2024年7月9日の西武対日本ハム戦で、一塁空過を指摘したアピールプレイで、二塁打が取り消されてアウトになる事象がありました。
それ自体が珍しいプレイと言えるのですが、松田 貴士(まつだ たかひと)さんのX(旧Twitter)での投稿による指摘で、私もとんでもないことに気づいていないことが分かりました。
自戒の念を込め、このプレイの本来の規則適用を解説します。
どんなプレイだったのか
デイリースポーツさんの記事が、最も事実が分かりやすいので、引用します。
五回2死走者なし。スタメン出場の野村は右中間に打球を放って一塁を駆け抜け二塁打にした。6打席目で移籍後初安打となり、記念のボールは西武ベンチに回収された。だが日本ハム側のアピールで一塁ベースを踏んでいないとしてアウトになった。記録は投ゴロとなった。
厳しい表情でベンチを出た西武・渡辺監督代行がリクエストを要求したが覆らず。
アピールプレイとは
走者の走塁に違反があったとき、そのことを審判員に指摘することをアピールプレイといいます。
審判員は走者が正しく走塁を行っているか(塁に触れたか)を確認していますが、塁に触れそこなったのを審判員が見つけたからと言って、直ちにアウトが宣告されることはありません。
守備側が、正しく走塁を行っていないことを審判員にアピールし、審判員がそのアピールを認めると、その走者はアウトになります。
アピールプレイのときのルール
アピールプレイは、守備側が次のプレイをする前までに行わなければなりません。
公認野球規則5.09(c)後段
本項規定のアピールは、投手が打者へ次の1球を投じるまで、または、たとえ投球しなくてもその前にプレイをしたりプレイを企てるまでに行なわれなければならない。
また、走者をアウトにするためには「ボールインプレイ」(タイムがかかっていない状態)である必要があります。
公認野球規則5.09(c)【原注】
アピールは言葉で表現されるか、審判員にアピールとわかる動作によって、その意図が明らかにされなければならない。プレーヤーがボールを手にして塁に何げなく立っても、アピールをしたことにはならない。アピールが行なわれているときは、ボールデッドではない。
今回、二塁打の後審判員がタイムをかけており、しかも、野村選手の移籍後初ヒットという記念のため、ボールは西武ベンチが回収していました。
そのため、球審から新しいボールが出され、山崎投手がマウンドに立ったところでプレイがかかり、山﨑投手はそのあとに一塁に送球しています。この点でルール上問題はありません。
じゃあ、何が問題だったのか
【実は…】
— 松田 貴士(まつだ たかひと) (@T_Matsuda44) 2024年7月10日
昨日の試合であった一塁空過のアピールアウト
実はアピールが無効になるミスを守備側が犯していましたが、審判団は見過ごしてそのままアピールを受けてしまいました
攻撃側はリクエストよりもこちらの異議申し立てをするべきでした
ヒント: 本来なら2アウト、三塁で再開 pic.twitter.com/wheWEYafvP
松田さんに指摘されるまで気づきませんでした。
自戒の念を込めて解説します。
では、山﨑投手が一塁に送球するときの動きをよく見てみましょう。
(こちらのハイライト動画の1:31~になります)
分かりましたか?
山崎投手の軸足をよーく見てください。
プレートについてプレイがかかってから、周囲の野手に一塁に送球するよう促された山崎投手は、軸足を三塁方向に動かしています。
プレートを外したつもりなのかもしれませんが、足の動きを見る限り、プレートを正しく外しているようには見えません(軸足をプレートから正しく外す場合、プレートの後縁の後方に限られます)。
そして、ボールを持ったまま3, 4歩一塁方向に歩いてから、一塁に送球しています。
プレイのために必要な塁へは、たとえそこに走者がいなくてもプレートを外さずに送球することはできますが、その場合は、自由な足を送球する塁の方向に踏み出して送球するという、牽制球を投げるときの普通の送球動作で投げなければいけません。
また、正しくプレートを外していれば、その後一塁方向に3, 4歩歩いたってボークではありません。
しかし、今回の山崎投手の送球動作は、プレートに位置した投手が一塁に送球するときのルールが守られていません。よって、本来なら、審判員から「ボーク」が宣告されてボールデッドになり、野村選手は三塁に進むこととなって、しかも西武は、ボークによって野村選手の一塁空過のアピール権が消滅します。その結果、二死三塁から試合再開となります。
適用規則としては、投手は球審がプレイを宣告したとき必ずプレートに触れている状態であることから、私は6.02(a)(3)、または正しく軸足を外していないことから6.02(a)(1)に該当すると考えます。
公認野球規則6.02(a)
塁に走者がいるときは、次の場合ボークとなる。
(1) 投手板に触れている投手が、5.07(a)(1)および(2)項に定める投球動作に違反した場合。
(3) 投手板に触れている投手が、塁に送球する前に、足を直接その塁の方向に踏み出さなかった場合。
審判員はなぜこれを見逃してしまったのか?
私も見逃したというか、言われるまで気づかなかったので反省でしかないのですが、このような審判マインドが働いたのではないかと想像します。
- 走者が塁を空過するという違反があったとき、審判員はそのことに気づいていても言うことができません。
- そんな中、守備側がどうやら空過に気づいたようです。
- プレイがかかってボールインプレイになってから、一塁に送球されて、正しくアピールがなされたら「アウトを宣告するぞ!」という心の準備を、審判員は始めます。このときの「正しくアピール」は、無意識のうちに、送球された後のことを考えてしまいがちです。
- また、ボールデッド中には走者をアウトにできないので、ボールデッド中に野手から何か声をかけられても反応してはいけない、アピールがあっても受け付けてはいけない、と、審判員がルール違反をしてはいけないという意識で身構えがちです。
- そのため、プレイがかかると、「ここからはアピールが受け付けられる!」と気持ちがちょっと楽になり、投手からの送球が来ることを期待しますから、その間のプレイを確認することが意識から抜けてしまった可能性があります。
その結果、審判員は確かにプレイを見ていたのですが、ボークに気づかなかったのだと思います。
まとめ
野球のアピールプレイのルールを勉強する上では、学ぶことがたくさんある事象です。私自身も、アピールプレイがあるとき、十分気をつけなければならないと思いました。