numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

コリジョンルール適用場面の一考察。捕手は送球をどう受ければよいのか

2022年8月18日の日本ハムvs楽天戦で4回裏、炭谷選手の本塁でのプレイで、コリジョンルール適用かどうかについてのビデオ判定が行われました。結論は、コリジョンルールを適用せず。本塁アウトの判定は変わりませんでした。

Twitter上では様々な反応がありましたが、代表的なものとしては

  • 炭谷選手が走路に入っているのにコリジョン適用されないのは納得いきません
  • 炭谷はブロックしている。コリジョンが適用されないなら走者は突っ込むしかないのか?

といった、コリジョンルール適用とならなかったことへの不満。

そして、新庄監督に代表される、

  • 故意に走路側に送球できてしまうのでは。じゃあ、そういう練習をすればいいんじゃないか。わざと。
  • 怪我防止が目的のルールのはずなのに、目的とルールが噛み合ってない気がする

など、コリジョンルールの運用についての疑問がありました。

実は私、昨年も炭谷選手のこの守備▼

について、これがなぜコリジョンルールの適用にならないのか、という議論をきっかけにコリジョンルールの解説記事▼

num-11235.hateblo.jp

を書いたのですが、今回は、特に捕手の守備に焦点を絞って、適用される場合とされない場合の違いなどを見ていきたいと思います。

コリジョンルールの内容の確認

まずは、ルールを確認しましょう。コリジョンルールとして定められている、公認野球規則6.01(i)は、(1)項で走者のタックル禁止(守備妨害)に関する規定、(2)項で捕手のブロック禁止(走塁妨害)に関する規定が設けられています。

今回は(2)項に焦点を当てていきます。(2)項のルール本文を引用します。

公認野球規則 6.01(i) 本塁での衝突プレイ (2)

 捕手がボールを持たずに得点しようとしている走者の走路をブロックすることはできない。もし捕手がボールを持たずに走者の走路をブロックしたと審判員が判断した場合、審判員はその走者にセーフを宣告する。前記にかかわらず、捕手が送球を実際に守備しようとして走者の走路をふさぐ結果になった場合(たとえば、送球の方向、軌道、バウンドに反応して動いたような場合)には、本項に違反したとはみなされない。また、走者がスライディングすることで捕手との接触を避けられたならば、ボールを持たない捕手が本項に違反したとはみなされない。
  本塁でのフォースプレイには、本項を適用しない。
【原注】 捕手が、ボールを持たずに本塁をブロックするか(または実際に送球を守備しようとしていないとき)、および得点しようとしている走者の走塁を邪魔するか、阻害した場合を除いて、捕手は本項に違反したとはみなされない。審判員が、捕手が本塁をブロックしたかどうかに関係なく、走者はアウトを宣告されていただろうと判断すれば、捕手が走者の走塁を邪魔または阻害したとはみなされない。また、捕手は、滑り込んでくる走者に触球するときには不必要かつ激しい接触を避けるために最大限の努力をしなければならない。滑り込んでくる走者と日常的に不必要なかつ激しい接触(たとえば膝、レガース、肘または前腕を使って接触をもくろむ)をする捕手はリーグ会長の制裁の対象となる。

規則本文は厳密に伝えるため、どうしても表現が難解になりがちなのですが、(2)項のルールのポイントを私なりに整理すると、次の4点にまとめられます。

  1. ボールを持たずに走者の走路をブロックすることはできない。
  2. 捕手が送球の方向、軌道、バウンドに反応して、送球を実際に守備しようとして走者の走路をふさぐ結果になった場合には、本項に違反したとはみなされない。
  3. 走者がスライディングすれば捕手との接触を避けられた、または捕手のブロックがあったかどうかに関係なくタイミング的に走者はアウトだ(明らかに遅かった)と判断できる場合は、捕手が走者の走塁を妨害したとはみなされない。
  4. 本塁でのフォースプレイには、本項を適用しない。(初めから本塁を踏んで送球を待つのは当然だから)

3.の「明らかに遅い」とは、走者が滑り込む前にもう捕手にボールが渡っている、クロスプレイを考えるまでもなく、もう結果が見えている状況と考えてください。

では、今説明したルールを頭に入れて、動画で2つのプレイを見比べてみてください。

コリジョン適用と不適用のプレイの比較

コリジョン不適用の例(2022年8月18日、楽天・炭谷選手)

冒頭で紹介した、2022年8月18日の炭谷選手の本塁でのプレイです。

コリジョン適用の例(2016年6月14日、西武・上本選手)

NPB公式戦で、コリジョンルール適用によって初めてサヨナラゲームになった場面です。

www.youtube.com

それぞれ動画でプレイを確認していただいたことと思います。コリジョンルール適用になるかどうかは、どこに違いがあったのでしょう。

捕球した位置はほぼ同じだが…静止画で比較

先ほど見ていただいた動画から、ポイントとなる瞬間を静止画で5コマずつ紹介します。送球が来るまで、両選手はどのように動いているでしょうか。

炭谷選手の場合

ライトからの返球直後。炭谷選手は本塁前で送球を待つ

送球は一塁の横を通過。炭谷選手は三塁線側に移動

送球はダートサークル手前。炭谷選手の左足は三塁線上、ファウルグラウンド側の走路はまだ空けている

送球がダートサークルに到達、炭谷選手は捕球体制に入るため走路に左足を置く

このように、炭谷選手は、ボールが十分本塁に近づいてきて、「その送球を捕るためには、今、走路に入るしかない」というタイミングで走路に入っています。それまでは、ファウルラインの外側(三塁ファウルグラウンド側)の走路を空け、走者が走りこんでこれるようにしています。

炭谷選手は塁線上で捕球。近藤選手は塁線から1m程度外れたところを走塁

もっとも、走者の近藤選手の立場で考えると、ほぼまっすぐ本塁に走ってきていたところに急に炭谷選手が出てきた、接触を避けるためには炭谷選手を回り込むしかない、と感じるかもしれません。

上本選手の場合

リプレイ映像で上本選手の立ち位置を最初に確認できる瞬間。送球は二塁とマウンドの間あたりで、上本選手は本塁前から三塁線上に移動している

送球はまだマウンドの後方。上本選手が三塁線に移動完了

送球はまだ三塁とマウンドの間よりも後ろ。上本選手は三塁線をまたいでいる

送球は三塁とマウンドの間くらい。上本選手はすでに中腰の体勢で送球を待っている

このように炭谷選手と比較すると、上本選手の場合は、外野からの送球がまだ本塁まで20mほどの位置で、「その送球を捕るためには、今、走路に入るしかない」というタイミングよりも早い段階から走路に入っています。

この差は、時間にして0.5~0.6秒程度。わずかだと思う人もいるでしょうが、走者がトップスピードで走っていたら4mほど進むことができる時間です。

上本選手は塁線上の構えた位置で捕球。走者はこの位置からスライディング

結果的に走者の菊池選手は、確認できる限り塁線から3~4m離れた芝と土の境目あたりを走塁し続けていました。

コリジョンルール適用の分かれ目は…

お分かりになった方も多いと思いますが、コリジョンルールを適用するかどうかのポイントは、捕球する瞬間の動きではなく、ボールを持たないうちから捕手が走路に立って走路をふさいでいたかどうかです。

野球は守備優先が原則です。ボールという物体には意思がないので、守備しようとする野手は、飛んできたボールに合わせて動く必要があり、どうしても行動を制限されます。たとえ走路であっても捕球しに行くことが許されなければ、送球がそのまま抜けてしまい、攻撃側は走り放題になって、野球というゲームが成立しなくなります。

だからといって、常に走塁をふさぎ続けることは許されません。それは走塁妨害です。公認野球規則では、ボールを持たずに、または実際に送球を守備しようとしていないときに走路をふさぐことは認めない、としています。

よって、比較のために見ていただいた動画ではどちらも解説者が「明らかに捕手が走路にいた」と解説していましたが、捕手が走路で守備をすること自体は認められますので、コリジョンルールに対して誤解が生じていた可能性があるように思われます。

ポイントは、ボールを持たない捕手が送球をどう待って、どのタイミングで走路に入ったか。

これによって、コリジョンルール適用の可否が決まります。当然ですが、ボールを持った後は、走者をアウトにするためならどのように動いても問題ありません。これについても誤解なきよう。

「じゃあ、そういう練習をすればいいんじゃないか。わざと。」に対して

そうですね。隠し球と一緒で、勝つために、ルールの中で知恵を絞ることは否定しません。

プロならできるのかもしれません。捕手が走路に入って捕球せざるを得ない位置に送球し、本塁に突っ込んでくる走者を上手にアウトにする練習。

もしかしたら、すでに炭谷選手はそういう練習をしているのかもしれませんね。プレイを2回見て、2回ともきちんと「その送球を捕るためには、今、走路に入るしかない」というギリギリのタイミングで走路に入っていますから…。ルールをよく理解し、ルールの中で上手に守備をしているということではないでしょうか。

《以下は参考までに》アマチュア野球での解釈

公認野球規則は全ての野球の試合のルールなのですが、日本のアマチュア野球においては、「公認野球規則適用上のアマチュア野球規則委員会の統一解釈を収録したもので、公認野球規則と同等の効力を持つもの」として、「アマチュア野球内規」が定められています。Googleで検索すれば、いずれかの野球連盟のサイトでPDF文書に行き当たります。何年版のものなのかを確認する必要があるのでご注意ください。

また、特に高校野球においては「高校野球特別規則」が定められていて、高等学校野球連盟のホームページで公開されています。

ここでは、それぞれについて、コリジョンルールに関する解釈がどうなっているかを確認しましょう。

なお、以下に出てくる用語で「オブストラクション」とは、走塁妨害のことです。

マチュア野球内規 ⑩危険防止(ラフプレイ禁止)ルール

本規則の趣旨は、フェアプレイの精神に則り、プレーヤーの安全を確保するため、攻撃側および守備側のプレーヤーが意図的に相手に対して体当たりあるいは乱暴に接触するなどの行為を禁止するものである。
3. タッグプレイのとき、捕手または野手が、明らかにボールを持たずに塁線上および塁上に位置して、走者の走路をふさいだ場合は、オブストラクションが厳格に適用される。
 なお、捕手または野手が、たとえボールを保持していても、故意に足を塁線上または塁上に置いたり、または脚を横倒しにするなどして塁線上または塁上に置いたりして、走者の走路をふさぐ行為は、大変危険な行為であるから禁止する。同様の行為で送球を待つことも禁止する。このような行為が繰り返されたら、その選手は試合から除かれる場合もある。
ペナルティ
 捕手または野手がボールを保持していて、上記の行為で走者の走路をふさいだ場合、正規にタッグされればその走者はアウトになるが、審判員は捕手または野手に警告を発する。走者が故意または意図的に乱暴に捕手または野手に接触し、そのためたとえ捕手または野手が落球しても、その走者にはアウトが宣告される。ただちにボールデッドとなり、他の走者は妨害発生時に占有していた塁に戻る。(規則 6.01h、6.01i(2))

高校野球特別規則16 捕手の本塁上のプレイ

規則 6.01(h)(1)【付記】の適用について、高校野球では 捕手は、『ボールを保持しているときしか塁線上および塁上に位置することはできない』こととする。
〔規則適用上の解釈〕 (1) 走塁妨害を適用するのは、『あくまで捕手のその行為がなければ当然本塁に到達できた』と判断できる場合である。
(2) 捕手のその行為が走塁妨害にもかかわらず、瞬間的に「アウト」のコールをした場合でも、改めて「オブストラクション」の宣告をしなおす。
(3) 走塁妨害適用外であってもそのような行為があった場合は、試合を停止したうえで、捕手に対して厳重に注意すること。
(4) ボールを保持していないときは、足を塁線上および塁上に置いてはいけない。
(5) ボールを保持しているかどうかにかかわらず、脚を横倒しにする(捕手のブロック)などして塁線上および塁上に置いて、走者の走路をふさぐ行為は、大変危険な行為であるから禁止する。
(6) ボールを保持しているときは、塁線上および塁上に移動してタッグをしてもよい。

だいぶ情報が多くなったので、画像一枚にまとめました