2023年7月28日、楽天vs西武戦で5回表の攻撃。
二死一・二塁で長谷川選手はレフト前にヒット。二塁走者の栗山選手が三塁に向かう途中、ベース手前で三塁手のマイケル・フランコ選手と接触しました。
栗山選手は三塁到達後、三塁塁審に接触をアピールしました。三塁塁審の笠原さんは、三塁を指差します。審判団の協議後、球審の長川さんが場内アナウンスで、
「三塁のところで走塁妨害がありました。しかしながら協議の結果、本塁には到達できないと判断して、二死満塁で試合を再開します」と説明。
栗山が三塁到達時点でまだレフトが捕球するしてないんやけど、このタイミングで到達出来て無いって判定ならタッチアップの場面でも走塁妨害したら防げるって話なのね、なるほど🙄#seibulions #走塁妨害 pic.twitter.com/rhe6qa2Cy2
— ウマフク (@Meisho_Umafuku) 2023年7月28日
以前にも、走塁妨害があっても進塁できないケースについて解説記事を書いたことがありますが、今回のケースは「走塁妨害なら進塁できるのでは?」と疑問に思い、この裁定に納得のいかない人が多いようなので、改めて解説を書いてみます。
これを機に、走塁妨害のルールについて理解を深められたら幸いです。
走塁妨害なんだよね?
はい、走塁妨害です。
しかし走塁妨害なら、必ず進塁できるというものでもありません。
今回の事例は、走塁を妨げられた走者に対してプレイが行われていない場合(これをオブストラクション(2)項といいます)にあたります。
※オブストラクションとは、走塁妨害のこと。
「走者に対してプレイが行われていない」とはどういうことかというと、走塁妨害発生時点では、レフトに飛んだ打球を左翼手が処理している段階。したがって、守備側が今まさに栗山選手をアウトにしようとプレイしている状況ではありません。
オブストラクション(2)項の処置の仕方
このような場合、審判員は、「走塁妨害(オブストラクション)」を宣告するが、プレイを止めず、そのまま継続させます。そして、プレイが一段落したところでタイムをかけます。適用規則は以下のとおりです。
公認野球規則6.01(h) オブストラクション
オブストラクションが生じたときには、審判員は〝オブストラクション〟を宣告するか、またはそのシグナルをしなければならない。
(2) 走塁を妨げられた走者に対してプレイが行なわれていなかった場合には、すべてのプレイが終了するまで試合は続けられる。審判員はプレイが終了したのを見届けた後に、初めて〝タイム〟を宣告し、必要とあれば、その判断で走塁妨害によってうけた走者の不利益を取り除くように適宜な処置をとる。
この規則のポイントは、次の3点です。
- 走塁妨害があったら、オブストラクションの宣告・シグナルをしなければならない
- 「走者に対してプレイが行われていない」ときは、直ちにタイムをかけず、プレイを見届ける
- 必要があれば、妨害を受けた走者の不利益を取り除く処置をする
接触があってもその時点で審判員はタイムをかけません。プレイは継続中なので、走者は走塁を続けなければいけないし、野手はアウトにしようと守備を続けなければいけません。
そして、プレイが一段落してから、審判員は、妨害を受けた走者に生じた「不利益」を必要に応じて取り除く処置をとります。
つまり、「不利益を取り除く」のであって、「必ず進塁させる」わけではありません。
実際のプレイは…
栗山選手は、このとき三塁塁審に走塁妨害を主張して、走塁をやめてしまいました。
もちろん、栗山選手の主張を聞くまでもなく、三塁塁審の笠原さんは走塁妨害と判定していて、妨害があったことを示す「指さし」をしています。
しかし、栗山選手は走塁せず、三塁にとどまりました。そのため、笠原さんは、ここから本塁に到達するとは判断できないとして、そのまま三塁に留め置く裁定をしました。
もし栗山選手が走塁し続けていたら…
栗山選手が三塁で走塁をやめず、そのまま本塁に突入していたらどうなっていたでしょう。
三塁塁審・笠原さんは、走塁妨害のシグナル「フランコ選手を指さす」をしたまま、タイムをかけずにプレイを見守ります。
そして、恐らく本塁クロスプレイになったでしょうね。
球審の長川さんは、アウトかセーフかを判定するタイミングで、両手を挙げてタイムを宣告し、続けて三塁塁審・笠原さんを指し示します。すると笠原さんは改めて走塁妨害を宣告し、多分、本塁を指差します。そして、球審・長川さんが栗山選手にホームを踏み直すよう促して、得点を宣告。
「ただ今のプレイについて説明します。三塁のところで走塁妨害がありました。妨害がなければ本塁に到達できたと判断して、二塁走者の得点を認め、二死一・二塁で試合を再開します」
という説明になったことでしょう。
じゃあ、得点を認めてもよかったのでは?
…という意見が恐らく来ることと思います。
しかし、繰り返しになりますが、オブストラクション(2)項はボールインプレイ。審判員がタイムをかけたタイミングで、まさに本塁に到達しようとしている状況なら得点は認められるでしょう。
今回は栗山選手が走塁をやめて三塁にとどまっています。そのため、間違いなく安全に本塁に到達できたかどうかを、確証をもって判断できないのです(言い換えると、妨害がなくても本塁クロスプレイになっていた可能性も否定はできないということ)。走者が到達していない先の塁を審判員が与えるためには、それなりの根拠が必要なんです。
走塁妨害って進塁できるんじゃなかったの?
妨害を受けた走者が必ず1つ以上先の塁に進塁できるルールは、確かにあります。
実はそれは、オブストラクション(1)項。ランダウンプレイの時など、走者に対してプレイが行われているときに妨害があった場合のルールになります。
長くなってしまうので、詳細は過去に(1)項について解説した記事で。
まとめ
審判員が両手を挙げるまではボールインプレイ。プレイは続いているのですから、選手は勝手にプレイをやめてはいけません。走塁妨害だということを主張するなら、本塁クロスプレイが起こった後でも十分にできました。
冷たいものの言い様になってはしまいますが、今回は、栗山選手が走塁をやめていなければよかった。これにつきます。