ランダウンプレイ(挟殺プレイ)の結果、1つの塁に2人の走者がついてしまうことがあります。
選手が混乱して慌ててしまう様子をときどき見かけますが、どんなルールになっているのでしょうか。
あまり起こらないようでときどき起こるこの場面。ルールを確認してみましょう。
2人の走者が同時に1つの塁を占有することはできない
感覚的には分かっていることかと思いますが、野球のルールの大原則として、2人の走者が同時に1つの塁を占有することはできません。
公認野球規則5.06(a) 塁の占有
(2) 2人の走者が同時に一つの塁を占有することは許されない。ボールインプレイの際、2人の走者が同一の塁に触れているときは、その塁を占有する権利は前位の走者に与えられているから、後位の走者はその塁に触れていても触球されればアウトとなる。ただし本条(b)(2)項適用の場合を除く。
この規則の通り、通常、2人の走者が1つの塁に触れているときは、前位の走者(前を走る走者)にその塁の占有権が与えられます。後位の走者(後ろを走る走者)は、塁に触れていても占有できないので、触球されればアウトになります。
鉄則として、守備側はこういうとき、両方の走者にポン、ポンと触球します。そうすれば、どちらか一人はアウトにできるからです。
このとき、走者は、自分の身体に触球されたことと審判員のアウトのコールで、自分がアウトになったと思い込んでしまうことがあります。そのため審判員は、どの走者がアウトになるのか走者を指差して「セカンドランナー、ユー、アウト!」などと宣告します。必要なら「ユー、セーフ!」も行います。
それでも混乱するんですよね…。走者がうかつに塁を離れると、ボールインプレイなので、再度触球されたら当然アウトになります。分からなくなったら勝手に判断せず、審判員の指示に従いましょう。
実例で確認!
2013年4月19日、カブス対ブルワーズ戦で、8回裏、無死一・二塁。二塁走者のセグナ選手は三塁盗塁を狙おうとして牽制の際に飛び出してしまい、二・三塁間でランダウンプレイが始まりました。
セグラ選手が二塁に戻ろうとしている間に一塁走者のブラウン選手が二塁に到達。セグラ選手も二塁に滑り込んで、二塁上に2人の走者がいる状態に。
野手は両方の走者にくり返しタッグしました。
二塁塁審は、二塁上にとどまっていた走者のブラウン選手にアウトを宣告。
二塁に2人の走者が触れている場合は二塁走者に占有権があるため、一塁走者のブラウン選手は触球されるとアウトを宣告されます。
あれ?セグラ選手は…?
何と、一塁に逆走してしまいました。
ルール上、二塁走者はアウトにならないのでそのまま二塁にとどまっていることができたのですが、恐らく、自分がアウトになったと思って二塁を離れ、一塁側ベンチに戻ろうとしたのでしょう。途中で自分がまだアウトになっていないことを理解。慌てて一塁へ向かいました。
審判団は、二塁走者のセグラ選手の一塁占有を認めて、一死一塁で試合を再開しました。
しかし、実は…
二塁塁審は見逃してしまったようですが、リプレイをよーく見直してみると、セグラ選手が二塁から離れた瞬間にもう一度触球されていました。
この触球はブラウン選手に触球した直後。よって、本来なら、これをもって2人の走者がともにアウトになるはずでした。
また、仮にブラウン選手に触球がされていなくても、セグラ選手が一塁方向に離れた瞬間に走者の前後関係が入れ替わったことになるので、結果的にブラウン選手がセグラ選手を「追い越し」たとみなされます。
公認野球規則5.09(b)(9)
次の場合、走者はアウトになる。
(9) 後位の走者がアウトとなっていない前位の走者に先んじた場合。(後位の走者がアウトとなる)
追い越しが成立した瞬間にブラウン選手は直ちにアウト。また、追い越しアウトはボールインプレイのままなので、セグナ選手の触球も成立し、セグナ選手もアウト。
つまり、二塁塁審がこの触球を見逃していなければ、セグナ選手の行動だけでダブルプレイが成立し得る状況でした。
まあ、こんなわけの分からない状態なので、二塁塁審はブラウン選手にアウトを宣告し、そこまでの状況を当人に説明するので精一杯だったと思います。
まとめ
- 同一塁上に2人の走者がついたときは、基本的に前位の走者に占有権がある
- この場合、後位の走者は、塁に触れていても触球されるとアウトになる
- 前位の走者が慌てて塁を離れると、再度触球されたときにアウトになるので、そのまま塁に留まっているのが正解
- 前位の走者は、間違っても前の塁の方向に飛び出してはいけない。それだけで後位の走者はアウトになる
通常のランダウンプレイにおいて、走者は最低限このことを知っておく必要があります。
ランダウンプレイにおいては、
- 走塁妨害がないかどうか
- 守備妨害がないかどうか
- 同一塁上に2人の走者がついたときの対応
- 追い越しが発生したときの対応
といった、複雑なルールがいっぺんに関係してきます。選手がプレイで焦るのはもちろんのこと、審判員もプレイの状況に応じて正しく規則を適用しなければならないので、慌てがちになってしまいます。落ち着いてプレイを見極めたいですね。
さて、冒頭に紹介した規則5.06(a)(2)には、こんな一文が記載されています。
…ただし本条(b)(2)項適用の場合を除く。
これが意味するところはこちらの記事で。