「ドカベン」の作者、水島新司さんが1月10日、亡くなったとの報道に、ショックを受けています。
私が野球ルールの奥深さを知るきっかけは、ドカベンからでした。
思わず「えーっ!」と叫び、なるほどと納得した逸話と言えば、何といっても「ルールブックの盲点の1点」と呼ばれるこの話でしょう。
ドカベンで描かれたプレイはこんな流れ。
夏の高校野球 神奈川神奈川県予選大会3回戦。主人公である山田太郎が所属する明訓高校と、好投手 不知火守が率いる白新高校の試合です。
0-0で迎えた延長10回表、明訓高校の攻撃。一死満塁で、バッターは微笑三太郎。
明訓はスクイズを仕掛けますが、微笑がバントした打球は小フライになり、ピッチャーの手前に上がります。
一死満塁なのでインフィールドフライ宣告条件は満たしていますが、バントでの飛球はインフィールドフライ宣告対象外となるため、このプレイでインフィールドフライは適用されません。
インフィールドフライは、守備側が意図的に飛球を捕らないことでダブルプレイを狙えてしまうため、先に打者をアウトにすることで「攻撃側を守る」ためのルールです。しかし、今回はスクイズのサインで、塁上の走者はすでにスタートを切っていますから、守備側がダブルプレイを狙うなら、むしろこのフライを捕球して、離塁している走者の塁に送球することになります。
そういう意味で、「スクイズのときはいかなる場合でもインフィールドフライにはならない」という説明をされたのでしょう。
不知火投手はダイビングキャッチでフライを捕ります。
現実にこれが起こったら、超・ファインプレイ。鳥肌ものでしょうね。
一塁に投げてももちろんダブルプレイは成立するので、ここの説明は微妙なのですが、確かに不知火は三塁に投げるのが正解でした。それは…
一塁走者の山田にアウトが宣告されるよりも先に、三塁走者の岩鬼が、三塁にリタッチせぬまま本塁に到達していたのです。フライが上がったのですから、本来なら、岩鬼は三塁に戻らなければいけなかったのですが、構わず本塁に突入し、滑りこんでいたのです。
すると、ひとまずこの走塁は認められ、球審は、一塁のアウトと三塁走者の本塁到達とどちらが早かったかを明示します。この場合は岩鬼のほうが早かったので、球審は、本塁を指さして、「スコア!」と宣告します。 (もし、一塁のアウトの方が先なら、球審は両手で頭上に×印を作って、「ノースコア」と宣告します。)
つまり、この時点で明訓には得点が入っているのです。
しかし、山田をアウトにして3アウトが成立した後でも、守備側がボールを持って三塁を踏み、岩鬼が帰塁しなかったことを審判員にアピールすれば、得点を取り消しにできました。これを、「第3アウトの置き換え」といいます。しかし…
ここは正しくは、ナイン全員ではなく、投手及び内野手がベンチに戻るためにファウルラインを越えて「フェア地域を離れた」ときですが、審判員へのアピールがなかったので、正式に岩鬼の得点が認められました。
そりゃあまあ、この顔になりますよね。
この一連の流れの最後に、明訓高校 土井垣監督のこの一言、
とともに、公認野球規則7.10(当時。現在の5.09(c))本文が示されます。
野球規則本文、この時、人生で初めて触れました。何と難しいこと。この時は、すっと読めず、結局理解できませんでした(今でもすっと読むのは難しいですが)。
そして起こった!リアルな甲子園での再現プレイ。
7回裏、一死一・三塁。ヒットエンドランのサインで、打者は鋭いライナーの打球をショートの上に放ちます。ショートがジャンプしてこれをキャッチ!走者が飛び出していたので、ショートは一塁に送球。これで、ダブルプレイでチェンジです。
しかし、このとき三塁走者は、一塁のアウトよりも先に本塁に到達していました。
3アウトを取ったため、鳴門ナインはすぐにベンチに引き上げたので、得点が正式に認められ、スコアボードには「1」が。画面に大写しされるあたり、ドカベンのコマと同じ雰囲気ですね。
三塁走者が本塁に突っ込むシーンをよく見てみましょう。三塁走者は、ライナーが飛んだので一度走塁を緩めましたが、ショートが一塁に投げようとしている様子を見て再加速、一気に本塁に突っ込みました。つまり、岩鬼とは違って、ルールを承知し、確信して本塁に走っています。
また、球審の動きをよく見てみましょう。球審が、一塁のアウトと三塁走者の本塁到達とどちらが早かったかを明示するため、本塁を指さして「スコア」を宣告しているのが分かります。
このプレイを見て、「あっ、ドカベンだ!」と叫んだ野球ファンのなんと多かったことか。今でも語り継がれる伝説のシーンです。
野球のルールの奥深さを教えてくださった水島新司さん。
ご冥福をお祈りいたします。