numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

プレイが止まっていないけど、走塁妨害適用。

2022年6月3日、セ・パ交流戦 広島vsオリックスで走塁妨害が発生しました。

この記事は、このプレイについて「何が走塁妨害なのかよく分からん!」という人向けに、審判目線でルールを解説します。また、野球規則を勉強されていて、走塁妨害の(1)と(2)の違いについて知りたいという方にはうってつけの事象です。

ルール用語がやや多めになりますが、ぜひお付き合いください。

どんなプレイだったの?

4回表 2死一・二塁で、オリックス太田選手の打球は三遊間へ。広島の三塁手の坂倉選手が打球を追いましたが届かず、打球はレフト前に抜けました。

オリックスの二塁走者 野口選手は、打球に届かなかった坂倉選手を避けたあと、三塁を蹴って本塁へ。レフトからの送球を受けた捕手が野口選手に触球し、球審はアウトを宣告しました。

しかし、この直後、三塁塁審がタイムをかけ、審判団が協議。坂倉選手の走塁妨害(オブストラクション)を宣告し、二塁走者 野口選手のアウトを取り消し、得点を認めました。

www.youtube.com

なぜ走塁妨害?

ホームで何かあったんじゃないの?

本塁でのタッグプレイのところではなく、打球が三遊間を抜けていくときに、三塁手の坂倉選手が二塁走者 野口選手の走塁を妨害したという判定でした。

野球は守備優先じゃないの?

確かに、野球は「守備優先」というのが大原則です。

公認野球規則6.01(b) 守備側の権利優先

攻撃側チームのプレーヤー、ベースコーチまたはその他のメンバーは、打球あるいは送球を処理しようとしている野手の守備を妨げないように、必要に応じて自己の占めている場所(ダッグアウト内またはブルペンを含む)を譲らなければならない。

ボールは意志を持たないので、基本的に球技では、プレーヤーがボールに合わせて動かなければいけません。野球は、飛んでくるボールを野手が守備することで成り立つスポーツなので、最も動きが制限され、そのために優先されるべきは「守備をしている野手」ということになります。

しかし、守備を行っていないときは、グラウンド中を自由に動けるのですから、決められた走路を走らなければならない走者よりも優先順位が下がります。そうでなければ、野手がいつまでも走者の走路に居座ることができてしまいますね。

「公認野球規則」の定義51に、このことについての説明が書かれています。

公認野球規則 定義51 OBSTRUCTION「オブストラクション」(走塁妨害)

──野手がボールを持たないときか、あるいは ボールを処理する行為をしていないときに、走者の走塁を妨げる行為である。(6.01h1・2)
【原注】 ここにいう〝野手がボールを処理する行為をしている〟とは、野手がまさに送球を捕ろうとしているか、送球が直接野手に向かってきており、しかも十分近くにきていて、野手がこれを受け止めるにふさわしい位置をしめなければならなくなった状態をいう。これは一に審判員の判断に基づくものである。野手がボールを処理しようとして失敗した後は、もはやボールを処理している野手とはみなされない。たとえば、野手がゴロを捕ろうとしてとびついたが捕球できなかった。ボールは通り過ぎていったのにもかかわらずグラウンドに横たわったままでいたので、走者の走塁を遅らせたような場合、その野手は走塁妨害をしたことになる。

つまり、グラウンド上での優先順位をあえて番号を付けて書き出すと、

  1. ボールを処理しようとしている野手
  2. 走塁している走者
  3. ボールに対して守備を行っていない野手

となります。

では、実際のプレイの映像で確認してみましょう。

上の写真で、打球はすでに三遊間を抜けきっています。守備機会を失った三塁手の坂倉選手は、(打球を追うために走った位置が二・三塁間であったことは事実ですが)二・三塁間の走路にとどまったままでした。実際、野口選手は坂倉選手との接触を避けるため急激に速度を落とし、転倒しないようにと両手を大きく振ってバランスをとり、マウンド側に膨らんで走塁しています。

そのため、二塁走者 野口選手の走塁の妨げになっていると審判員に判断され、走塁妨害がなかったらできたであろう得点を認め、本塁セーフに判定が変更されました。

走塁妨害なら、なぜすぐにタイムをかけないの?

「ホームでタッチアウトを球審が宣告したのに、後から走塁妨害っていうのが納得いかない。」といった意見も目にしました。

気持ちは分かります。

しかし、リプレイをよく見ると、球審がアウトを宣告した直後に三塁塁審がタイムを宣告しています。下の画像で分かりますか?球審がアウトを宣告したその直後に、もう三塁塁審が両手を挙げています。

このことを考えると、(以下はリプレイ映像で確認できないので推測ですが)三塁塁審は、走塁妨害発生時点で三塁手 坂倉選手を指さして「オブストラクション」と宣告しているはずです。

これは、野球規則に基づいた正しい手続きで、今回のような場合は、一段落するまでプレイが続けられることになっています。

公認野球規則6.01(h) オブストラクション

オブストラクションが生じたときには、審判員は〝オブストラクション〟を宣告するか、またはそのシグナルをしなければならない。
(2) 走塁を妨げられた走者に対してプレイが行なわれていなかった場合には、すべてのプレイが終了するまで試合は続けられる。審判員はプレイが終了したのを見届けた後に、初めて〝タイム〟を宣告し、必要とあれば、その判断で走塁妨害によってうけた走者の不利益を取り除くように適宜な処置をとる。

今回のプレイに即して説明すると、三塁塁審は(おそらく)「オブストラクション」のシグナル(当該野手を指差す)をした後、タイムをかけずに、プレイをそのまま継続させました。そして、本塁でのタッグプレイが行われたタイミングで「一段落した」と判断、タイムを宣告してプレイを止めました。

一部の報道では「オリックスベンチは走塁妨害を要求」といった記述がありますが、仮にオリックス側からの指摘があったとしても、それを受ける前から審判員は自身の判断で、走塁妨害の対応を始めていました。

ちなみに審判の業界用語では、すぐにタイムをかけない走塁妨害の対応のことをオブストラクションの(2)項(かつては(b)項と呼んでいました)と言って、意識的に覚えるようにしています。

このプレイで走塁妨害を取られないようにするには…?

なかなか難しい質問です。非現実的と言われるのも承知の上で、あえて回答を書いてみます。

  • もちろん、坂倉選手が捕球できていれば、走塁妨害にはならなかった。
  • 取れなかった打球を目で追ってしまう気持ちは理解できるが、二塁走者をほとんど意識しておらず、打球が抜けたときに走者の位置を確認していなかったことはまずかった。
  • そのまま二塁ベース方向に動きながら塁間にとどまったのはかなりのマイナス印象。捕球できないと分かった時点で、速やかに走路の外に走り出ればよかった。

まとめ

  • 守備機会がなくなった野手は、「守備優先」の原則から外れる。
  • 坂倉選手は、打球に集中していて走者の位置を確認していなかった。一方、野口選手は、接触しないように坂倉選手を避けており、その結果、膨らんで走ることになった。
  • そのため、本件は「走塁妨害」が適用され、妨害がなければ本塁到達できていたという審判員の判断で、得点が認められた。
  • 審判員は、オリックス側の指摘を受けずとも、プレイが一段落した時点で自らすぐにタイムをかけ、走塁妨害の処置を協議していた。オリックス側に言われて判定変更したのではない。

走塁妨害についてより詳しく知りたい方は…

以前、走塁妨害を扱った記事として、2021年7月11日 ソフトバンクvsオリックスでのプレイを題材とした「ランダウンプレイと走塁妨害」があります。走塁妨害についてより詳しく知りたい方は、こちらも併せてご覧ください。 num-11235.hateblo.jp