2024年4月13日、東京ドームで行われた巨人対広島戦で、観客がフェンス際でファウルフライを捕ることが起こりました。
SNS上では、当該観客の行為や、この行為が守備妨害としないとした審判団の判断に対して批判があります。
適用される規則とともに当該プレイの映像を検証してみたいと思います。
どんなプレイだったのか
8回裏巨人の攻撃。2アウト走者一・二塁。
松原選手が打った飛球が三塁側ファウルスタンドぎりぎりの位置に飛びました。広島の三塁手の田中選手がフェンス際まで追って捕球しようとしたところで、観客が身を乗り出して捕球しました。
別に広島の方持つわけじゃないが、ボールが客席内だから守備妨害ではないってほざいてる奴(審判を含め)居るけど、そうは言ってもこの状況(客席内でも)サードの選手が補球すればアウトになるだろ? pic.twitter.com/dEK93azdvv
— にゃろう (@nyarou4011) 2024年4月13日
審判団の判定は…
三塁塁審の真鍋さんは、ファウルボールと判定しました。
新井監督が判定の確認のため、説明を求めに出ましたが、その後真鍋さんから、
「ファウルフライが、フェンスよりお客さんの席の方で、お客さんが捕りました。これは妨害にはなりません。ファウルとして、(試合を)再開します」
という説明の後、試合が再開されました。
観客の守備妨害にならないのか?
公認野球規則においては、「観衆の妨害」という用語でこの場合についての適用規則があります。
公認野球規則6.01(e) 観衆の妨害
打球または送球に対して観衆の妨害があったときは、妨害と同時にボールデッドとなり、審判員は、もし妨害がなかったら競技はどのような状態になったかを判断して、ボールデッド後の処置をとる。
【規則説明】 観衆が飛球を捕らえようとする野手を明らかに妨害した場合には、審判員は打者に対してアウトを宣告する。
【原注】 打球または送球がスタンドに入って観衆に触れたら、たとえ競技場内にはね返ってきてもボールデッドとなる場合と、観衆が競技場内に入ったり、境界線から乗り出すか、その下またはあいだをくぐり抜けてインプレイのボールに触れるか、あるいはプレーヤーに触れたり、その他の方法で妨げた場合とは事情が異なる。後者の場合は故意の妨害として取り扱われる。打者と走者は、その妨害がなかったら競技はどのような状態になったかと審判員が判断した場所におかれる。
野手がフェンス、手すり、ロープから乗り出したり、スタンドの中へ手を差し伸べて捕球するのを妨げられても妨害とは認められない。野手は危険を承知でプレイしている。しかし、観衆が競技場に入ったり、身体を競技場の方へ乗り出して野手の捕球を明らかに妨害した場合は、打者は観衆の妨害によってアウトが宣告される。(後略)
本件に照らして要点をまとめます。
- 観衆が飛球を捕らえようとする野手を明らかに妨害した場合は、審判員は打者をアウトにする。
- 観衆が境界線から乗り出してインプレイのボールに触れたり、プレーヤーに触れたりしたときは、故意の妨害として取り扱われる。
- 野手がフェンス、手すり、ロープから乗り出したり、スタンドの中へ手を差し伸べて捕球するのを妨げられても妨害とは認められない。
- 観衆が競技場に入ったり、身体を競技場の方へ乗り出して野手の捕球を明らかに妨害した場合は、打者は観衆の妨害によってアウトが宣告される。
ここで、境界線とはどこを指すのでしょうか。
野手からみて「フェンスの向こう側」なので、下の写真①や②で赤い線が境界線となり、それより奥が観客側ということになります。
このように、写真①のアングルで見ると当該観客はグラウンド側に身を乗り出したように見えますが、写真②のアングルで見ると、田中選手のグラブがフェンスの向こう側に行っていて、当該観客のグラブはその奥なので、観客席から出ていないように見えます。
ラインキープの重要性
これは結局、境界線上に目線を置かないと判断ができません。すなわち、ラインキープができていないということです。
ラインキープの重要性は、サッカーワールドカップで「三苫の1ミリ」と言われたあのプレイの検証映像で話題になりましたね。
Japan’s second goal in their 2-1 win over Spain was checked by VAR to determine if the ball had gone out of play.
— FIFA (@FIFAcom) 2022年12月2日
The video match officials used the goal line camera images to check if the ball was still partially on the line or not. pic.twitter.com/RhN8meei6Q
このプレイの後、FIFAからは、角度が変わるとこれだけ見え方が変わるという動画も示されました。
Other cameras may offer misleading images but on the evidence available, the whole of the ball was not out of play. pic.twitter.com/HKKEot0j1Y
— FIFA (@FIFAcom) 2022年12月2日
以下の図は私の推測ですが、①のアングルはバックネット裏三塁側からの映像、②のアングルは一塁側ダッグアウト横のカメラ席からの映像だと考えています。
三塁塁審の真鍋さんは、帽子のアイコンを置いた位置から見ているので、②のアングルに近い角度から見ていて、ファウルボールと判断したのだと推察します。
リプレイ検証したらどうなっていたか
坂井遼太郎さんは、「リクエスト可能なプレイ」だと説明しています。
ちなみに、この『観衆の妨害』については映像検証ができる為、リクエストが可能なプレイとなります。
— 坂井遼太郎 (@ryotarosakai12) 2024年4月13日
もし、チームが判定について納得がいかない場合はリプレイ検証を要求すれば、審判員は映像を使って、観衆の妨害であったかを確認します。
また、「チームがリプレイ検証を要求して、リクエストが行われていれば、『観客の妨害』として判定が変わっていた可能性が高い」とも述べています。
私は、坂井さんのこの見解とは異なり、「チームがリプレイ検証を要求して、リクエストが行っても、当該観客がグラウンド側に身を乗り出して三塁手の守備を妨害したかどうかは判断できない」と考えています。
理由は、もしもリプレイ検証をするのであれば、欲しいアングルは★で示した角度のカメラからの映像になりますが、その映像がDAZNの中継映像で流れなかったからです。位置的には、バックネット裏一塁側のカメラはありそうな気もするのですが、実際にあるのかどうかはっきりしません。
DAZNの中継映像で流れてきた映像だけで判断するなら、「確証のある映像がない」こととなり、審判団の判断にゆだねられることとなって、元の判定を追認することとなりそうだと、私は考えます。
なお、坂井さんの「ルールに詳しければ試合で役に立つことがあるので、ルールは勉強して損することはない」という見解には同意します。
リプレイ検証できる環境・設備を整えたい
野球は日本において明らかに市場規模の大きいスポーツであり、日本代表はオリンピックやWBCで優勝するほどの強さを誇ります。日本プロ野球には、もっと設備投資をしていいのではないかと私は思います。
MLBには、総工費約9億円をかけて設置したリプレイ検証センターがあるそうですが、日本はいまだ、リプレイ検証映像はテレビ中継映像の流用です。テレビ中継映像は、リプレイ検証用に適した角度に設置しているわけではないので、確証をもって判定できない場合も当然出てきます。
今回のプレイも、もっと角度の良いカメラがあればはっきりしたことが言えますが、現状ではこれが限界です。
ぜひ、全力で頑張っている選手のためにも、野球を愛するファンのためにも、そして必死に判定し、理不尽な批判にさらされている審判員のためにも、リプレイ検証ができる環境を整えてほしいと願います。