スリーフットレーンという名前をご存知ですか?
一塁側のファウルラインと、本塁一塁間の中間点から一塁方向にかけてファウルグラウンドにかかれているスリーフットラインで囲まれた、幅3フィート(91.44cm)の地帯のことです。
野球を見たことがある方なら、もしかしたら名前は知らなくても、それがかかれていることは何となく見た記憶があることと思います。
野村克也氏がかつて何のためにあるのかと問われ「飾りだろ」と答えたとか何とか(真偽不明)。ファウルラインに比べると、スリーフットレーンの存在理由は、あまり知られていない感じがします。
スリーフットレーンと守備妨害
実はスリーフットレーンは、打者走者の守備妨害の判定に影響してくるのです。
打者走者がバントなどで本塁周辺にゴロを打った場面を想定します。本塁周辺に転がった打球を捕手が処理し一塁に送球、一塁手が一塁ベースをカバーしているとしましょう。打者走者は背後にいる捕手がどこから送球し、どのような軌道で来るか見えません。しかも、その送球を受ける一塁手に向かって走るのですから、結果的に送球コースに入ってしまうことは十分起こりえます。
この状況を逆手にとって、わざと送球コースに入る打者走者も考えられます。
そこで、次の規則が設けられています。
公認野球規則5.09(a)(11)
一塁に対する守備が行なわれているとき、本塁一塁間の後半を走るに際して、打者がスリーフットラインの外側(向かって右側)またはファウルラインの内側(向かって左側)を走って、一塁への送球を捕らえようとする野手の動作を妨げたと審判員が認めた場合(打者はアウトとなる)。この際は、ボールデッドとなる。
ただし、打球を処理する野手を避けるために、スリーフットラインの外側(向かって右側)またはファウルラインの内側(向かって左側)を走ることはさしつかえない。
【原注】 スリーフットレーンを示すラインはそのレーンの一部であり、打者走者は両足をスリーフットレーンの中もしくはスリーフットレーンのライン上に置かなければならない。
実例で確認、これは守備妨害になります
打者走者の守備妨害で試合終了となった、日本シリーズの伝説のプレイ
日本で、スリーフットレーン内を走らなかったことで守備妨害が宣告された事例と言えば、2014年日本シリーズ ソフトバンクvs阪神 第5戦の西岡選手の走塁が有名です。
1対0で迎えた9回表、1死満塁で打者は西岡。打球は一塁ゴロ。併殺するため、一塁手は本塁に送球。三塁走者をフォースアウトにした捕手が一塁に付いた一塁手に再び送球、すると送球が打者走者の西岡の背中に当たりました。
ボールが一塁側ファウルグラウンドを転々、二塁走者が本塁に突入とプレイが混乱する中、球審は守備妨害で西岡にアウトを宣告、試合終了としました。
この判定は物議を醸し、こういった検証用のスロー映像もアップされました。
これを見ると、明らかに西岡選手が両足をスリーフットレーンの中に入れて走塁していないことが分かります。
先ほど紹介した規則5.09(a)(11)では、「一塁への送球を捕らえようとする野手の動作を妨げたと審判員が認めた場合」となっていて、打者走者の動きが故意であったかどうかは関係なく、妨げになったと審判員が判断すれば守備妨害です。
ランナーはどこを走ればいいんだ?って、それはもちろん…
WORST CALL!!
— Darren M. Haynes (@DarrenMHaynes) 2022年6月7日
How can they make that call against Maryland?
Where is the runner supposed to go? @TerpsBaseball pic.twitter.com/VvGV7UF6on
打者走者と一塁手が交錯。どうにも接触が避けられない状況で、打者走者は何も悪くないように見えます。しかし、先ほどの西岡のプレイと同様、この打者走者はスリーフットレーンの外(フェア地域)を走っています。
したがって、故意に接触しようとする意図があったかどうかは関係なく、守備の妨げになったと審判員が判断すれば守備妨害です。
ランナーはどこを走ればいいのか。
その答えは明確で、スリーフットレーンの中です。もし、打者走者がスリーフットレーンの中に両足を入れて走っていたら、この場合は恐らく守備妨害・走塁妨害のどちらにもならなかった(ナッシング)と考えられます。
絶対にスリーフットレーンの中を走らなければいけないの?
そんなことはありません。
野球では、通常は走者の走路として塁間が定められていますが、走者がトップスピードで走っているときに、塁のところで直角に曲がるなんて、普通に考えると無理ですよね。
打者走者に限らず、走者に対して守備が行われていないときは、走路を外れて走塁していても、おとがめはありません。実際、走者が大きく膨らんで走る様子を見たことがあると思います。
また、走者が走路を外れて走塁しているときに触球されそうになった時は、その時走者がいる位置から、進もうとしている塁までをまっすぐに線分で結び、その両側3フィート分が走路として認められます。
まとめ
- スリーフットレーンは、一塁に対する守備が行なわれているとき、打者走者が走らなければならない場所として定められている。
- 打者走者はこの時、両足をスリーフットレーンかライン上に置いていなければならない。
- 打者走者がスリーフットレーンの外を走って、一塁への送球を捕らえようとする野手の動作を妨げたと審判員が認めた場合は、妨害する意図の有無に関わらず、守備妨害が宣告される。
実際に守備妨害が発生したときは、審判員もとっさの判断が必要になります。規則をしっかり頭に入れておき、しかも走者や野手の行動をよく見ていないと、守備妨害か走塁妨害か、どちらでもないかの見極めは非常に難しいです。
それを瞬時に見極めて判定できるのがプロの審判員です。リプレイを何回も繰り返し見てやっと何が起こったのか理解できるようなレベルのものでも、プロ野球の審判員はその一瞬で見極め、判定を下しています。もちろん人間なので、時にはミスが起こることもありますが、このレベルで判定できるには、相当な訓練が必要になります。
納得ができない判定があったとき、瞬間的に「誤審」とか「疑惑」とかといった言葉で審判を批判する前に、ぜひ、ルールを確認してみてほしいと思います。ルールを知っていれば、野球観戦がもっと楽しくなりますよ。