numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

捕手と打者走者が出合い頭に衝突したら…

野球では一般に、走者と野手が接触すれば、守備妨害か走塁妨害のどちらかです。基本的にはどちらかになると考えて間違いありません。

その中で例外的な扱いなのが、捕手と打者走者の出合い頭の接触です。守備妨害、走塁妨害の考え方とともに、何がどうして例外なのかを説明します。

野球の大原則は「守備優先」

野球のルールに詳しくない方でも、「野球では守備側が優先」というのは、何かのときに聞いたことがあるフレーズではないでしょうか。

公認野球規則6.01(b)には、「守備側の権利優先」として、規則が定められています。

公認野球規則6.01(b) 守備側の権利優先

攻撃側チームのプレーヤー、ベースコーチまたはその他のメンバーは、打球あるいは送球を処理しようとしている野手の守備を妨げないように、必要に応じて自己の占めている場所(ダッグアウト内またはブルペンを含む)を譲らなければならない。

なぜ、守備側が優先なのか。

野球は、サッカーやバスケットボールなどのゴール型球技、バレーボールやバドミントンなどのネット型球技と異なり、攻撃と守備が明確に区別されています。球技の中では、特殊なスポーツです。他の競技ではボールを持っている側が攻撃するのに対し、野球では、ボールを扱うのは守備側。攻撃側がボールに何かするのは、打者が投球をバットで打ち返すときだけで、それ以降、走者は基本的にボールから逃げる動きになります。

野手は、ボールに合わせて守備をしますから、ボールが飛んでくれば、野手の行動は制限されます。そうなると、攻撃側である走者が、ボールや野手を避けなければいけません。こういうことから、野球は「守備優先」のルールになっています。

走者に守備妨害が宣告される場合

打者または走者による守備妨害(インターフェア)は、公認野球規則6.01(a)に記載されています。今回は「走者と野手が接触した場合」がテーマなので、6.01(a)項の(10)と、ペナルティが記載されている部分について見ていきます。

公認野球規則6.01(a) 打者または走者の妨害

次の場合は、打者または走者によるインターフェアとなる。
(10) 走者が打球を処理しようとしている野手を避けなかったか、あるいは送球を故意に妨げた場合。(以下略)
インターフェアに対するペナルティ
走者はアウトになりボールデッドとなる。
【原注1】打球(フェアボールとファウルボールとの区別なく)を処理しようとしている野手の妨げになったと審判員によって認められた走者は、それが故意であったか故意でなかったかの区別なくアウトになる。(以下略)

6.01(a)(10)の条文を読んでいくと、2つのことが書かれています。

  • 打球に対しては、「故意」かどうかは関係なく、妨げになった場合* 送球に対しては、「故意」に妨げた場合

打球は「打者が打ったボール」、送球は「野手が投げたボール」という違いがあります。また、「妨げになった場合」は、走者が野手に接触して野手が守備できなかった場合はもちろん、打球や送球に当たった場合も該当します。

走者が、ボールを守備しようとしている野手や、まだ野手が守備していない打球に当たったら、「故意」かどうかは関係なく、問答無用で守備妨害(一部、例外規定があります)。一方、送球に当たった場合は、それが「故意」でなければ守備妨害には当たりません。

野手に走塁妨害が宣告される場合

野手が守備をしているときは守備優先ですが、守備をしていなければ優先されるべきは、走塁のほうになります。つまり、進塁しようとしている走者に進路を譲らなければならず、野手が走塁を妨げたと審判員が判断すれば、走塁妨害(オブストラクション)*1が宣告されます。

公認野球規則6.01(h) オブストラクション

【付記】 捕手はボールを持たないで、得点しようとしている走者の進路をふさぐ権利はない。塁線(ベースライン)は走者の走路であるから、捕手は、まさに送球を捕ろうとしているか、送球が直接捕手に向かってきており、しかも十分近くにきていて、捕手がこれを受け止めるにふさわしい位置を占めなければならなくなったときか、すでにボールを持っているときだけしか、塁線上に位置することができない。

【付記】には「捕手」と書かれていますが、一般に野手のことを言いますし、得点しようとしていなくても走者の進路をふさぐ権利はないということです。

《例外》走者と野手の接触があっても守備妨害にも走塁妨害にもならない場合

守備妨害と走塁妨害についてはここまで述べてきた通りで、基本的に走者と野手が接触すれば、守備妨害か走塁妨害のどちらかですが、例外が、「打者走者と捕手の出合い頭の接触」です。先ほどの守備妨害の説明で確認した、公認野球規則6.01(a)(10)の【原注】にその規定があります。

公認野球規則6.01(a)(10)

【原注】捕手が打球を処理しようとしているときに、捕手と一塁へ向かう打者走者とが接触した場合は、守備妨害も走塁妨害もなかったとみなされて、何も宣告されない。打球を処理しようとしている野手による走塁妨害は、非常に悪質で乱暴な場合にだけ宣告するべきである。たとえば打球を処理しようとしているからといって、走者を故意につまずかせるようなことをすれば、オブストラクションが宣告される。

例えば、打者が振ったバットを止めようとしたが、投球に当たってしまい、打球が一塁方向に転がっていったようなときを考えてみてください。

打球を処理しようとする捕手は、打球めがけて前に飛び出しますが、これは当然の動きです。また、打者も、ボール打ったら一塁に向かって走ろうとしますから、バッターボックスから飛び出すのは当然の動きです。すると、出合い頭で接触するときは、どちらも悪くない。そのため、守備妨害にも走塁妨害にもなりませんよ、と規則で定められています。

規則にはこの場合、「何も宣告されない」と記載されています。

しかし、本当に審判員がノージェスチャー・ノーボイス、つまり、選手が接触したのに何も動作せず、引き続きプレイを「見守っているだけ」だったとしたら、違和感ありまくりですよね。

「あれ?選手がぶつかったのに!審判、ちゃんと見てるの?」

などと疑問や不信感を抱かれかねません。

実際にはこのようなとき、審判員(この例だとたいてい球審)は、両手を水平に広げるセーフのジェスチャーと共に、「That's Nothing!」と宣告します。「接触があったことは確認したが、何もない(守備妨害でも走塁妨害でもない)」という意味であり、このままプレイを続けることを選手や観客に示します。

ちなみに、これが起こるときはほぼ間違いなく右打者です。なぜなら、打者が一塁に向かって走ろうとするときに捕手の前を横切らないと、これは起こらないからです。右打者なら一塁に向かって走るとき捕手の前を通りますが、左打者は、捕手の前に出ずに一塁に向かって走れますよね。

まとめ

  • 野球の原則は守備優先。
  • 打球に対しては、「故意」かどうかは関係なく、野手の妨げになったら守備妨害。
  • 送球に対しては、「故意」に妨げたら守備妨害。
  • 野手がボールを処理していないときは、走塁が優先。
  • 野手が走塁を妨げたと審判員が判断すれば、走塁妨害。(接触の有無は宣告の要件ではないが、接触があったのなら、当然、走塁妨害)
  • 「打者走者と捕手の出合い頭の接触」は、守備妨害でも走塁妨害でもない。審判員は、両手を水平に広げるセーフのジェスチャーと共に、「That's Nothing!」と宣告する。

接触があったときって、野球に限らず、アツくなりがちです。ここで説明したのは原則であり、もちろん細かな例外がありますが、まずはこれを頭に入れておくと、どちらの反則になるのか、見極められるようになりますよ。野球観戦の参考になさってください。

*1:※走塁妨害に関して、詳しくはこちらの記事で。

num-11235.hateblo.jp