2023年8月18日、DeNAvs阪神戦で9回表、DeNA三浦監督からのリクエストによってリプレイ検証が行われ、判定が覆る事象がありました。
9回表阪神の攻撃、一死一塁。一塁走者の熊谷選手の二塁盗塁に、遊撃手の京田選手が二塁に入り、両者が交錯しました。当初の判定はセーフ。これに三浦監督がリクエストを行いました。
リプレイ検証の結果、判定はアウトに変更されました。
映像を見て、多くの人から、コリジョンルールの適用はないのか、走塁妨害ではないのかという意見がたくさん挙げられています。
これが流れの中でのプレーで走塁妨害にならないなら、動きながらなら、なんでもありになってくるけどなー🤔
— しゅう🐨🐉💙 (@shunosuk) 2023年8月18日
ひざ落としてベース隠してるけど…。
阪神が、また僅差で優勝できなかったら大きな判定だな。#阪神 #DeNA #京田 pic.twitter.com/QbEqhCzPgw
このプレイ、どうして走塁妨害に当たらないのかを解説します。
走塁妨害に関するルール
まず、走塁妨害とは何かを定義した「定義51」と、この状況で走塁妨害を宣告する場合に適用する規則6.01(h)(1)を確認しましょう。
公認野球規則 定義51 OBSTRUCTION「オブストラクション」(走塁妨害)
野手がボールを持たないときか、あるいはボールを処理する行為をしていないときに、走者の走塁を妨げる行為である。(6.01h1・2)
【原注】 ここにいう〝野手がボールを処理する行為をしている〟とは、野手がまさに送球を捕ろうとしているか、送球が直接野手に向かってきており、しかも十分近くにきていて、野手がこれを受け止めるにふさわしい位置をしめなければならなくなった状態をいう。これは一に審判員の判断に基づくものである。 (以下略)6.01(h) オブストラクション
オブストラクションが生じたときには、審判員は〝オブストラクション〟を宣告するか、またはそのシグナルをしなければならない。
(1) 走塁を妨げられた走者に対しプレイが行われている場合、または打者走者が一塁に触れる前にその走塁を妨げられた場合には、ボールデッドとし、塁上の各走者はオブストラクションがなければ達しただろうと審判員が推定する塁まで、アウトのおそれなく進塁することが許される。
野手は、ボールを持っていないときは走者の走路に入ることは認められません。野手がボールを持たずに走路に入って走者の走塁の妨げになったと審判員が判断した場合は、走塁妨害を宣告してボールデッドとなり、走者はオブストラクションがなければ達しただろうと審判員が推定する塁(つまりこの場合は二塁)の占有が認められます。
しかし、ボールを持っているときや、〝ボールを処理する行為〟をしているときは「守備優先」となって、走者の走路に入ることが許されます。
野手がどのタイミングで走路に入ったか、がポイント!
京田選手の動きに注目してみましょう。
リプレイ検証のスロー映像ではなく、ノーマルスピードの映像を見てもらうとわかるのですが、京田選手はショート定位置から二塁ベースカバーに入るとき、三塁側のところで一瞬スピードを緩めますが、送球が一二塁間側に来ているので、捕球のため走路に入っています。
このように、映像で確認すると、送球が十分二塁の近くまできていて、京田選手がこれを受け止めるにふさわしい位置をしめなければならなくなったときに走路に入ったといえます。
足でベースを隠しているのに?
確かに、この通り京田選手がベースの前に膝をついているので、走路を完全にふさいだという印象を持たれる人は多いことでしょう。
しかし、これはすべて捕球後に行っていることです。
捕球後であれば、走者をアウトにするために走路に入るのは正当な守備行為です。走者に接触しても走塁妨害には当たりません。
なお、走者の熊谷選手もまっすぐ二塁に向かってスライディングしているので、これで接触しても守備妨害には当たりません(ボナファイドスライド=正しいスライディングだということです)。
つまり、今回の接触はクロスプレイによって生じた、通常のプレイだとみることができます。
私見ですが、これと同じ状況が本塁で起こって捕手と走者が接触したとき、皆さんここまで大騒ぎしないのではないでしょうか。
【8/19追記】責任審判 敷田さんの説明について
責任審判の敷田さんは、「セカンドベースのところで走者と野手が接触しましたが、妨害とはいたしません。よって、アウト」と説明しました。
確かにちょっと分かりにくかったかもしれません。三浦監督のリクエストは「セーフではなくアウトではないか」であり、当初の判定で走塁妨害は宣告していませんでしたから、走塁妨害かどうかの説明は唐突感がありました。
しかし一方で、「走塁妨害じゃないの?」と思った人も多かったことと思います。
敷田さんが伝えたかったことはこういうことでしょう。
- リプレイ検証を行いました。
- (アウトかセーフかの判定の前に、)走者と野手が接触しました(ので、走塁妨害がないかを確認しました)が、(野手が捕球するときに走路に入ったので)妨害とはいたしません。
- (アウトかセーフかの判定は、走者が二塁に到達できていないので、)よって、アウト。
- ツーアウトランナーなしで再開します。
「審判のマイクでの説明が分かりにくい」という意見は、今回に限らずしばしば耳にします。審判員は判定するのが仕事で、説明する仕事は本職ではないですが、プロ野球の審判員にはとっさのプレイについて簡潔にわかりやすくマイクで説明する能力が求められるものなのかもしれませんね。
まとめ
ボールを持たずに走路に入ることは許されません。
しかし、ボールを持った後、または〝ボールを処理する行為〟をしているときは、守備優先であり、走路に入ることが認められます。
今回の京田選手のプレイは、捕球するためにそこに位置することが必要な状況で走路に入っています。捕球する際に少しバランスを崩して二塁ベースの前に膝をついて完全にベースをふさぐ格好になったことは確かに印象が悪いですが、その時はすでに捕球した後なので、走路に位置することは問題ありません。
というわけで、リプレイ検証を行った結果、アウトに判定を変更したことは適切であると考えます。
補足
コリジョンルール(本塁での衝突プレイ)
「コリジョンルールは適用されないのか」という意見も見かけましたが、公認野球規則では、6.01(i) 本塁での衝突プレイのことを言います。場所が本塁に限定されるルールなので今回はそもそも適用されませんが、本塁を守る捕手の動きに関するルールである6.01(i)(2)を紹介しておきます。
公認野球規則 6.01(i) 本塁での衝突プレイ
(2) 捕手がボールを持たずに得点しようとしている走者の走路をブロックすることはできない。もし捕手がボールを持たずに走者の走路をブロックしたと審判員が判断した場合、審判員はその走者にセーフを宣告する。前記にかかわらず、捕手が送球を実際に守備しようとして走者の走路をふさぐ結果になった場合(たとえば、送球の方向、軌道、バウンドに反応して動いたような場合)には、本項に違反したとはみなされない。また、走者がスライディングすることで捕手との接触を避けられたならば、ボールを持たない捕手が本項に違反したとはみなされない。
本塁でのフォースプレイには、本項を適用しない。
コリジョンルールについては、過去に書いたこちらの記事が参考になるかと思います。