2024年6月2日の J2リーグ第18節 水戸ホーリーホック vs V・ファーレン長崎戦で、試合終了間際、当初ファウルなし、スローインで再開としていた判定が、ファウルでPKに変更となる事象が起こりました。
VARのないJ2において、主審が一度下した判定が変更になったことに、選手やファン・サポーターから「おかしいだろ!」「聞いたことねえよ!」などの憤りがあるようです。
判定はPKでいいのか、判定が変更されることに問題はないのかについて、解説します。
まずは当該シーンを見てみましょう
当該事象はJリーグ公式のハイライトで確認できます。90+6分のシーンです。
水戸の前田選手が、ペナルティエリア内でマテウス選手を倒してしまいました。
榎本主審はこれをノーファウルとして、ボールがタッチラインを割ったことでスローインの判定としました。
この判定に長崎側は納得がいかず、榎本主審は下平監督に説明に行きました。
ベンチを離れた後、試合再開になるかと思われたところで、榎本主審はPKに判定変更。
今度は水戸の選手やスタッフが抗議しますが、最終的にPKで試合再開となりました。
このPKが決まったところで試合終了。2-3で長崎が勝利しました。
PKの判定は妥当なのか?
前田選手がマテウス選手の足を挟むような格好で後ろから倒していますので、ファウルと判定して間違いありません。ペナルティエリア内のファウルなので、PKとなります。
主審が一度下した判定を覆すことはできるのか?
多くの皆さんの最大の疑問はこれではないでしょうか。
判定がPKで正しいのは理解したとしても、VARのないJ2では、主審が下した判定は最終のはずで、どうして覆ったのか疑問に思う人はたくさんいると思います。
たまたまこの試合をDAZN視聴してたけど、VARのないJ2でなぜこのラストプレーを一度ノーファールにしたにも関わらず、PKに判定変更したのかの流れは公開してほしい https://t.co/yY9m34bOO2
— おしりん🇺🇦 (@KeroReds) 2024年6月2日
ルール上、主審が一度下した判定を覆すことは、一定の条件の下で可能です。
サッカー競技規則 第5条「主審」に、このように記載されています。
主審は、プレーを再開した後、前半または後半(延長戦を含む)終了の合図をして競技のフィールドを離れた後、または試合を中止させた後は、その直前の決定が正しくないことに気づいても、またはその他の審判員の助言を受けたとしても、再開の決定を変えることができない。
これは、言い換えるとこのように読むことができます。
主審は、プレーを再開する前、前半または後半(延長戦を含む)終了の合図をして競技のフィールドを離れる前、または試合を中止させる前ならば、その直前の決定が正しくないことに気づいたとき、またはその他の審判員の助言を受けたときに、再開の決定を変えることができる。 |
また、第6条「その他の審判員」には、次のように記載されています。
試合には、その他の審判員(副審2人、第4の審判員、追加副審2人、リザーブ副審、ビデオアシスタントレフェリー(VAR)、および、少なくとも1人のアシスタントVAR(AVAR))を任命できる。その他の審判員は、競技規則に従って試合をコントロールする主審を援助するが、最終決定は、常に主審によって下される。
主審、副審、第4の審判員、追加副審およびリザーブ副審は、「フィールドにいる」審判員である。
(中略)
その他の「フィールドにいる」審判員は、反則を主審より明らかに事象が見えている場合に主審を援助し、主審に見えなかった著しい不正行為やその他の出来事について、関係機関に報告書を提出しなければならない。
このことから、副審や第4の審判員は、主審を援助する(主審に助言する)ことができ、主審はその助言を受けて判定を変えることが可能です。
ジャッジリプレイにも取り上げられた、判定変更のナイスジャッジ!
2020J1リーグ第28節 札幌vs清水で、清水のエウシーニョ選手のプレーがハンドの反則となったシーンは、主審が一度コーナーキックと判定したものを、副審と協議して、PKに判定を変更しました。
このように、VARがなくても、審判団が協議を行って判定を変更すること自体は、次のプレーを始める前ならば問題のないことです。
今回の事象も、主審は第4の審判員と協議をしたようだ
DAZNで、水戸vs長崎の試合の中継で実況を務めた河村さんは、判定がPKに変更になった直後、「私も(判定は)変わらないといいましたけれども、恐らく後で4thオフィシャルとも話をして……、こういうとき、副審だったり4thオフィシャルだったり、どう見えたかという確認をします」と説明しています。
つまり、映像には映りませんでしたが、榎本主審は判定を変更する前に第4の審判員と協議をしたようです。
問題は、判定変更までの流れにあると考える
審判団が協議をして判定を変更したのなら手続き的に問題はなさそうなのですが、審判団の対応がまずかったのは、審判団が協議をする前に主審が長崎のベンチと話をしてしまったことです。
つまり、時系列でいうとこういうことになります。
- 接触、転倒が起こる
- 主審は接触をファウルと判定せず、スローインを指示
- 長崎ベンチから抗議があり、主審が下平監督と話す
- (映像には映っていないが、主審が第4の審判員と協議する)
- 主審が判定をPKに変更
- 主審が判定変更の理由を水戸のキャプテンと林監督に説明
主審が長崎ベンチと話をせずに、すぐに第4の審判員と協議していたら、第4の審判員の助言を受けてPKに判定を変更した「ナイスジャッジ」として、第4の審判員や審判団が評価される場面だったはずです。
しかし、第4の審判員と協議した場面は映像で確認できず、しかも第4の審判員と協議する前に長崎ベンチの抗議を受け止めてしまいました。こうなると、ファン・サポーターからは、「長崎ベンチからの抗議で主審の判定がPKに覆った」という認識になってしまうことでしょう(それが事実かどうかはともかくです)。
今回の件をまとめると……
- 主審の最終的な判定は妥当で、このシーンは長崎にPKを与えるべきだった。
- 主審の判定変更は第4の審判員と協議をした結果のようなので、審判団としては適切な対応だったと考えられる。
- しかし、判定が変更される前に主審が長崎ベンチと話したことで、「抗議によって判定が覆った」ように見えてしまう。
- 第4の審判員は、判定を変更できるような情報を持っていたのなら、主審と監督の間に割って入ってでも長崎ベンチと話をするのをやめさせ、主審と速やかに協議すべきだったのでは?
と思いました。