2024年8月15日のオリックスvs楽天、6回裏の「併殺打ではないダブルプレイ」はあまりに珍しい事象で話題になりました。
すでに元NPB審判員の坂井遼太郎さんがX(旧Twitter)上で詳細な解説をしてくださっていますので、今回は記録として、「私の備忘録」的にまとめようと思います。
- プレイの経過
- 論点1 打球判定はだれの責任か
- 論点2 池田選手はどうすればよかったのか
- 論点3 打者走者は判定に従って走塁していたのに、アウトなのか
- 論点4 一塁塁審 嶋田さんは誰をアウトにしたのか
- 論点5 センターは本当にノーキャッチだったのか
- 論点6 ならばリクエスト(リプレイ検証)ができるのでは?
- 論点7 正しい状況にするために審判団が自主的にリプレイ検証することは?
- まとめ
プレイの経過
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— DAZN Japan (@DAZN_JPN) 2024年8月15日
これは難しい…
\#森友哉 はフェンス直撃ヒットの判定
しかし前の走者 #池田陵真 を追い越してしまいアウト
一塁走者・池田はタッチアウト
⚾プロ野球(2024/8/15)
🆚オリックス×楽天
📱Live on DAZN#DAZNプロ野球 #Bs2024 pic.twitter.com/5Mg29ah9BP
- 1アウト一塁から、オリックスの打者の森選手は、センターフェンス際に飛球を打ちあげた。
- 三塁塁審の福家さんはこの打球をノーキャッチと判定。
- 判定を見て、打者走者の森選手は一塁を蹴って二塁へ。
- 一塁走者の池田選手はフライアウトと思い、二塁付近から一塁へ帰塁。
- 一・二塁間にいた森選手は、一塁に帰塁しようとした池田選手の逆走で抜かれた(追い越しアウトが成立)。
- ボールがセンターから一塁に送られる。池田選手は一・二塁間間をやめる。
- ボールを持った一塁手が池田選手に近づき(このタイミングで一塁塁審の嶋田さんがアウトのジェスチャー)、池田選手が自分をアウトにしに来たと理解して二塁に逃げる。
- 池田選手が二塁手前でタッグされ、二塁塁審の土山さんがアウトを宣告、3アウトチェンジ。
- 責任審判である土山さんが「まず打者走者の森選手ですが追い越しでアウト。その後、一塁走者の池田選手にタッグアウトがありましたので、タッグアウト。3アウト成立で試合を再開します」と説明。
論点1 打球判定はだれの責任か
言うまでもないが、二塁塁審が内野内に位置しているので三塁塁審の責任範囲になる。
走者一塁のときの外野への打球の際の各審判の責任
審判メカニクスハンドブックの記載は次の通り。
- 二塁塁審は内野内に位置し、その位置は二塁ベースの一塁寄り、三塁寄りどちらでも構わない。この場合外野への飛球(ライナー)に対する責任は持たない。
- 一塁塁審は中堅手定位置(正面または背後の打球を含む)から右翼線寄りの打球に責任を持つ。
- 三塁塁審は中堅手定位置から左翼線寄りの打球に責任を持つ。
- 球審は外野への打球に対する責任を持たない。
二塁塁審が三塁塁審の打球判定を中継することはない。ダイレクトキャッチの時、審判員が二人も右手を挙げたらかえってそのほうが混乱するでしょう?
中嶋監督は初めて外野飛球の判定を見るのではないのだから、そのくらいのことは「野球の常識」として知っていてほしい。
論点2 池田選手はどうすればよかったのか
三塁塁審 福家さんの判定(ノーキャッチ)があっているか間違っているかは後で議論するとして、福家さんがノーキャッチと判定した以上は、それに従ってプレイをすべきだった。
本来は、ノーキャッチの判定なのだから三塁に走るべきで、ちゃんと走っていれば一死二・三塁にできるシチュエーションだった。
論点3 打者走者は判定に従って走塁していたのに、アウトなのか
公認野球規則5.09(b)(9)で、追い越しアウトは、常に後位の走者にアウトが宣告されるルールになっている。打者走者の森選手にとっては何も悪くないのにアウトが宣告されたが、これは不運としか言いようがない。
公認野球規則5.09(b)(9)
次の場合、走者はアウトになる。
後位の走者がアウトとなっていない前位の走者に先んじた場合。(後位の走者がアウトとなる)
論点4 一塁塁審 嶋田さんは誰をアウトにしたのか
送球が一塁に送られる前に追い越しは成立している。送球が一塁に送られ、一塁手が一塁触球を行った後、一塁走者を追い始めたところで嶋田さんが右手を挙げた。
右手を挙げたタイミングだけだと、「飛球確捕後のリタッチに対するアピールアウト」であるかのように見えてしまう。
後の説明ではこれが追い越しアウトだということだが、追い越しアウトを宣告していたのなら、二塁付近にいる打者走者を指差してアウトを宣告したほうが説得力が増す。
ちなみに、二塁塁審の土山さんは、しっかり一塁走者の池田選手を指差してアウトを宣告している。
論点5 センターは本当にノーキャッチだったのか
たまたま動画撮ってたけどダイレクトキャッチに見えるけど
— ちょく (@LLchoku_) 2024年8月15日
#Bs2024 pic.twitter.com/FE3Qr7ivzo
やはり別角度の映像が出てきたが、確かにダイレクトキャッチだった。
ということは、福家さんのノーキャッチ判定は残念ながら誤りだったことになる。
フェンス際のきわどいところの打球だったので、難しい判定であったのは確かだ。
論点6 ならばリクエスト(リプレイ検証)ができるのでは?
リクエストの基本的な考えは、
攻撃側 → アウトをセーフに変えるため
守備側 → セーフをアウトに変えるため
なので、基本的に攻撃側のオリックスがノーキャッチ(セーフ)を覆すリクエストはできない。しかし、今回はノーキャッチ(セーフ)をキャッチ(アウト)に変えるとダブルプレイが起こらなかったことにすることができるので、攻撃側にとって不利なリクエストをすることが結果として有利に働く事象になる。
こういう状況でリクエストができるのかどうかは、正直言って考えたことがなかったので、分からない。
また、中嶋監督が抗議で出ていってからになると、リクエストができる時間制限を超えていたと思うので、結果的に認められなかっただろう。
ちなみに、一塁走者の池田選手が福家さんの判定に従って三塁に走っていたら、一死二・三塁になったところで辰己選手がダイレクトキャッチを主張するだろうから、守備側である楽天側からのリクエストが行われていただろう。すると、リプレイ検証でダイレクトキャッチが確認でき打者の森選手がアウト、一塁走者の池田選手は審判員の判定に従って走ったのだから悪くないので、一塁に帰塁させ、二死一塁で再開となったはずだ。
論点7 正しい状況にするために審判団が自主的にリプレイ検証することは?
私はこの事象を最初に見たときに、いわゆる「レフェリーレビュー」をしてもいいんじゃないかとも思ったのだが、坂井さんによると
審判員自らのリプレイ検証をしないのか?との質問があるのですが、『キャッチ・ノーキャッチ』の判定については、現状審判員自らリプレイ検証を行うことはできません。
『チームがリクエストできるプレイ』『チームがリクエストできないプレイ』『審判員自らリプレイ検証できるプレイ』など、映像判定に関しては、想像以上にかなり細かく決められています。
とのことなので、できないらしい。
まとめ
- セルフジャッジをして帰塁した池田選手が混乱の要因になったと考える。
- 二塁塁審に「判定の中継」をしないのかと抗議した中嶋監督は、審判団に言いがかりをつけているに過ぎず、野球の審判の仕方の常識を分かっていないと言わざるを得ない。
- 打者走者は何も悪くなかったが、この状況で追い越しアウトが宣告されてしまったのは不運としか言いようがなく、結果としてダブルプレイが成立してしまったのも仕方がない。
- 確かに、三塁塁審の福家さんの判定は誤っていて、正しくはダイレクトキャッチ(アウト)だった。
- しかし、今回のシチュエーション及び現状のルールでは、オリックス側からリクエストができるかどうかは分からないし、中嶋監督が抗議で出ていった状況からでは、時間制限的に認められなかっただろう。
- 審判団自らのリプレイ検証は、できなかったらしい。