前回の記事では、アピールプレイの【基本編】として、アピールプレイが起こるときやアピールができる期限、審判員へのアピールの仕方などについて解説しました。
実はアピールプレイってかなり奥が深く、ルールを知っているかどうかで、時としてチームの失点を救うこともあるんです。今回はそんな事例をクイズ形式で紹介します。
第1問【★★★☆☆】このプレイで得点は何点?
9回表、一死二・三塁。二塁走者まで還ればAチーム逆転の場面です。
打球はライトに飛球が上がりました。
右翼手が捕って、打者はアウト。三塁走者はタッグアップで本塁に突入しました。右翼手の本塁への送球が逸れて、三塁走者はセーフ、さらに二塁走者も三塁を蹴って本塁に進みました。
悪送球を拾った捕手が内野にボールを戻すと、三塁手がボールをくれと要求。ボールを受け取った三塁手は、三塁を踏んで審判員にアピールしました。
「三塁走者のタッグアップのとき、離塁が早かったです!」
三塁塁審はこのアピールを認め、アウトを宣告しました。これで3アウトです。
さて、このプレイでの得点はどうなるでしょう。
- 2点
- 1点
- 0点
第1問 解説
答えは…(スクロールすると答えがあります)
--------------------------------------------------
C. 0点 です!
このケースは、得点の記録について定めた公認野球規則5.08(a)をよく読むことで理解できるかと思います。
公認野球規則5.08 得点の記録
(a) 3人アウトになってそのイニングが終了する前に、走者が正規に一塁、二塁、三塁、本塁に進み、かつこれに触れた場合には、その都度、1点が記録される。
【例外】 第3アウトが次のような場合には、そのアウトにいたるプレイ中に、走者(1、2にあたる場合は全走者、3にあたる場合は後位の走者)が本塁に進んでも、得点は記録されない。
(1) 打者走者が一塁に触れる前にアウトにされたとき。(5.09a、6.03a参照)
(2) 走者がフォースアウトされたとき。(5.09b6参照)
(3) 前位の走者が塁に触れ損ねてアウトにされたとき。(5.09c1・2、同d参照)
第1問は、【例外】の(3)に当たるケースです。
第3アウトが三塁走者の離塁が早かったことのアピールアウトなので、三塁走者の得点が取り消されるだけでなく、後位にあたる二塁走者も得点取り消しになります。
9回表で3-2と逆転かと思いきや、三塁手が三塁走者の離塁を見ていたことで逆転阻止、1-2でBチーム勝利です。
第2問【★★★★☆】どうアピールするのが良い?
では、公認野球規則5.08(a)を読んでいただいたところで第2問です。
5回ウラ、一死満塁。打球は左中間に飛んで走者一掃の二塁打になりました。
二塁手のあなたは、一塁走者が二塁を、打者走者が一塁を踏んでいないことに気づきました。ボールが左翼手から返ってきたところで、あなたはボールを受け取り、これから二塁で審判員にアピールしようと思います。
どのようにアピールするのが良いですか。
- 二塁にいる走者に触球してから二塁を踏んで、二人のアウトをアピールする。
- 二塁を踏んでから二塁にいる走者に触球して、二人のアウトをアピールする。
- 二塁塁審に「二人ともアウトなんで、どうにかしてください」と頼みこむ。
第2問 解説
答えは…(スクロールすると答えがあります)
--------------------------------------------------
B. 二塁を踏んでから二塁にいる走者に触球して、二人のアウトをアピールする です!
このケースは、アピールプレイとともにフォースアウトが絡んできます。
二塁にいる走者は、一塁を空過した打者走者です。走者に触球すると、打者走者をアウトにできます。一方、二塁を踏むと、二塁を空過した一塁走者をアウトにできます。どちらのアウトを先にすれば、フォースアウトによる併殺が取れるでしょうか。
そう、一塁走者を先にアウトにするのが正解です。
Aの方法のアピールだと、3アウトは取れますが、先に打者走者が一塁でアウトになったことで、一塁走者がフォースプレイでなくなります。そのため、三塁走者と二塁走者の得点は認められ、3-3の同点で6回を迎えます。
Bの方法のアピールならば、第3アウトが「打者走者の一塁到達前のアウト」の形をとるので、このプレイにおける全走者の得点が認められなくなります。三塁走者と二塁走者の得点は取り消され、3-1で6回を迎えます。ミラクルプレイですね。
アピールの順番が違うだけですが、結果はまるで変わります。
なお、当然ですが、Cの方法では二塁塁審は何もしてくれません。
第3問【★★★★★】このプレイで得点は何点?
5回ウラ、一死満塁。打球はライト線を抜け、ランニングホームランになりそうな状況です。
三塁走者、二塁走者、一塁走者がホームイン。そして打者走者も三塁を回って本塁に還ってくるところで、外野からの返球が間に合い、打者走者は本塁クロスプレイでアウトになりました。これで2アウトです。
ここで、遊撃手がボールを受け取って二塁塁審にアピールしました。
「一塁走者が二塁を踏んでいませんでした」
二塁塁審はこのアピールを認め、アウトを宣告しました。これで3アウトです。
さて、このプレイでの得点はどうなるでしょう。
- 3点
- 2点
- 0点
第3問 解説
答えは…(スクロールすると答えがあります)
--------------------------------------------------
C. 0点 です!
そんな馬鹿な!と思った人、多いんじゃないでしょうか。
もう一度、公認野球規則5.08(a)を見てみましょう。
公認野球規則5.08 得点の記録
(a) 3人アウトになってそのイニングが終了する前に、走者が正規に一塁、二塁、三塁、本塁に進み、かつこれに触れた場合には、その都度、1点が記録される。
【例外】 第3アウトが次のような場合には、そのアウトにいたるプレイ中に、走者(1、2にあたる場合は全走者、3にあたる場合は後位の走者)が本塁に進んでも、得点は記録されない。
(1) 打者走者が一塁に触れる前にアウトにされたとき。(5.09a、6.03a参照)
(2) 走者がフォースアウトされたとき。(5.09b6参照)
(3) 前位の走者が塁に触れ損ねてアウトにされたとき。(5.09c1・2、同d参照)
実はこのプレイは【例外】(2)の「走者がフォースアウトされたとき」に当たります。
参照となっているフォースアウトに関する規則5.09(b)(6)も見てみましょう。
公認野球規則5.09(b)(6)
打者が走者となったために、進塁の義務が生じた走者が次の塁に触れる前に、野手がその走者またはその塁に触球した場合。(このアウトはフォースアウトである)
ただし、後位の走者がフォースプレイで先にアウトになれば、フォースの状態でなくなり、前位の走者には進塁の義務がなくなるから、身体に触球されなければアウトにはならない。
一塁走者にとって二塁は進塁義務のある塁で、フォースの状態で走者が塁を空過してもフォースの状態は残ります。
しかし、第2問の「Aの方法のアピール」で確認したように、
打者走者が先にアウトになったら、フォースの状態は解除されるのでは?
このように思った人が多いことと思います。
実は、打者走者のアウトのされ方が第2問と違います。打者走者は本塁でアウトになっていて、このアウトはフォースプレイによるアウトではありません。
「後位の走者がフォースプレイで先にアウト」になっていないので、一塁走者のフォースの状態は残るのです。
よって、一塁走者のアピールアウトはフォースアウト。そして、第3アウトがフォースアウトなので、このプレイでの得点は0点です。
びっくりするような結論ですが、この解釈の確認は、2008年度 公認野球規則改正の際に、日本野球規則委員会から公式に示されたものです。
■7.08(e)[当時]の改正
…こうした調査を踏まえ、規則委員会としては、「フォースの状態で塁を空過しても、フォースの状態は依然残ること」を確認した上で、わが国の規則書を上記のように「後位の走者がフォースプレイで先にアウトになれば」と訳し直すことにした次第です。「フォースプレイで先に」と直接的な表現になり、解釈がより明確になったのではと考えます。
ちなみに、1971年までは今回改訂のような訳文になっており、その後、規則委員会でどのような検討がなされたのか分かりませんが、1972年以降、「ただし、フォースプレイにおいて」と表現が変わっています。したがって、今回、1971年以前の訳文に戻ったということになります。
まとめに代えて
アピールプレイって奥が深く、時としてチームの失点を救うこと、お判りいただけたでしょうか。
ルールを知っているかどうかは、チームの勝利のためにとても大切です。これをきっかけに、ルールについて詳しく知りたいと思ってくれる人が増えてくれたら幸いです。
今回の話の逆パターン、アピールを怠ることで失点する場合もあります。
くわしくは こちら▼ を。