2024年7月27日の高校野球千葉大会決勝、木更津総合高校 対 市立船橋高校の試合は、延長10回タイブレークで、守備妨害を巡って試合が一時中断することとなりました。
また、サヨナラの場面でも送球と打者走者と野手が接触する事象が起こりました。
今回は、具体的な事象をもとに、改めて守備妨害について確認してみたいと思います。
10回表 送球に対する守備妨害
1死二・三塁、打撃中に三塁走者が飛び出しているのを見て刺そうとした捕手の送球が三塁走者に当たり、送球はファウルスタンド方向へ転がっていきました。三塁走者が本塁に向かおうとするところで、球審は守備妨害を宣告しました。
これが守備妨害。 pic.twitter.com/qdWI2eHfb4
— たーぼー🫁 (@big_see25) 2024年7月27日
さて、SNS上の反応を見ていると、解説の方が「ラインの内側を走ったということで……」と発言したことに引っ張られてなのか、三塁走者が走っていた位置がファウルラインの内側(フェアグラウンド内)であることを取り上げて、「守備妨害と判定されても仕方がない」というような意見が見られます。
今回のプレイにはどのようなルールが適用されるのか、野球規則に基づいて説明しましょう。
送球に対する守備妨害が宣告される場合のルール
打球に対する守備妨害と、送球に対する守備妨害は適用条件が違います。
公認野球規則5.09(b)(3)
(次の場合、走者はアウトとなる。)
走者が、送球を故意に妨げた場合、または打球を処理しようとしている野手の妨げになった場合。ペナルティ 走者はアウトとなり、ボールデッドとなる。〔6.01a妨害に対するペナルティ〕参照。
公認野球規則5.09(b)(7)
(次の場合、走者はアウトとなる。)
走者が、フェアボールに、フェア地域で触れた場合。(5.06c6、6.01a11参照)
この際はボールデッドとなり、打者が走者となったために次塁への進塁が許された走者のほかは、得点することも、進塁することも認められない。
打球に対しては、故意かどうかは関係なく、打球を処理しようとしている野手の妨げになったらアウト、フェアの打球にフェア地域で触れればアウトというルールになっています。
一方、送球に対しては、「送球を故意に妨げた場合」と書かれており、審判員から見て走者が故意に送球に触れたと見た場合に、守備妨害が宣告されます。
当然ながら、走者がどのような意図をもって走塁していたかは本人でなければ分かりません。しかし、守備妨害かどうかを判定するのは審判員です。故意とみなすかどうかは、最終的には審判員の主観によります。
故意に送球を妨害したと判断するポイントは
私は当該審判員ではないので、あくまでも私が見た印象での話ですが、三塁走者は故意に送球に触れたように見えます。そう感じたポイントを映像から挙げます。
- 走者は、捕手が送球を投げたあと、ボールを見ながら三塁に戻ろうとしている
- その直後、送球に背を向けつつ送球コースに入る動きがみられる
確かに、走者が背中で送球を受けた場合は、後ろから来るボールが見えないのだから「故意ではない」と判定されやすくなります。しかし、この三塁走者はぎりぎりまでボールを見ていました。その直後に送球コースに入っているように見えますので、背中でボールを受けても「故意ではない」とは言い難いです。
※解説の方が説明されたような、「ラインの内側(フェアグラウンド内)で当たったから守備妨害」というルールは、存在しません。
※2014年日本シリーズの西岡選手が守備妨害を宣告された走塁を例に挙げ、「あれと同じ」と捉えている人もいましたが、これは打者走者に関するルールであり、ルールに対して少し誤解があるかもしれません。詳しくはこの後で。
※なお、このプレイは審判員の主観によって判断するため、審判員によって見解が分かれる可能性があります。
※また、日本プロ野球で今回のような事象が起こっても、審判員の主観による判断ですから、リクエスト(リプレイ検証)の対象にはなりません。
10回裏 打者走者と野手と送球が接触した場面
結論から言うと、これは守備妨害ではありません。
このプレイの比較対象となるのは、まさに2014年日本シリーズの西岡選手が守備妨害を宣告された場面で、ポイントはスリーフットレーンです。
スリーフットレーンとは
一塁側のファウルラインと、本塁一塁間の中間点から一塁方向にかけてファウルグラウンドにかかれているスリーフットラインで囲まれた、幅3フィート(91.44cm)の地帯のことです。
スリーフットレーンと守備妨害の関係
スリーフットレーンは、打者走者の守備妨害の判定に関係します。
打者走者が本塁周辺にゴロを打った場合、打者走者は背後にいる野手がどこから送球し、どのような軌道で来るか見えません。しかも、その送球を受ける一塁手に向かって走るのですから、結果的に送球コースに入ってしまうことは十分起こりえます。
そのため、次の規則が設けられています。
公認野球規則5.09(a)(11)
一塁に対する守備が行なわれているとき、本塁一塁間の後半を走るに際して、打者がスリーフットラインの外側(向かって右側)またはファウルラインの内側(向かって左側)を走って、一塁への送球を捕らえようとする野手の動作を妨げたと審判員が認めた場合(打者はアウトとなる)。この際は、ボールデッドとなる。
ただし、打球を処理する野手を避けるために、スリーフットラインの外側(向かって右側)またはファウルラインの内側(向かって左側)を走ることはさしつかえない。【原注】 スリーフットレーンを示すラインはそのレーンの一部であり、打者走者は両足をスリーフットレーンの中もしくはスリーフットレーンのライン上に置かなければならない。
今回の場合、一塁への送球が打者走者に当たった瞬間を見ると、打者走者はスリーフットレーンの中をちゃんと走塁しています。したがって、一塁への送球に対する打者走者の守備妨害という判断にはなりません。
まとめ
- 10回表の三塁走者の動きは、私には故意に送球に触れたように見えるので、守備妨害の判定は妥当だと思う。ただし、このプレイは審判員の主観による判断なので、守備妨害としない判定が起こることもあり得る。なお、プロで起こってもリプレイ検証の対象にはならない。
- 10回裏の打者走者と野手と送球の接触は、打者走者がスリーフットレーンの中をちゃんと走塁しているので、守備妨害にはならない。
最後に、木更津総合の選手も、市立船橋の選手も、審判員の皆さんも、全力でがんばった結果であると思います。この試合に携わったすべての人へのリスペクトを忘れてはなりません。木更津総合の選手、関係者の皆さん、優勝おめでとうございます。