8月4日、東京オリンピック野球競技準決勝、日本vs韓国戦。
かなりしびれる試合展開でしたね。
さて、8回のこのプレイと、その後のチャレンジ?に疑問を感じた方が多いようです。ここでは、このプレイと審判員の対応について解説していきます。
セーフ、オフ・ザ・バッグ!
一塁ゴロで併殺かと思われたこのプレイ。一塁塁審はセーフを宣告しました。タイミングはアウトでしたが、ベースカバーに入った投手が一塁ベースを踏むことができていなかったのです。
このとき一塁塁審の動作に、見慣れないものがあったと感じた方。
鋭いです。一塁塁審は、下の写真のような動作をして、「セーフ、オフ・ザ・バッグ!」と宣告しました。
セーフを宣告した後、足が外れた方向に両手を振るジェスチャーをして、「オフ・ザ・バッグ」と言います。つまり、これをすることによって、「タイミングはアウトでも足が外れていたからセーフ」と、セーフと判定した根拠を示すわけですね。
打者走者がフェア地域に駆け抜けていいのか?
近藤選手は一塁ベースを踏んだ後、大きくフェア地域側を駆け抜けました。気付いた韓国の投手がダッシュして近藤選手にタッグ。しかし、一塁塁審の判定はセーフでした。
駆け抜けはファウル地域じゃないとだめだとコーチに教わった!と言う野球少年、多いと思います。それは、ある意味正しいことです。
しかし、せっかくなので、野球規則を確認しましょう。
公認野球規則5.09 (11)
走者が一塁をオーバーランまたはオーバースライドした後、ただちに一塁に帰塁しなかった場合(走者はアウトになる)。一塁をオーバーランまたはオーバースライドした走者が二塁へ進もうとする行為を示せば、触球されればアウトとなる。
打者走者の一塁駆け抜け(オーバーラン)は、この規則で認められています。その条件は、直ちに一塁に帰塁すること。ここには、ファウルグラウンドに駆け抜けること、とか、フェア地域に入ってはいけない、と言った文言はありません。
一塁を駆け抜けた打者走者が触球(タッグ)されてアウトになるのは、走者が二塁へ進もうとする行為を示したかどうか。つまりこの場合は、近藤選手が二塁に行こうとしていたかどうかが判断基準となります。
しかし、二塁に行くことを考えていたかどうかは、本当のところは本人にしか分からないので、審判員は、審判員から見て「二塁に行こうとしているように見えたかどうか」で判断します。
近藤選手は、駆け抜け後、一塁方向に戻ってこようとしていました。また、一塁を駆け抜ける際にバランスを崩していましたし、とても二塁を狙えるような状況でもありませんでした。今回は、一塁塁審から見て、近藤選手に二塁に行こうとするような意思はないと見たんですね。だから、触球(タッグ)時も、セーフが宣告されました。
なぜ野球のコーチはファウル地域を走れと言うのか
じゃあなんで、野球を教えるコーチはルールに書いてもいないのに、ファウル地域を走れと言うのか。
理由は、野手との接触防止(安全のため)と、審判員から「二塁への進塁の意志あり」と取られないようにするため、の2点だと考えられます。この指導自体は具体的な内容で分かりやすいので、小学校低学年の児童に指導する際も有効だと考えます。しかし、強調して伝えるあまり、
- フェア地域を駆け抜けると、触球(タッグ)されたらアウトになる
- ファウル地域ならどう駆け抜けても、触球(タッグ)されてアウトになることはない
などと、選手が誤解して理解することがあるようです。
ファウル地域であっても、二塁に行こうとするそぶりが一度でも見られれば、もう駆け抜けルールは適用してもらえなくなります。
打者走者の走塁を見ると、ほんの少しだけ二塁に行こうとしたのが分かるでしょうか。これくらいの動きをしたら、触球(タッグ)されるとアウトです。
指導者の方々には、ぜひ、少年たちの発達段階に応じて、野球規則に記載されている文言をしっかり理解できるように指導していただきたいと思います。
チャレンジ権がもうないのに、なぜ監督が出てこれた?
話を戻しましょう。近藤選手セーフの判定に、韓国チームの監督がベンチを出て球審に何かを伝えました。球審は、塁審3人を集めました。
この試合で韓国チームはすでに、ビデオ判定を要求できる権利(チャレンジ)を使ってしまっています。権利がないのに、なぜ要求できるのか。他の競技でもあった、「レフェリーチャレンジ」がここでも発動か!という声もありました。
違います。今回の監督の行動は、この規則に基づきます。
公認野球規則8.02(b)
審判員の裁定が規則の適用を誤って下された疑いがあるときには、監督だけがその裁定を規則に基づく正しい裁定に訂正するように要請することができる。しかし、監督はこのような裁定を下した審判員に対してだけアピールする(規則適用の訂正の申し出る)ことが許される。
監督の主張は、想像するに、
「打者走者は、二塁に行こうとする意思を見せたのではないか。もし、そうならアウトにしないのは規則適用を誤っていることになる。確認し、正しく裁定してほしい。」
といった要請であったと考えます。これは、ストライクかボールかというような審判員の判定への異議ではない、通常、監督に認められる主張であり、また、送球と打者走者の足とどちらが速かったか、というようなタイミングについてのことでもないので、チャレンジとも関係ありません。
審判団は、今回の判定がセーフでいいかどうかを確認するためには、リプレイ映像を見たほうがよいという意見にまとまったのだと思います。
結果として、監督の主張は認められませんでしたが、審判団が自主的にリプレイ映像を見たので、韓国側のチャレンジではない、というのが今回の対応です。
「チャレンジ権がないのに監督が抗議して、レフェリーチャレンジが発動した」という指摘は、適切ではありません。