numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

【サッカー】PKのルール解説 - やり直しはどういうとき?VARはどう介入する?

サッカーはなかなか得点が入らないスポーツなので、ペナルティーキック(PK)は得点、そして勝敗に直結する重要なプレーです。

攻撃側は得点を取りたいし、守備側は何としても守りたい。だから、キッカーは蹴る瞬間にゴールキーパーの裏をかこうとするし、ゴールキーパーは一歩でもボールに近づこうとしてギリギリの駆け引きをします。また、攻撃側も守備側もインプレーになった瞬間にすぐさまボールに近づきたいので、これまたギリギリで…いや、時に度が過ぎる侵入を目にすることがあります。

このように駆け引きの強いPKの場面ですが、細かなルールがあるので、選手はもちろん、観戦する人たちもちゃんとルールを知っておいてほしいところです。どういうときにやり直しになるのかを確認しておきましょう。また、J1リーグではVARが入りますが、介入の条件についても併せて確認しておきましょう。

PKはいつ、どんな時に行われるのか?

試合中に主審がファウルと判定すると、相手チームにフリーキックが与えられ、ファウルが起こった地点から再開されます。

しかし、ペナルティーエリア内で守備側チームがファウルを犯したときは、攻撃側チームにPKが与えられます。このとき、ペナルティーエリアを示すラインは、ペナルティーエリア内と見なします。

ペナルティーエリア(エリアを示すライン上はペナルティーエリア内)

PKと判定したとき、主審はペナルティーマークを指して笛を吹きます。

主審がペナルティーマークを指して笛を吹く

PKかどうかはVARの介入対象!

VARが介入する事象は、次の4つに関する場合と決められています。

(1) 得点かどうか
(2) PKかどうか
(3) 一発退場かどうか(2枚目の警告は該当しない)
(4) 警告・退場の人間違い PKを与える/与えないに関して「はっきりとした、明白な間違い」または「見逃された重大な事象」があった場合には、VARが介入します。 詳しくはこちらで紹介しています。

num-11235.hateblo.jp

PKを行うときのルール

PKのキッカーは特定されなければならない

PKでは、「誰が蹴るのか」を明らかにしなければなりません。「誰が蹴るのか分からないまま、突然ある選手が蹴る」ようなことは認められていません。

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槙野選手がボールをセットした後、後ろを向いている間に佐藤選手が蹴ったというこのPKシーン、ご存知の方は多いと思います。この得点は認められてしまいましたが、後日、Jリーグは競技規則の適用ミスを認めました。本来ならこのプレーは、後から入ってPKを蹴った佐藤選手を警告し、ゴールに入ったかどうかに関係なく、清水ボールの間接フリーキックで再開となります。

ゴールキーパーゴールライン上にいなければならない

PKのとき、ゴールキーパーは、ゴールポストクロスバー、ゴールネットに触れず、キッカーに面して、ゴールポストの間のゴールライン上にいなければなりません。また、蹴られる瞬間まで、ゴールキーパーは、少なくとも片足の一部がゴールラインに触れているか、ゴールラインの上(空中でも可)、または後方に位置させておかなければならないと定められています。

キッカーとゴールキーパー以外の選手がいる位置は限定

攻撃側・守備側に関わらず、PKのキッカーとゴールキーパー以外の選手は、次の場所にいなければなりません。

下の図の赤で示した場所が、PKが行われるときキッカーとゴールキーパー以外の選手が立ってはいけない場所になります。PKが蹴られるまでにこの場所に侵入すると、PKやり直しになる場合があります(詳しくは後述します)。

PKのとき、キッカーとゴールキーパー以外が立てない場所

助走完了後にフェイントをしてはいけない

キッカーは、助走中はフェイントをしてもかまいませんが、ボールを蹴るためにフェイントをすることは認められません。不正なフェイントをした場合、キッカーに警告が示され、守備側チームの間接フリーキックで再開となります。

キッカーはボールを前に蹴らなければならない

キッカーが蹴る方向は「前」でなければなりません。当然、斜め方向でも前方なら問題ありません。ボールが前方に動くのであれば、バックヒールでも認められます。

キッカーがボールに触れた瞬間からインプレー

競技規則上では、「ボールは、けられて明らかに動いたときインプレーとなる。」と書かれていますが、通常はボールに触れた瞬間が明らかに動いたときですから、PKが蹴られるまで、ゴールキーパーと、キッカー以外の選手は、定められた位置にいなければなりません。蹴られた後は、コーナーアークやペナルティーエリアの中に入って構いません。

キッカーは、他の競技者がボールに触れるまでボールにプレーできない

キッカーは、一度ボールに触れたあとは、他の選手がボールに触れるまでボールに触れることができません。例えば「PKをドリブルする」というようなことはできません。

余談になりますが、以上のことから、このトリックはルール上可能です。

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PKで反則が起こったら?

攻撃側の反則

PKのキッカーや攻撃側の選手が反則(例えば、PKが蹴られる前に攻撃側の選手が侵入した、など)を行った場合は、

  • ボールがゴールに入った場合
    PKやり直しになります。
  • ボールがゴールに入らなかった場合
    主審はプレーを停止し、守備側チームの間接フリーキックで再開となります。

ただし、次の場合は、ゴールに入ったかどうかに関わらず、守備側チームの間接フリーキックで再開となります。

  • PKが後方に蹴られる
  • 特定されたPKのキッカー以外の選手がPKを蹴る
    蹴った選手は警告されます。
  • キッカーの助走完了後に、ボールを蹴るためにフェイントをする
    キッカーは警告されます。

ゴールキーパーの反則

例えば、PKが蹴られる前にゴールラインより前に両足を出した場合などです。

  • ボールがゴールに入った場合
    得点が認められます。
  • ボールがゴールに入らなかった、またはクロスバーゴールポストに当たって跳ね返った場合
    ゴールキーパーの反則が明らかにキッカーに影響を与えたときのみ、PKやり直しになります。
  • ボールがゴールキーパーにセーブされた場合
    PKやり直しになります。

かつてはPKやり直しになる場合は、併せてゴールキーパーが警告されましたが、現在は、一度目のやり直しの時は主審から注意を与え、それ以降のやり直しから警告となります。

守備側のフィールドプレーヤーの反則

ゴールキーパー以外の守備側の選手が、PKが蹴られる前に侵入した場合です。

  • ボールがゴールに入った場合
    得点が認められます。
  • ボールがゴールに入らなかった場合
    PKやり直しになります。

ややこしいので、競技規則には「まとめ」がある

このとおり、まとめの「要約表」があります。この表で覚えるのが一番わかりやすいと思います。(先に出せって…?)

「侵入があってやり直し」なんて見たことない…?

この記事を書こうと思った一番の理由がこれです。

大前提として、ルールから分かることですが、攻撃側にせよ守備側にせよ、PKが蹴られるまでにエリア内に侵入して、何もいいことはありません。ゴールが入っても取り消されたり、PKを防いでもやり直しになったりします。

主審や副審、VARは何を見てるの?

もちろん主審はキッカーとエリアの外にいる選手の反則を、ゴールの近くに立つ副審はゴールキーパーの足を見ます。

副審が仕事をしている様子は分かりやすいと思います。PKが蹴られる前にゴールキーパーゴールラインよりも前に両足を出していたら、副審が旗を上げます。この場合、ゴールキーパーがPKをセーブしてもPKやり直しです。

一方、主審は、エリアの外にいる選手の「侵入」ももちろん見てはいますが、それ以上にキッカーの不正行為、つまりはPKが蹴られる瞬間にキッカーが不正なフェイントをしないかどうかを注視します。

もちろん、厳重に主審と副審が見ていても見逃すことはありますが、VARが入っていれば、リプレイ映像でさらに確認となります。

でも「侵入」は割とよく見る事象なのに、「侵入」が理由でのやり直しって、めったに見ませんよね。なぜでしょう。

その反則が、得点に直結する重大な反則かどうか

競技規則自体には記載がありませんが、その考え方の一端が、VARプロトコル(実施手順)に示されています。

a.得点か得点でないか ・ペナルティーキックを行う時のゴールキーパーやキッカーによる反則や、攻撃側または守備側の競技者がペナルティーエリアへ侵入し、ゴールポストクロスバーまたはゴールキーパーからボールが跳ね返った後、プレーに直接関与した場合。

この記載が「得点かどうか」のところにあるのがポイントです。

「攻撃側または守備側の競技者がペナルティーエリアへ侵入」しただけではVARは介入しません。しかし、PKがゴールキーパーのセーブや、ゴールポストに当たったなどのために跳ね返ってきたあと、早く「侵入」した選手がプレーに直接関与した場合は、「侵入」によって利益を得ていることから、得点かどうかに関係してくることになります。この場合はVARが介入し、プレーに関与した選手だけでなく、全ての選手の「侵入」を主審に報告します。

「侵入」+「何か」 があれば…

これは私個人の捉え方になってしまいますが、実際のところ、「侵入」があったところで、PKがそのまま決まったのなら、「侵入」自体は得点には直結していないのだから、それは得点として認めていいだろう、という考え方があるということです。

だって、早く「侵入」する目的って何ですか?

PKでは多くの場合、ゴールが決まります。プロでは、成功率80%程度だそうで、そのくらい決定的な状況です。

しかし、ボールが跳ね返ってくることも当然ながら起こります。そのときはインプレーなのですから、何らかの形でプレーに関与して、攻撃側なら何とかして得点したいし、守備側なら得点を防ぎたい、と考えることでしょう。だから、一瞬でも早くボールに触るために、ルール上だめだと分かっていても、ほんの一瞬早く中に入ろうとするわけです。

もちろんルールを破って早く入るのはずるいことです。しかし、ほんの一瞬のことなので、主審が血眼になって取り締まっていたら、それよりもっと大きな不正を見逃すことにもなりかねず、それではサッカーの試合になりません。

だから、早く「侵入」したことでその選手が何らかの「利益」を得たときには対処する、というルールの「グレーな運用」になっていると、私は考えています。

実例…これはダメ

PK前に侵入した守備側選手がプレーに関与した

2022年J1リーグ第13節 鹿島vs札幌 PKのやり直し(動画は3:00から)

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ゴールキーパーの菅野選手はこのPKをセーブしますが、PKを蹴る直前、両チームの選手が侵入していました。

この後、菅野選手がはじいたボールは札幌5番の福森選手がクリアしました(画像では時計が巻き戻っているように見えますが、上の写真はリプレイ映像から切り出したものです)。

侵入した選手が、侵入による利益を得たため、このシーンはVARが介入することとなりました。

さて、くしくもこのプレーについて解説されたジャッジリプレイの番組内で、平畠さん

フィールドプレーヤーがペナルティーアークとかペナルティーエリア内に入ったというところでのやり直しになったんだと僕は理解してますけど、厳密に取りだしたら、キリないんじゃないかなって思うんですよ。」
「今回これを取ったということになると、毎回PKのたびにそこばっかり見るようになってきて、1歩入ってた、半歩入ってた、身体が入ってたとかそこばっかりになって、PKの話の流れが変わってくるんじゃないかっていう感覚になりました」

と話していました。

実際、この1年後、以下のプレーでそのような状況になってしまいました。

ゴールキーパーが両足を前に出した

2023年J1リーグ第2節 鹿島vs川崎 PKのやり直し(動画は14:09から)

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両チームのフィールドプレーヤーが侵入していますが、それ以上に、ゴールキーパーが明らかに両足をゴールラインよりも前に置いているので、ゴールキーパーが反則をしたとしてPKやり直しになりました。

これはPKやり直しにならなかった

2023年J1リーグ第3節 横浜FCvs鹿島 (動画は2:47から)

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リプレイをよく見ると、PKが蹴られる前に、ペナルティーエリア左側のほうにいた横浜FCの坂本選手が侵入しています。

Twitter上では、このことを指摘し、前節の鹿島vs川崎戦と比較して、「PKやり直しにすべき」という意見が多数上がっていました。

私は主審が判定した通り、このPKではゴールを認めてよいと考えています。確かに坂本選手の侵入はあるけれど、PKの結果自体には何ら影響を与えていないからです。また、1年前の平畠さんの発言にもある通り、厳密に取り出したらキリがありません。実際、PK時の「侵入」を毎回厳密に取っている主審を私は知りません。

とはいえ、もちろん主審が侵入をチェックして「PKやり直し」とすることは、ルール上正しいので、否定する理由は何もありません。また、審判講習会で講師が聞かれれば、ルール上正しいことを言わざるを得ないでしょう。「競技規則にはこう書いてあるけど、グレーな運用になっているから、その辺は適当でいいよ」などと審判員を育成・指導する講師が言えるはずがありません。

実際のところ、この件は主審のサッカー観によると言っても言い過ぎではないと私は思っています。

まとめ

PKを行うときは細かなルールがあり、得点に直結することなので、選手も観客も、正しくルールを知っておくことが大切です。

特に、ゴールキーパーがPKが蹴られる前に両足を前に出したり、攻撃側も守備側もフィールドプレーヤーが「侵入」することは何もいいことがありません。

しかし、「侵入」に関しては、厳密にチェックしてやり直しにしている運用にはなっていないことも事実です。ルールの精神を踏まえた上で、サッカーの醍醐味を損なわない程度に運用することは、私はあり得ることだと思っています。