バッターが途中でスイングを止めたとき、振ったとか振ってないとか、よく議論になるハーフスイングです。
高校野球でも、ちょうど横から撮影していた人がこんなツイートを上げていて、話題になりました。
ハーフスイングのルールや、スイングと判定する基準はどうなっているのでしょう。
実は、ハーフスイングの判定基準はルールブックに載っていない
いきなりごめんなさいなのですが、公認野球規則にハーフスイングの判定基準は書かれていません。よって、審判員の主観で、「振った」と思えばストライク、「振っていない」と思えばボールというのが、究極の結論です。
・・・でも、これではここにたどり着いた方にとっては、何の答えにもならないですよね。
以下、全て「私は、」という前置きがつきますが、私はバットのヘッドがグリップよりも前に来たと思ったら「スイング」と判定しています。
上の図では、Aならスイング。Cはノースイングと判定しています。
でも実際には、たいていBが起こります。かなりきわどいですよね。でも、「きわどい!」「グレー!」などとは判定できないので、そのときに見たもので「振った」か「振っていない」か、どちらかに決断して宣告します。
しかし、バットを止めたときのヘッドの位置を確認できるのはほんの一瞬であることと、球審は捕手の後ろから、塁審は斜め前方から見ているので、図のように真上から見ることはできず、見え方が異なることをご理解ください。
また、これはあくまでも私の中での判定基準であって、どこにも基準は示されていないことを再度強調させてください。
ルールブックには何が書いてある?
ルールブックを全文確認しましたが、ハーフスイングのルールに関する記述があるのは1か所、8.02(c)(3)だけです*1。
8.02(c)(3)と、もう1か所、関係ありそうなところとして「ストライクの定義」を規則本文から引用します。
公認野球規則8.02(c)(3)
審判員が、その裁定に対してアピールを受けた場合は、最終の裁定を下すにあたって、他の審判員の意見を求めることはできる。裁定を下した審判員から相談を受けた場合を除いて、審判員は、他の審判員の裁定に対して、批評を加えたり、変更を求めたり、異議を唱えたりすることは許されない。…(中略)
【原注2】ハーフスイングの際、球審がストライクと宣告しなかったときだけ、監督または捕手は、振ったか否かについて、塁審のアドバイスを受けるよう球審に要請することができる。球審は、このような要請があれば、塁審にその裁定を一任しなければならない。
塁審は、球審からのリクエストがあれば、ただちに裁定を下す。このようにして下された塁審の裁定は最終のものである。(以下略)定義73 STRIKE「ストライク」
──次のような、投手の正規な投球で、審判員によって〝ストライク〟と宣告されたものをいう。
(a) 打者が打った(バントの場合も含む)が、投球がバットに当たらなかったもの。
(b) 打者が打たなかった投球のうち、ボールの一部がストライクゾーンのどの部分でもインフライトの状態で通過したもの。
(c) 0ストライクまたは1ストライクのとき、打者がファウルしたもの。
(d) バントして、ファウルボールとなったもの。
【注】 略
(e) 打者が打った(バントした場合も含む)が、投球がバットには触れないで打者の身体または着衣に触れたもの。
(f) バウンドしない投球がストライクゾーンで打者に触れたもの。
(g) ファウルチップになったもの。
ルールブックではこのとおりです。「ストライクの定義」にもハーフスイングのことは書いてありませんでした。
ルールブックから分かること
大原則として、ボール/ストライクの判定権限は球審にあります。ですから、ハーフスイングが起こったときも、まずは球審が判定します。
球審が「振った」と思ったら「スイング!」と宣告してストライクをカウント、「振っていない」と思えば「ボール」を宣告します。
この時、8.02(c)(3)【原注2】に記載のとおり、球審が「ストライク」を宣告しなかった、つまり「ボール」の判定のとき、監督または捕手に限って、塁審のアドバイスを受けるよう球審に要請できます。
球審に要請できるのは、監督または捕手だけです。投手や他の野手には認められていません。監督または捕手が要請できるのは球審に対してであり、直接塁審に要請することはできません。プロ野球でよく、捕手が塁審を指差すことがありますが、本来は不適切です。
打者にも、球審への要請は認められていません。「振っていない」とアピールしたり、塁審のアドバイスを受けるようにしつこく言ったりすると、投球判定への異議と見なされ、警告の後、退場を宣告される場合があります。
球審は、この要請を受けたら、塁審にその裁定を一任しなければいけません。塁審は、球審からの要請を受けてはじめて、ボール/ストライクの判定ができ、塁審の判定が最終的な投球判定となります。
そもそも球審に課せられている最重要任務は、投球のボール/ストライクの判定。投球がストライクゾーンを通っていればハーフスイングが止まっていたってストライクなのですから、投球を見極めるほうが大切です。その上で、ハーフスイングのチェックは、角度的に確認しづらいので塁審に裁定を委任できる、監督や捕手から要請があれば塁審に委任しなければいけない、というルールになっているのでしょう。
結局、判定権限のある審判員が決断するしかない
冒頭の高校野球の事例では、球審が「スイング」と判定しました。これに対して「誤審だ」といった意見が多数ツイートに上がっていましたが、この件は「誤審」かどうかを論評することもできません。
もし私がこの試合の塁審で、球審から要請を受けたら、「ノースイング」と判定すると思います。
「では、当該球審の判定は誤審ということか」という質問が来るかと思いますが、この判定は「誤審とはいえない」。
それはなぜかというと、球審の視点からは「振った」と見えたのでしょう。それは実際に球審の視点から見ないと分からない。また、ここまで述べてきたとおり、仮に球審の目線での映像があったとしても、その判定基準は審判員の主観に委ねられているので、意見が分かれて当然。正直なところ、投球判定のボール/ストライクよりもさらにあいまいです。
そして、繰り返しになりますが、この件は、球審が振ったと思えば「スイング」で、ストライクです。そして、球審がストライクを宣告したら、それで判定は最終であり、誰にも(選手はもちろん、塁審にも、球審自身にも)判定を変えることはできません。それが野球のルールです。
きわどいプレイがあったときに、思ったものと異なる判定が出ると今回のように多くの人から反応がありますが、なぜそういう判定になるのか、までを考えてみてほしい、そして選手だけでなく審判員も一生懸命やっていることに思いをはせてほしいな、と審判目線で野球を見ている者は思いました。
*1:なお、5.04(b)(4)に「チェックスイング」という用語が出てはきますが、この項目はバッターボックスルールで、ハーフスイングについてのルールの言及はありません。