2023年7月22日、高校野球選手権千葉大会 専大松戸vs拓大紅陵の試合は、延長12回、3時間15分の激闘の末、専大松戸が勝ちました。
この試合の11回ウラ、専大松戸の攻撃。タイブレークの無死一・二塁から、守備妨害と判定されるプレイが起こりました。
11回裏の守備妨害のプレー#拓大紅陵 #専大松戸 pic.twitter.com/U4CfSMlgdr
— ゆう⚾️ (@yuuyusong) 2023年7月22日
1-0拓大リードの11回裏の守り
— こるく (@koluku89) 2023年7月22日
タイブレーク無死1・2塁
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セカンドゴロ、ボール前に落とす
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セカンドと1塁走者接触
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1塁送球アウト
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守備妨害判定で1塁走者と打者走者アウト、2塁走者も戻して2死2塁から再開の判定
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専大松戸抗議、審判協議
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守備妨害判定のまま1死1・2塁で再開
実は上記ツイートの流れは一部誤りがあって、守備妨害の判定の時点でボールデッドになり、一塁走者だけがアウトになって、打者走者はアウトになっていません。もともと審判員は、一死一・二塁で再開する処置をしていました。
さて、Twitter上の反応を見ていると大きく3つの疑問に分類できるように感じました。
- これは守備妨害なのか。走塁妨害にはならないのか
- 守備妨害ならどうして一塁走者だけアウトなのか。併殺にならないのか
- なんでこんなに協議が長引いたのか
今回は、それぞれについて解説することから、守備妨害のルールについて説明します。
これは守備妨害なのか?
端的に結論だけ言うと、守備妨害です。
守備妨害のルールは、公認野球規則6.01(a)(10)に記載があります。
公認野球規則6.01(a)(10)
(次の場合は、打者または走者によるインターフェアとなる。)走者が打球を処理しようとしている野手を避けなかったか、あるいは送球を故意に妨げた場合。
この規則のポイントは、以下の通りです。
- 打球については、走者が野手を避けなければ、故意でなくても守備妨害。
- 送球については、審判員が故意に妨げたと判断すれば、守備妨害。
今回のこのボールは、打球でしょうか。送球でしょうか。
二塁手が打球を処理して、一度落球します。落球したという事実だけとらえれば、確かに一度守備は完了していることになります。しかし、落球した「打球」は二塁手が拾い直せるところに転がっているので、引き続きこれを処理する守備ができる位置・態勢にあると考えられます。
ですから、二塁手は「打球を処理」していて、一塁走者は処理の妨げになったので、故意であろうがなかろうが、守備妨害です。
野球でよく言われる「守備優先」とはこういうときに使う言葉であり、実はそのこともまた、ルールに記載されています。
公認野球規則6.01(b) 守備側の権利優先
攻撃側チームのプレーヤー、ベースコーチまたはその他のメンバーは、打球あるいは送球を処理しようとしている野手の守備を妨げないように、必要に応じて自己の占めている場所(ダッグアウト内またはブルペンを含む)を譲らなければならない。
どうして併殺にならないのか
拓大紅陵側にしてみると、打者走者がアウトにできたから、併殺になったのではないかと思いますよね。打者走者が一塁に残されたことに納得がいかない人もいたようです。
守備妨害が宣告されたときは、その時点でボールデッドになり、一塁に送球するところから先のプレイは無効です。したがって、打者走者はアウトになっていません。
そして、守備妨害宣告による処置として、今回の場合は、アウトになった一塁走者以外の走者が投球当時に占有していた塁まで戻されます。
公認野球規則6.01(a) インターフェアに対するペナルティ
走者はアウトになりボールデッドとなる。
審判員が、打者、打者走者または走者に妨害によるアウトを宣告した場合には、他のすべての走者は、妨害発生の瞬間にすでに占有していたと審判員が判断する塁まで戻らなければならない。ただし、本規則で別に規定した場合を除く。
打者走者が一塁に到達しないうちに妨害が発生したときは、すべての走者は投手の投球当時占有していた塁に戻らなければならない。
ただし、打者は打撃を完了していて、打席に戻ることができません。また、アウトにもなっていません。このような場合は、打者走者に一塁を与えるのが野球のルールの基本的な考え方です。*1
なんでこんなに協議が長引いたのか?
どうやら専大松戸の監督が、「接触していない」と主張したことで説明が長引いたようですね。
接触していれば文句なしで守備妨害ですが、接触しなくても守備を妨害したと審判員が判断すれば、守備妨害です。例えば、転がっているボールが野手に見えないように立ち止まって視界を遮るとか、ファウルフライのときにベースコーチが場所を譲らなかったことで捕球に行けなかったといったことも、守備妨害にあたります。
監督としては、延長で1点負けている状況での攻撃なので「守備妨害」の判定は容易に受け入れがたかったのかもしれません。しかし、15分も審議しなければならないような難しい判定ではなかったと感じます。なるべく早く切り替えて次のプレイに移るべきではなかったかというのが、審判目線での率直な感想です。
まとめ
- 二塁手の打球処理の妨げになっているので、故意かどうかは関係なく、一塁走者は守備妨害を宣告されます。
- 守備妨害が宣告されると、その時点でボールデッドなので、一塁でのプレイは無効です。そのため、打者走者は一塁が与えられます。
この解説が野球観戦のお役に立てれば幸いです。
選手も審判員も精一杯やった結果です。再開が遅くなったことに対して「審判をやめろ」「ルールを勉強しろ」など野次を飛ばすことは、野球ファン全体の品格を貶めるだけなのでやめましょう。
*1:すると、状況によっては走者が押し出されることもありますが、少なくとも走者は一人アウトになっているので、押し出しで得点が記録されることは起こりえません。