numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

山崎康晃投手の偽投はなぜボーク?横外しはダメなのか?

2024年5月31日の山﨑康晃投手の牽制がボークと判定されたことについて、「プレートを外しているのにどうしてボーク?」という意見が多く見られます。

この事例では、「投手板(プレート)から軸足を外す」とはどういうことか、がポイントになります。

すでに元審判員の坂井遼太郎さんがX上で解説をされていますが、私なりの表現で解説を加えたいと思います。

まずは牽制動作を見てみましょう

ちょうどいい位置から動画を取っていた人がYouTubeに公開してくれていますので、こちらを参考に解説します。

この動画の1分14秒から、山崎投手が偽投を2回しますが、2回目がボークです。

www.youtube.com

三塁塁審の岩下さんは、「投手板を外さずに偽投した」からボークと説明しています。

これを聞くと、恐らく「外れてるじゃない!」と反応する方が多いと思います。

これは、ルール上「投手板(プレート)から軸足を外した」ことにはなっていないという判断からです。詳しく解説します。

ルール上「投手板から軸足を外す」とはどういうことか?

投手板を外すときの外し方については、公認野球規則5.07(a)【注4】に示されています。

公認野球規則5.07(a)【注4】

 投手は走者が塁にいるとき、セットポジションをとってからでも、プレイの目的のためなら、自由に投手板を外すことができる。この場合、軸足は必ず投手板の後方に外さなければならず、側方または前方に外すことは許されない。投手が投手板を外せば、打者への投球はできないが、走者のいる塁には、ステップをせずに、スナップだけで送球することも、また送球のまねをすることも許される。

そして、公認野球規則6.02(a) にボークのルールがあり、ボークに該当する場合が13項目記載されています。このうちの(2)が今回山﨑投手に適用されたルールです。

公認野球規則6.02(a)(2)

投手板に触れている投手が、一塁または三塁に送球するまねだけして、実際に送球しなかった場合。

【注】 投手が投手板に触れているとき、走者のいる二塁へは、その塁の方向に直接ステップすれば偽投してもよいが、一塁または三塁と打者への偽投は許されない。投手が軸足を投手板の後方へ外せば、走者のいるどの塁へもステップしないで偽投してもよいが、打者にだけは許されない。

この【注】でも投手が軸足を投手板の後方へ外せばと書かれています。「軸足を外す」とはルール上、プレートの後方に限られます。

実際、軸足の「横外し」とか「前外し」とかあるじゃない?ダメなの?

「横外し」という用語で混乱が起こりやすくなっていると思います。

先ほども説明した通り、「軸足を外す」とはルール上、プレートの後方に限られます。「横外し」とか「前外し」とかは認められていません。これが、ルールの大前提です。

軸足を外したとみなされる場合と外したとはみなされない場合

①や②なら、軸足を外したとみなされます。軸足を外した後なら、偽投をしても、スナップスローで送球しても、飛び出している走者を追いかけても問題ありません。

一方、③や④の場合、投手板(プレート)の後縁を超えていないので、「軸足を外した」とはみなされません。

そもそも、投手が投手板から軸足を外さずに塁へ送球するには、自由な足を送球する塁の方向に踏み出すことが求められており、厳格にルールを適用するなら、軸足は「外す」以外の動作では動かしてはいけないことになってしまいます。

公認野球規則6.02(a)(3)

投手板に触れている投手が、塁に送球する前に、足を直接その塁の方向に踏み出さなかった場合。

【原注】 投手板に触れている投手は、塁に送球する前には直接その塁の方向に自由な足を踏み出すことが要求されている。投手が実際に踏み出さないで、自由な足の向きを変えたり、ちょっと上にあげて回したり、または踏み出す前に身体の向きを変えて送球した場合、ボークである。投手は、塁に送球する前に塁の方向へ直接踏み出さなければならず、踏み出したら送球しなければならない。(二塁については例外)
 走者一・三塁のとき、投手が走者を三塁に戻すために三塁へ踏み出したが実際に送球しなかったら(軸足は投手板に触れたまま)、ボークとなる。

しかし、右投手が一塁方向に送球するときは、一塁に向かって振り向かないと投げられません。人間の体のつくりとして、軸足を動かさずに一塁に踏み出すことはかなり無理のある話です。そのため、③や④のような位置に軸足が動くことは、「一塁に送球する一連の動作」として許容されています。審判用語で「一挙動」という言い方をします。これが、いわゆる「横外し」と呼ばれている動作です。

※なお、一塁への牽制で⑤のような位置に動くことは、明らかに一歩、軸足を踏みかえたと判断し、私はボークを宣告します。

改めて山﨑投手の牽制動作を確認してみると……

1回目は、右足のつま先が完全にプレートの後縁の後方にありますので、軸足を外したとみなすことができます。

2回目は、つま先の位置が、プレートの後縁よりも前にあることになります。これはいわゆる横外しの扱いになり、軸足を外したとはみなされません。もし、このまま一塁に送球していれば、「一塁に送球する一連の流れ(一挙動)」としてボークにはなりません。

しかし、実際には山﨑投手は偽投(投げるふり)して、一塁に送球していませんでした。そのため、三塁塁審の岩下さんは、「投手板を外さずに偽投した」からボークと説明しました。

ただし、恐らく山﨑投手本人は、1回目と2回目で何かを変えたつもりはなかったでしょうから、ボークを宣告されてもすぐに理解は出来なかったでしょう。

一方、岩下さんはよく見ていらっしゃったと思います。ナイスジャッジです!しかし、場内説明は、聞いただけでは理解が難しい表現になってしまっています。審判員の皆さんの課題でしょうか…

おまけ:二塁牽制での前外しについて

大前提として、一塁や三塁と違い、二塁は軸足を外さなくても偽投することは認められています。下の図の①~③から偽投をしても、ボークにはなりません。

①は、軸足を外したとみなされます。何の問題もない牽制動作です。

②は、軸足をプレートに付けた状態から、自由な足(左足)が自分の体の前を通過して二塁方向に踏み出す牽制動作です。右回り牽制とか前回り牽制などと呼ばれているかと思います。このとき、軸足(右足)のつま先が二塁方向に向くように動きますが、これは「二塁に送球する一連の動作(一挙動)」として許容されています。

③は、軸足をプレートに付けた状態から、自由な足(左足)が自分の体の後ろを通過して二塁方向に踏み出す牽制動作です。左回り牽制とか逆回り牽制、背中回り牽制などと呼ばれているかと思います。このとき、回転のために軸足(右足)のつま先が本塁向きに動きますが、これも「二塁に送球する一連の動作(一挙動)」として許容されています。

ここで、②も③も、軸足が動いてプレートに接している状態ではなくなっていますが、「軸足を外した」とはみなされません。なぜなら、軸足が投手板(プレート)の後縁を超えていないからです。しかし結果だけ見ると、両足ともに動いていて、着地は軸足のほうが先であり、しかもプレートよりも前方に動いています。このことを指してこのような二塁牽制を「前外し牽制」と呼んでいる人もいます。

すると、「前外し」の意味を拡大解釈して、④のように明らかに一歩、本塁方向にステップしてから二塁に送球する動作も見かけます。

私は、④はためらわずボークを宣告します。なぜなら、投手板の前方に軸足をステップさせることは、規則で認められていないからです。軸足が動くことを許容するのは、あくまでも「二塁に送球する一連の動作(一挙動)」であり、投手板を外さずに送球するときの自然な動きだからであって、前に外すことを認めているわけではありません。

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