メジャーリーグで珍しいプレイが起こりました。
走者がヘルメットを手に持って、そのヘルメットで塁に触れています。このとき触球されたら、セーフ?アウト?
こういう触塁って、果たして認められるのでしょうか。公認野球規則に基づいて私の見解をまとめました。
どんなプレイ?
2024年5月2日、ニューヨーク・メッツ対シカゴ・カブス戦で6回表、カブスのピート・クロウ-アームストロングが右翼線にヒットを放ちました。走っている途中でヘルメットが脱げかけたため、クロウ-アームストロングは、右手でヘルメットを取って、手に持ったまま二塁に滑り込みました。
Pete Crow-Armstrong used his helmet to stay on second base pic.twitter.com/iAVcmZh8nL
— Talkin’ Baseball (@TalkinBaseball_) 2024年5月2日
ライトからの返球を受けたメッツの遊撃手ジョーイ・ウェンドルがクロウ-アームストロングに触球したとき、クロウ-アームストロングの体は二塁ベースから離れていましたが、手に持ったヘルメットが二塁ベースに触れていました。
手に持ったヘルメットで触塁は認められるのか?
走者地震は塁に触れていませんが、走者がヘルメットを手に持って、そのヘルメットで塁に触れています。この状態で触塁しているといえるのでしょうか。
実は、公認野球規則には明確に「ダメ」とは書かれていません。
しかし、私はこれは「アウト」だと考えています。
その理由を、関係するルールをフル活用して考えてみました。
正しく着用した野球用具は身体の一部だが……
定義79 TOUCH「タッチ」
──プレーヤーまたは審判員の身体はもちろん、着用しているユニフォームあるいは用具(ただし、プレーヤーが身に着けているネックレス、ブレスレットなどの装身具は除く)のどの部分に触れても〝プレーヤーまたは審判員に触れた〟ことになる。
野球において〝触れる(タッチ)〟は、身体だけでなく、着用している用具で触れても、触れたとみなします。
- 投球が打者のユニフォームやヘルメットだけをかすめても、死球(デッドボール)になります。
- グラブでボールをつかんで、スパイクで塁に触れても、塁に〝触球〟したとみなします。
しかし、用具を本来つけている個所から外してプレイすることは、野球のルール的に認められていません。代表例がこれです。
公認野球規則5.06(b)(4)
次の場合、各走者(打者走者を含む)は、アウトにされるおそれなく進塁することができる。
(B) 3個の塁が与えられる場合──野手が、帽子、マスクその他着衣の一部を、本来つけている個所から離して、フェアボールに故意に触れさせた場合。
帽子を使ってフライを捕っても、キャッチとはみなされない。
しかも、打者走者を含む各走者に3個の安全進塁権が与えられる。
つまり野手の反則で、重いペナルティまであるわけですね。
ヘルメットは、かぶるもの
では、本件はどうでしょう。対象は帽子ではなく、野手のヘルメットですが、当然ながら、ヘルメットは頭にかぶって使うものです。
公認野球規則3.08 ヘルメット
プロフェッショナルリーグでは、ヘルメットの使用について、次のような規則を採用しなければならない。
(a) プレーヤーは、打撃時間中および走者として塁に出ているときは、必ず野球用ヘルメットをかぶらなければならない。
このとおり、走者はヘルメットを〝かぶって〟いることが求められます。手に持ってプレイすることをルールでは想定していません。
したがって、本来つけている個所から用具を離しているので、正規のプレイとは認められません。
もちろん、クロウ-アームストロングに悪気はなかったと思います。走っている途中でヘルメットが脱げかけたため、スライディングする前から手に持ったのです。
塁審の判定はセーフたが……
このプレイで、塁審はセーフを宣告しました。
とっさのことですし、グラブで塁に触れることが認められているように、ルール上、基本的には「野球用具は身体の一部」という取り扱いになっているから、私もこの塁審の立場だったらセーフを宣告してしまう可能性はあると思います。
しかし、関係する規則をもとに考えていくと、手に持ったヘルメットで塁に触れても、触塁とはみなせないだろう、というのが〝冷静になって〟考えた私の結論となります。
繰り返しになりますが、走者がヘルメットを手に持って、そのヘルメットで塁に触れたら触塁とみなすかどうかは、野球規則に明記がありません。
野球規則に明記がない事象が起こった場合は、審判員が自らの裁量で裁定を下すことが、規則8.01(c)に定められています。
公認野球規則8.01(c)
審判員は、本規則に明確に規定されている事項に関しては、自己の裁量に基づいて、裁定を下す権能が与えられている。
今回のケースは、この8.01(c)を持ち出すことになる事象だろうと思います。
もっとも、8.01(c)は、審判員が勝手にルールを作ってよいというものではなく、公認野球規則の他の条文でどのような考え方をしているか、いわば〝ルールの精神〟に基づいて考えるべきものだと思います。
ちなみに、走者がヘルメットを〝かぶった〟状態で、ヘルメットが塁に触れている場合は、セーフになると私は考えます。正しく着用した野球用具は身体の一部、というのが〝野球のルールの精神〟だと考えるからです。