物。誤審は審判員の判断のミスであって、それも含めてスポーツの一部です。人がやることにミスはつきもので、選手にも審判にも、試合中にミスはいくらでもあります。それを受け入れられないのなら、スポーツ観戦はすべきでは無いと私は思います。

*1:専用のタブレットを通じて、ビデオマッチオフィシャルがチェックしている事象をスタジアム内の大型映像装置やインターネット中継・TV放送に自動連係できるシステム

*2:各クラブの分析担当者が自クラブ、次に対戦するクラブ、他のクラブ含めて分析を進めていくために見る映像のこと

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