守備側の選手がDOGSOの4要件を満たしている状況でファウル。しかし、攻撃側の選手がそれでもなおプレーを続け、主審はアドバンテージのシグナル。そしてシュートが決まったら?
守備側の選手にはカードの提示があるのでしょうか。
用語とルールの確認
DOGSOとは
DOGSO(ドグソ)とは、Denying an Obvious Goal-Scoring Opportunity の略で、「決定的な得点機会の阻止」という意味です。 DOGSOの条件を満たすファウルによって決定機を阻止した場合、反則した選手には、原則レッドカードが提示されます。
DOGSOについて詳しいことは▼こちらで。
アドバンテージとは
サッカー競技規則には次のように示されています。
アドバンテージ(Advantage)
反則が起きたとき、反則を行っていないチームにとって利益となる場合に、主審がプレーをそのまま続行させること。
反則が起きたけれど、笛を吹いてプレーを止めないほうが、反則を受けた側にとってすばやく、また大きなチャンスとなる攻撃ができる機会にある場合、主審の判断で、下の図のようなシグナルをしてそのままプレーを継続させます。プレーオンともいいます。
また、アドバンテージを適用したものの、予期した攻撃にならなかった場合について、こんな記述もあります。
第5条 主審 3. 職権と任務
アドバンテージ
反則があり、反則を行っていないチームがアドバンテージによって利益を受けそうなときは、プレーを継続させる。しかし、予期したアドバンテージがそのとき、または数秒以内に実現しなかった場合、その反則を罰する。
通称、ロールバックと呼ばれているもので、その場合は主審がさかのぼって笛を吹き、反則を行っていないチームにフリーキックを与えます。
アドバンテージを適用した反則で懲戒罰が必要なときの対応
アドバンテージを適用する反則に対して懲戒罰(「カード」を提示すること)が必要な場合、プレー継続中には当然カードが出せません。そのため、次にプレーが切れたときにイエローカードやレッドカードが提示されます。
競技規則には、こんなことも書かれています。
主審は、反則が起きたときにアドバンテージを適用することができるが、アドバンテージを適用するのかプレーを停止するのかを判断するうえで、次の状況を考慮するべきである。
- 反則の重大さ-反則が退場に値する場合、反則直後に得点の機会がない限り、主審はプレーを停止し、競技者を退場させなければならない。
なぜならば、アドバンテージを適用すると本来退場すべき選手がその後もプレーに関与してしまう可能性があるからです。そのため、著しく不正なプレー、乱暴な行為または2つ目の警告となる反則を含む状況では、直後に得点の機会がない限りはアドバンテージを適用するべきではありません。
DOGSOの状況でアドバンテージが適用できるのか
DOGSOは退場に値する反則です。よって、通常はDOGSOが起こればその時点でプレーが止まり、反則をした競技者は退場となります。
しかし、直後に得点の機会がある場合なら、むしろプレーを止めないほうがよいこともあります。例えばこういう状況です。
実例1 2021年 J3リーグ 福島vs今治 後半アディショナルタイム
今治のゴールキーパー(修行選手)はペナルティーエリアの外で手を使ってシュートを阻止に行っており、DOGSOに当たる状況です。
しかし、ファウルを受けた福島9番(イスマイラ選手)がこのボールを取ってゴールキーパーを振り切り、再度シュートにつなげ、ゴールとなりました。
主審はこのプレーでアドバンテージを採ってファウルを流しています。
この場合、競技規則には次のように書かれています。
第12条 ファウルと不正行為 3. 懲戒処置
警告や退場となるべき反則に対して、主審がアドバンテージを適用したとき、この警告や退場処置は、次にボールがアウトオブプレーになったときに行われなければならない。しかしながら、反則が相手チームの決定的得点の機会を阻止するものであった場合、競技者は、反スポーツ的行為で警告され、反則が大きなチャンスとなる攻撃を妨害または阻止したものであった場合、警告されない。
つまり、DOGSOの状況でアドバンテージ適用の場合は退場ではなく警告、SPA(大きなチャンスとなる攻撃の妨害)の状況でアドバンテージ適用の場合は警告なしとなります。
そのため、主審はゴールを認めた後、修行選手の懲戒をレッドカードから一段下げて、イエローカードの提示としました。
実例2 2019 J1リーグ第10節 湘南対名古屋 50分
名古屋のシミッチ選手がゴール前に抜けだしたところで湘南の坂選手にスライディングで倒されました。ボールはペナルティーエリア内にこぼれ、和泉選手が走りこんできたのですが、主審が笛を吹き、プレーは認められませんでした。
主審はアドバンテージを適用せず、ファウルをとって坂選手にイエローカードを提示していました。
しかし、ジャッジリプレイでレイ・オリバーさんの解説にもある通り、このシーンはDOGSOの状況なので、主審がアドバンテージを適用せず笛を吹いたのなら、本来はレッドカードが提示されるべきでした。
また、ボールが転がった行方とその後の選手の位置などを考慮すると、名古屋の選手と湘南のゴールキーパーの1対1の状況になるので、アドバンテージを適用してもよかった場面でした。もしアドバンテージを適用していた場合は、シュートが決まろうが外れようが、次のアウトオブプレーのところで坂選手にイエローカードが提示されることになります。主審はあと一瞬Wait & See(多少待って、様子をうかがうこと)ができれば、名古屋に決定機を与えることができるところでした。
考察:2023年天皇杯決勝のあのシーンは…
2023年12月9日の天皇杯決勝 川崎対柏の69分。
柏の細谷選手が抜け出し、川崎の大南選手が後ろから細谷選手に腕を伸ばして接触しました。
細谷選手はそれでも倒れずドリブルで持ち込んで、GKと1対1になりましたが、タッチが長くなったボールをチョン・ソンリョン選手がキャッチしました。
私はこのプレーを見た瞬間は、これがファウルに見え、状況はDOGSOだと思いました。笛が鳴らないので、主審はてっきりアドバンテージを取ったのだと思っていました。アドバンテージを適用し、GKとの1対1の状況が期待される利益と見るなら、次のアウトオブプレーで大南選手にはイエローカードが提示されるところです。
しかし、主審は特に笛を吹くことも、アドバンテージのシグナルをすることもなくそのまま流しています。どうやらそもそもファウルと判断しなかったようです。ファウルでないのならDOGSOでもありません。
さて、冷静に考えてみると、この状況でDOGSOと判断したら、アドバンテージをとるにはややリスクがあります。まだゴールまでは多少距離があり、細谷選手はドリブルで持ち込んでいる状況、大南選手はその後のプレーに関与する恐れがあります。そのため、主審がアドバンテージをとらず、直ちに笛を吹いて大南選手にレッドカードが提示されてもおかしくはありません。
なお、もしDOGSOではなくSPA(反則とゴールまでの距離がまだ遠いから)と判断し、さらにアドバンテージをとると、本来イエローカードの懲戒罰が一段階下がるので、カードが出なくなります。
誤解されやすいので念のため
「つまりDOGSOのときにアドバンテージが適用されると、SPAになってイエローカードになるんですね」
いいえ、違います。DOGSOはDOGSOです。
しかし、アドバンテージが適用されると懲戒罰が一段下がり、レッドカードではなくイエローカードになります。だから、DOGSOだけどイエローカードと表現するのが正しいです。つまり、DOGSOがSPAになるわけではありませんが、DOGSOだとイエローカードが提示されるルールになっています。