numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

【野球】一塁駆け抜けはファウルゾーンならOK…ではない!

やはり、根強い誤解があるようです。

9月9日 日本ハム vs 楽天 7回。先頭打者の野村選手は、セカンド内野安打を打ち、ファウルゾーンへ駆け抜けました。

送球がそれ、ファウルゾーンを転がっているのに気づいた野村選手は、二塁に行きかけますが、ファウルライン手前で二塁に行くのをやめ、ゆっくり一塁に戻りました。そこへ、ボールが一塁に戻ってきて、タッグ(触球)。判定はアウトです。

フェアゾーンに入ってない?…その解釈が誤解です。

8月4日、東京オリンピック野球競技準決勝、日本vs韓国戦では、今回と逆に、フェアゾーンに駆け抜けた打者走者が、一塁に戻ってくるところをフェアグラウンド上でタッグ(触球)されましたが、判定はセーフでしたよね。 num-11235.hateblo.jp

改めて、野球規則を確認しましょう。

公認野球規則5.09 (11)

 走者が一塁をオーバーランまたはオーバースライドした後、ただちに一塁に帰塁しなかった場合(走者はアウトになる)。一塁をオーバーランまたはオーバースライドした走者が二塁へ進もうとする行為を示せば、触球されればアウトとなる。

打者走者の一塁駆け抜け(オーバーラン)は、この規則で認められていて、その条件は、直ちに一塁に帰塁すること。打者走者が二塁へ進もうとする行為を示したら、それ以降は、タッグ(触球)されるとアウトになります。ここには、ファウルグラウンドに駆け抜けること、とか、フェア地域に入ってはいけない、と言った文言はありません。

今回、野村選手は、明らかに二塁に向かおうとスタートを切っています。したがって、もう、駆け抜けルールは適用されません。

なぜ少年野球のコーチは、ファウル地域を走れと言うのか

子供に野球を教えるコーチは、しばしば、一塁駆け抜けのときはファウル地域を走れと指導します。

ルールに書いてもいないのになぜファウルグラウンドを走らせるのか。間違ったルールを教えているのか。

そうではありません。理由は、野手との接触防止(安全のため)と、審判員から「二塁への進塁の意志あり」と取られないようにするため、の2点だと考えられます。この指導自体は具体的な内容で分かりやすいので、小学校低学年の児童に指導する際も有効だと考えます。

しかし、強調して伝えるあまり、

  • フェア地域を駆け抜けると、触球(タッグ)されたらアウトになる
  • ファウル地域ならどう駆け抜けても、触球(タッグ)されてアウトになることはない

などと、選手が誤解して理解することがあるようです。だから、ある程度きちんと説明が理解できる程度まで子供が成長したら、それに応じて、公認野球規則に記載のとおりの言葉の使い方で、ぜひルールを学ばせてほしいな、と思います。

野球で判定への「抗議」は認められていない

今回のプレイで栗山監督が判定の確認に行きました。

これを、一部報道では、栗山英樹監督抗議も実らず」なんて見出しを付けたところもあるようです。(のちに「確認」という語に差し替えられたようです)

はっきり言いますが、こういう見出しを付けるから、日本では、審判員への「抗議」が当たり前化していると思っています。

もしも審判員に「抗議」に来ていたのなら、警告が発せられたのち、退場させられるのが野球のルールです。

公認野球規則8.02(a)

  打球がフェアかファウルか、投球がストライクかボールか、あるいは走者がアウトかセーフかという裁定に限らず、審判員の判断に基づく裁定は最終のものであるから、プレーヤー、監督、コーチまたは控えのプレーヤーが、その裁定に対して、異議を唱えることは許されない。
【原注】ボール、ストライクの判定について異議を唱えるためにプレーヤーが守備位置または塁を離れたり、監督またはコーチがベンチまたはコーチスボックスを離れることは許されない。もし、宣告に異議を唱えるために本塁に向かってスタートすれば、警告が発せられる。警告にもかかわらず本塁に近づけば、試合から除かれる。

どうも、最終判定をした審判員に選手や監督が食ってかかることを「熱く抗議」などと、肯定的に捉える論調があるようです。絶対によくないです。

これは、当然ながら【原注】に示されているボール、ストライクに限ったことではありません。審判員の裁定に異議を唱えるために近づけば警告が発せられ、警告にも関わらず近づけば「退場」か宣告されます。

そう、実は警告が発せられているんですが、野球の審判員は「イエローカード」を提示するルールがないので、観客から見ても、警告が出たことが分かりづらいんですよね。また、サッカーのようにカードの累積という概念もないから、何度も警告を受けるようなことがあったからといって「次の試合に出場停止」のような罰則もない。

そういうルールなので仕方がないことなんですが、何をしたら退場になるのかが分かりにくくなってしまっているように感じます。

ちなみに、「抗議」は認められていませんが、審判員が規則適用を誤っている疑義があるときに、監督が正しい裁定に訂正するための「要請」は、規則で認められています。

公認野球規則8.02(b)

 審判員の裁定が規則の適用を誤って下された疑いがあるときには、監督だけがその裁定を規則に基づく正しい裁定に訂正するように要請することができる。しかし、監督はこのような裁定を下した審判員に対してだけアピールする(規則適用の訂正の申し出る)ことが許される。

「抗議」と「要請」(もう少し広げると、疑義に対する「確認」)は、ちゃんと区別しないといけません。