同点で迎えた最終回裏二死満塁。打者とバッテリーの攻防は、時に劇的な幕切れとなることがあります。
このような場面で四死球が起こると、押し出しとともにサヨナラゲームになります。
公認野球規則には、押し出しサヨナラのときに限って適用されるルールが存在します。
適用場面が押し出しサヨナラフォアボールや押し出しサヨナラデッドボールなどという極めて限定的な状況なので、ルールの存在を知らない方が多いことと思います。
実はこのときに限って、進塁義務があるのは……
- 押し出しサヨナラのときに限って適用されるルールとは?
- アピールプレイでサヨナラ取り消しになったのを見たことがある?
- もし走塁義務のある走者が進塁をしなかったら…?
- 押し出しサヨナラ時のルールをまとめると
押し出しサヨナラのときに限って適用されるルールとは?
実は押し出しサヨナラの場面では、進塁義務があるのは打者走者と三塁走者のみなんです。つまり、
打者走者が一塁に到達し、三塁走者が本塁を踏めば試合終了!
一塁走者と二塁走者には進塁義務がありません。
信じられないと驚く方も多いかと思いますが、このルールは、公認野球規則5.08(b)に規定されています。
公認野球規則5.08(b)
正式試合の最終回の裏、または延長回の裏、満塁で、打者が四球、死球、その他のプレイで一塁を与えられたために走者となったので、打者とすべての走者が次の塁に進まねばならなくなり三塁走者が得点すれば勝利を決する1点となる場合には、球審は三塁走者が本塁に触れるとともに、打者が一塁に触れるまで、試合の終了を宣告してはならない。
【原注】 例外として観衆が競技場になだれこんで、走者が本塁に触れようとするのを、または打者が一塁に触れようとするのを肉体的に妨げた場合には、審判員は観衆のオブストラクションとして走者の得点または進塁を認める。
この通り、ルール本文に一塁走者と二塁走者の進塁についての言及がありません。
ここで打者に一塁への安全進塁権を与える場合とは、規則5.05(b)各項に示された場合のことで、具体的に言うと次の4つが考えられます。
規則5.05(b)には冒頭に次のように記載されています。
打者は、次の場合走者となり、アウトにされるおそれなく、安全に一塁が与えられる。(ただし、打者が一塁に進んで、これに触れることを条件とする)
この状況では、打者が一塁に進むことによって塁上の走者が押し出され、自動的に次の塁への安全進塁権が与えられます。そのため、一塁走者、二塁走者の進塁は問わず、打者走者と三塁走者のみ進塁の義務を負います。ただし、打者が一塁まで進み、一塁ベースに触れることが条件です。
つまり、塁上の走者を押し出すための打者の一塁到達と、得点を成立させるための三塁走者の本塁到達のみを確認するというルールの運用になっているのです。
アピールプレイでサヨナラ取り消しになったのを見たことがある?
恐らくそれは、サヨナラヒットが打たれたときのことでしょう。
ヒットの場合は安全進塁権が与えられているわけではないので、フォースの状態にある走者には進塁の義務があります。
例えば2アウト満塁でサヨナラとなるヒットがあったときは、全ての走者が進塁しなければならないので、一塁走者が二塁に到達しなかったのを守備側がアピールするとサヨナラ取り消しです。
[試合終了の宣告まで諦めてはいけない]
— 赤穂浪士 (@COYgyjsE1Xjg556) 2024年7月19日
このようなプレーが今日でました
野球をしている人全員に見てほしい
高校野球山梨大会2024準々決勝
日本航空対帝京第三… pic.twitter.com/LhktsvfiES
この事例のように、二塁に進まなかったことをアピールしてサヨナラ取り消しとなることは、(めったにはないですが)ときどき起こる上に非常にインパクトのある判定となるため、覚えている方は多いことでしょう。
しかし、サヨナラ押し出しフォアボールや押し出しサヨナラデッドボールなどの場合は、一塁走者と二塁走者はアピールプレイの対象となりません。この違いは、ヒットと安全進塁権という、進塁における大きな考え方の違いから生じます。
もし走塁義務のある走者が進塁をしなかったら…?
その場合はサヨナラ勝利が取り消され、延長戦に入る可能性があります。
実は、先ほど紹介した公認野球規則5.08(b)の【原注】の直後に、次のような「ペナルティ」が示されています。
公認野球規則5.08(b) ペナルティ
前記の場合、三塁走者が、適宜な時間がたっても、あえて本塁に進もうとせず、かつこれに触れようとしなかった場合には、球審は、その得点を認めず、規則に違反したプレーヤーにアウトを宣告して、試合の続行を命じなければならない。
また、2アウト後、打者走者があえて一塁に進もうとせず、かつこれに触れようとしなかった場合には、その得点を認めず、規則に違反したプレーヤーにアウトを宣告して、試合続行を命じなければならない。
0アウトまたは1アウトのとき、打者走者があえて一塁に進もうとせず、かつこれに触れようとしなかった場合には、その得点は記録されるが、打者走者はアウトを宣告される。【注】 たとえば、最終回の裏、満塁で、打者が四球を得たので決勝点が記録されるような場合、次塁に進んで触れる義務を負うのは、三塁走者と打者走者だけである。三塁走者または打者走者が適宜な時間がたっても、その義務を果たそうとしなかった場合に限って、審判員は、守備側のアピールを待つことなくアウトの宣告を下す。
打者走者または三塁走者が進塁に際して塁に触れ損ねた場合も、適宜な時間がたっても触れようとしなかった場合に限って、審判員は、守備側のアピールを待つことなく、アウトの宣告を下す。
三塁走者が、十分な時間がたっても本塁に触れなかった(空過も含む)場合には、球審は、その得点を認めず、三塁走者にアウトを宣告して、試合続行を命じることになります。
また、打者走者が一塁に進まなかった場合も、審判員は守備側からのアピールを待つことなくアウトを宣告します。これが2アウトだった場合は、打者走者が一塁に到達する前のアウトになるので得点が認められなくなり、試合続行を命じることになります。
押し出しサヨナラ時のルールをまとめると
まとめると、押し出しサヨナラの場面では、規則5.08(b)に基づき、次のようになります。
打者走者が一塁に到達し、三塁走者が本塁を踏めば試合終了で、一塁走者と二塁走者には、進塁義務がない。 ただし、打者走者と三塁走者が正しく走塁しない場合は、 場合によっては、サヨナラ取り消しとなることもある。 |
実際に適用された事例?
……実は今のところ、私は経験したことも、観客として見たこともありません。
実例をご存じの方がいましたら、ぜひ教えてください。