numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

【野球】コリジョンルール(衝突ルール)、解説します。

2021年8月28日、楽天vsロッテ 1回表、無死一・二塁からライト前ヒット。ライトからの返球を受けた捕手と本塁に突入してきた二塁走者が接触して判定はアウト。

このプレイではビデオ判定も行われましたが、「コリジョンルールについて検証しましたが、ルールは適用せずアウトとします」と場内アナウンスがされました。

さて、「コリジョンルールって何なの?」とか、「これがコリジョンルール適用にならないなら、こんなルールいらない」とかいろいろなご意見があるようです。

ここでは、コリジョンルールとは何なのかや、そもそもなぜこんなルールが制定されたのかなどについて説明します。

コリジョンルールとは?

公認野球規則第6章には、反則行為が規定されています。

この中にある、6.01(i)項に「本塁での衝突プレイ」が書かれており、これが通称・コリジョンルールと呼ばれます。

中身は、ざっくりいうと、(1) 走者のタックルの禁止(走者の守備妨害に関する規定)と、(2) ボールを持たない捕手のブロックの禁止(捕手の走塁妨害に関する規定)。

以下、それぞれについて解説していきます。

(1) 走者の守備妨害に関する規定

野球規則に書かれている文章は長いので、書かれている内容を簡単に言うと、

  • 走者は、本塁に触れることを目的として走塁をしなさい。
  • アウトになるかもしれないからと言って、タッグ(触球)しようとする捕手や野手めがけて、体当たりやスライディングなどで接触して落球を狙ってはいけない。

ということです。正確な文章については、以下の規則本文を見てください。

公認野球規則 6.01(i) 本塁での衝突プレイ (1)

 得点しようとしている走者は、最初から捕手又は本塁のカバーに来た野手(投手を含む。以下「野手」という。)に接触しようとして、または避けられたにもかかわらず最初から接触をもくろんで走路から外れることはできない。もし得点しようとした走者が最初から捕手または野手に接触しようとしたと審判員が判断すれば、捕手または野手がボールを保持していたかどうかに関係なく、審判員はその走者にアウトを宣告する。その場合、ボールデッドとなって、すべての他の走者は接触が起きたときに占有していた塁(最後に触れていた塁)に戻らなければならない。走者が正しく本塁に滑り込んでいた場合には、本項に違反したとはみなされない。
【原注】 走者が触塁の努力を怠って、肩を下げたり、手、肘または腕を使って押したりする行為は、本項に違反して最初から捕手または野手と接触するために、または避けられたにもかかわらず最初から接触をもくろんで走路を外れたとみなされる。走者が塁に滑り込んだ場合、足からのスライディングであれば、走者の尻および脚が捕手または野手と接触する前に地面に落ちたとき、またヘッドスライディングであれば、捕手または野手が接触する前に走者の身体が先に地面に落ちたときは、正しいスライディングとみなされる。捕手または野手が走者の走路をブロックした場合は、本項に違反して走者が避けられたにもかかわらず接触をもくろんだということを考える必要はない。

MLBでこのルールが明記されたきっかけが、サンフランシスコ・ジャイアンツバスター・ポージー捕手がタックルを受けた、このプレイです。 このときは、コリジョンルールがありませんでした。

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このプレイをきっかけに本塁でのクロスプレイに関する議論が高まり、MLBで2014年に禁止事項としてルールに加えられました。 ちなみにポージー捕手は、このプレイで左足首靱帯を切る重傷を負い、2011年シーズンの残りの試合に出場できなくなりましたが、翌年の開幕戦で復帰しました。

日本プロ野球でも、2013年、阪神タイガースマット・マートンの危険なタックルが問題視されたことが発端です。 一例として2013年9月14日の東京ヤクルトスワローズ戦のこのプレイ。

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こういったプレイに対して、2015年7月、12球団監督会議でヤクルトの真中満監督が問題提起し、故障防止を望む選手会からも同じ意見が出されたことから検討がなされ、2016年1月に正式にコリジョンルールの導入が決まりました。

(2) 捕手の走塁妨害に関する規定

続いて、捕手に関するルールです。

野球規則に書かれている文章はやはり長いので、簡単に言うと、

  • ボールを持たずに得点しようとしている走者の走路をふさいではいけない。

この一言に尽きます。

一応、念のため、実際の文章は以下のとおりです。

公認野球規則 6.01(i) 本塁での衝突プレイ (2)

 捕手がボールを持たずに得点しようとしている走者の走路をブロックすることはできない。もし捕手がボールを持たずに走者の走路をブロックしたと審判員が判断した場合、審判員はその走者にセーフを宣告する。前記にかかわらず、捕手が送球を実際に守備しようとして走者の走路をふさぐ結果になった場合(たとえば、送球の方向、軌道、バウンドに反応して動いたような場合)には、本項に違反したとはみなされない。また、走者がスライディングすることで捕手との接触を避けられたならば、ボールを持たない捕手が本項に違反したとはみなされない。
  本塁でのフォースプレイには、本項を適用しない。
【原注】 捕手が、ボールを持たずに本塁をブロックするか(または実際に送球を守備しようとしていないとき)、および得点しようとしている走者の走塁を邪魔するか、阻害した場合を除いて、捕手は本項に違反したとはみなされない。審判員が、捕手が本塁をブロックしたかどうかに関係なく、走者はアウトを宣告されていただろうと判断すれば、捕手が走者の走塁を邪魔または阻害したとはみなされない。また、捕手は、滑り込んでくる走者に触球するときには不必要かつ激しい接触を避けるために最大限の努力をしなければならない。滑り込んでくる走者と日常的に不必要なかつ激しい接触(たとえば膝、レガース、肘または前腕を使って接触をもくろむ)をする捕手はリーグ会長の制裁の対象となる。

かつて、捕手の守備をたたえる言葉として「ナイスブロック!」という表現をすることがありましたが、本当にブロックしていたのなら、それは走塁妨害だと思ってください。よって、誉め言葉として適切な表現とはいえません。

例えばこのように、ボールを捕る前から走路に足を置いていると、走塁妨害とみなされます。

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一方、ボールを持った後なら、走者をアウトにするために走者の走路に入って構いません。正当な守備行為です。また、送球の方向や軌道、バウンドに反応して、捕手が送球を捕るために走路に入らなければならない場合は、やむを得ないものとして認められ、その結果として走者の走路をふさぐことになった場合はコリジョンルールの適用とはなりません。

この記事の冒頭で紹介した、2021年8月28日、楽天vsロッテ 1回表のプレイはまさにこの状況で、コリジョンルール適用となりませんでした。再度当時のツイートを引用しますので、動画で確認してみてください。

このツイートにも書きましたが、炭谷選手は走路を空けて送球を待っていて、ボールが十分近づいたところで捕球するのに必要となるタイミングで走路に入ったため、コリジョンルールの適用にはなりませんでした。この守備に対してセーフになるには、走者は捕手をかわして回り込むしかないので、守備側が非常にうまい守備をしたと思います。

それから、これはあまり話題にはなりませんが、送球と走者が本塁に到達するタイミングで、走者が明らかにアウトを宣告されていたと審判員が判断すれば、仮に捕手が初めから走路に位置していたとしても、妨害のあるなしに関わらず走者アウトです。

「明らかに」というのは、走者が滑り込む前にもう捕手にボールが渡っているような状況、クロスプレイになる前にもう結果が見えているような状況だと思ってください。

雑感

野球ファンのみならず、元プレイヤーや指導者なども含めて、「よく分からないルール」「野球がつまらなくなる」などという意見をよく聞きますが、そもそものルール制定の経緯から含めて、よく考えてみてほしいなと思います。ルール制定当時のデイリースポーツは、こんな記事を出しています。

コリジョンルール導入の経緯を考えよう*1
…同ルールに対しては「野球がつまらなくなる」という声も選手や球団から聞かれる。そこで、あらためて導入の経緯を振り返りたい。
 重要なのは、選手の故障防止が目的であり、ルール導入の起点にあるのは選手会や球団からの要望だったという点だ。ルールの運用方法決定には選手や球団の意見も取り入れられている。その上で今年1月に12球団の代表者に、2月のキャンプで選手らにルールが説明された。球界全体で求めたルールという原点を忘れてはいけない。

ルールがよく分からないと言われる理由は、ルールを定めている日本野球規則委員会の広報の努力が足りないことも原因かなと、個人的には思っています。

私としてはルールで混乱が起こって、様々な議論がなされているときこそ、ぜひ多くの人に野球規則を見ていただき、ルールを知ってもらいたいなぁ、と思うのですが、いかんせん『公認野球規則』は1,100円で「市販」されていて、ネット上では簡単に参照できないんですよね。野球人気の衰退を心配するなら、野球規則委員会や野球連盟は、本気でルールを分かりやすく参照できる仕組みを考えたほうがいいと思いますよ。

補足

なお、日本野球規則委員会が独自に設けた【注】には、「我が国では、本項の(1)(2)ともに、所属する団体の規定に従う。」と書かれています。

したがって、日本国内においてこの規則の適用上の解釈は、最終的には各所属団体によります。

*1:デイリースポーツ(2016年6月23日) https://www.daily.co.jp/baseball/2016/06/23/0009213370.shtml