numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

VARにまつわるよくある誤解

SNSを見ていると、VARについて誤解しているように感じるときがあります。

このブログでは、 ▼VAR制度について解説した記事 もあるのですが、

num-11235.hateblo.jp

こういったVARの制度面とはまた違ったVARに関する誤解も時々見られます。

今回は、私が感じた「よくある誤解」をまとめてみました。

 「VAR」の用語を間違って使っている表現

VAR審判

▶ VARとは「Video Assistant Referee(ビデオ・アシスタント・レフェリー)」の略称で、VAR自体が審判員です。

▶ VAR審判はビデオアシスタントレフェリー審判となって、重ね言葉です。

VARを見る/VARをする

▶ しばしば「主審がフィールド上にあるモニターで映像を見る行為」や、その「モニターそのもの」のことをVARと呼んだり、「主審が空中に長方形を描くこと」「主審が判定を変更すること」をVARと呼んでいる人がいますが、間違いです。

▶ モニターのある所に行くことは「レフェリーレビューエリアに行く」

▶ 映像を確認することは「リプレイを見る」「オンフィールドレビューを行う」

▶ 主審が空中に長方形を描くシグナルは「TVシグナル」

という表現が適切です。

「なんでVARがないんだ?」

▶ VARがない試合のことを嘆いているのなら理解できるのですが、VARが入っているJ1の試合なのであればVARはビデオオペレーションルーム(VOR)にちゃんといて、常に試合を映像で確認しています。心配いりません。

▶ これも恐らく、「なぜVARが介入しないんだ?」「なぜオンフィールドレビューが行われないんだ?」という表現が適切です。

VARの運用についての誤解

「VARが入ってほしい」

▶ 恐らくVARが「介入しない」こと、特にオンフィールドレビューが行われないことへの不満を主張しているのだと思いますが、そもそもVARが介入できる4つの事象に当てはまらなければVARは介入しません。

「今のはイエローが出るべき!どうしてVARが介入しないんだ?」

▶ イエローカードかどうかの事象にはVARは介入しません。2枚目のイエローカードで退場の可能性があっても、イエローカードかどうかの事象なので介入しません。

「VARが介入できる4つの事象に当てはまったのにVARが介入しないぞ!」

▶ まず、VARが介入できる4つの事象が発生すれば、VARは主審から言われずとも、必ずリプレイをチェックしています。VARがチェックを行っているときは主審が耳に手を当てるシグナルをして、チェック中であることを周知します。しかし、このシグナルがなくても、VARによるチェック自体は必ず行われています。

▶ 一方、VARが介入するのは、主審が下した判定に「はっきりとした、明白な間違い」または「見逃された重大な事象」があった場合に限られます。

「せめてオンフィールドレビューすれば納得できるのに…」

▶ 主審がリプレイ映像を見る「オンフィールドレビュー」は、VARが介入した場合に行われます。つまり、主審の判定に「はっきりとした、明白な間違い」または「見逃された重大な事象」があった場合に限られます。

▶ 「際どいプレーだったからこそ、みんなで映像を見て主審が判定すれば納得する」という意見自体は理解できます。しかし、その方法はIFABやFIFAが定めたVARの運用方法(VARプロトコル)では認められていません。誰かの納得感のためにJリーグだけが独自の運用方法をすることはできません。

「VAR介入なしで主審が判定を変えた?」

▶ 誰が映像を見ても変わることのない、事実に基づく判定の場合は、主審がVARからリプレー映像から得られた情報を聞いて判定を変更することがあります。これをVARオンリーレビューといい、VARが介入した結果、主審が判定を変更したのです。

▶ 例えば、パスを受けた選手がオフサイドポジションにいたかどうか、反則が起こった地点がペナルティーエリアの内側か外側かといったものは、通常、VARオンリーレビューとなります。

▶ VARオンリーレビューによる場合も、主審は判定変更の前に必ずTVシグナルをします。

「映像がないってどういうこと?」

▶ VARが映像をチェックし、主審が下した判定に「はっきりとした、明白な間違い」があるといえない場合は、チェックで終了します。

▶ また、ある事象に関してVARが映像をチェックしようとしたものの、その事象がはっきりと確認できない場合もあります。J1リーグでは、VARは12台のカメラ映像を使ってプレーを確認しますが、あらゆる角度、あらゆる距離からプレーを確認できるわけではなく、 これらのカメラで確認できない事象は当然起こりえます。

▶ ときに疑惑の判定があったとき、スタジアムで観戦している人が撮影した映像がSNS上に流れることがありますが、それはVARがチェックしている映像ではありません。

まとめに代えて

VARの制度を理解するために、まずは正しい用語・表現を覚えてほしいです。

言葉を間違って使っていると、意味が通じなくなることが起こります。「私はそんなことを言っていない」「そういう意味では言っていない」と言っても、SNSでは言葉の間違いによって伝えたいことが伝わらなくなることはしばしばです。

また、VARはすべての事象に介入するわけではなく、役割はあくまでも主審の補佐です。全ての判定に正しさを追求するのではなく、試合結果を左右するような判定や事象のうち、「はっきりとした、明白な間違い」をなくすことがVARの基本的な考え方です。ぜひ、VARの役割や介入条件などについても正しく理解してほしいと思います。