numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

「動くボーク図鑑」"Balk Move Encyclopedia" 13種類全て解説。ボークとは何か、これを見れば分かる!

野球の難解なルールの1つに挙げられるであろう、ボーク。塁上に走者がいるときの、投手の反則行為のことです。

ボークが宣告されると、塁上の全ての走者は、アウトにされる恐れなく1つ進塁するというペナルティが科せられます。チームの勝利のため、ぜひとも覚えてほしいルールなのですが、プレイしている選手から、時には指導者からも、「どうしてボークなのかよく分からない」という声を聴きます。

そこで、「動くボーク図鑑」を作れば、多くの野球人の役に立てるのではないかと考えました。昔はルールの解説本などを読んだり、実技講習会に行ったりして覚えるしかなかったのですが、現代なら、実際の投手の動きを動画で繰り返し見ることができます。ボークとは何か、これを見ればきっと分かるはず!

(1) 投手板に触れている投手が、規則5.07(a)(1)および(2)項に定める投球動作に違反した場合

公認野球規則5.07(a)(1)項にはワインドアップポジションについての、(2)項にはセットポジションについての、正規の投球姿勢が規定されています。走者がいるとき、この規定に違反した動作をすると、ボークになります。

正しいセットポジション

ボークは走者がいるときに宣告されるので、投手は、たいていセットポジションをとるときになります。 セットポジションの規定はこのようになっています。

公認野球規則5.07(a)(2) セットポジション

 投手は、打者に面して立ち、軸足を投手板に触れ、他の足を投手板の前方に置き、ボールを両手で身体の前方に保持して、完全に動作を静止したとき、セットポジションをとったとみなされる。
 この姿勢から、投手は、
① 打者に投球しても、塁に送球しても、軸足を投手板の後方(後方に限る)に外してもよい。
② 打者への投球に関連する動作を起こしたならば、中途で止めたり、変更したりしないで、その投球を完了しなければならない。
 セットポジションをとるに際して〝ストレッチ〟として知られている準備動作(ストレッチとは、腕を頭上または身体の前方に伸ばす行為をいう)を行なうことができる。しかし、ひとたびストレッチを行なったならば、打者に投球する前に、必ずセットポジションをとらなければならない。
 投手は、セットポジションをとるに先立って、片方の手を下に下ろして身体の横につけていなければならない。この姿勢から、中断することなく、一連の動作でセットポジションをとらなければならない。

投球動作の中断や変更

いずれの投球動作からでも、打者への投球動作を起こしたら、中断したり変更せず、投球を完了しなければなりません。 ここでいう〝中断〟とは投手が投球動作を起こしてから途中で止めたり、投球動作中に一時停止したりすること。

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このように、〝中断〟といってもいろいろなパターンがありますね。

また、〝変更〟とは、ワインドアップポジションからセットポジション(またはその逆)に移ったり、投球動作から塁への送球(牽制)動作に変えたりすること。特に、投球動作から塁への送球動作に変えることについては、こんな規則があります。

公認野球規則6.02(a)(1)【原注】

左投げ、右投げ、いずれの投手でも自由な足を振って投手板の後縁を越えたら、打者へ投球しなければならない。ただし、二塁走者のピックオフプレイのために二塁へ送球することは許される。

自由な足(軸足でないほうの足)が投手板の後縁を超えたら、一塁や三塁への送球はできません。よく、「自由な足が軸足と交差したら牽制できなくなる」と理解している人がいますが、正確ではありません。下の写真で確認してみましょう。

上の写真の②は、自由な足(左足)のつま先が軸足を超えている(足が交差している)ように見えますが、投手板の後縁を超えていなければ、塁へ送球してもOKです。

セットポジションを取る際の動作

公認野球規則5.07(a)(2)セットポジション

(前略)…投手は、セットポジションをとるに先立って、片方の手を下に下ろして身体の横につけていなければならない。この姿勢から、中断することなく、一連の動作でセットポジションをとらなければならない。 セットポジションに入るまでの準備動作を「ストレッチ」といいますが、サインの二度見などでストレッチを中断した場合も、ボークになります。

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高校野球ファンには有名な、1998年夏の甲子園でのサヨナラボークのシーンです。ストレッチを中断したことがボークの理由。たとえサヨナラとなるシーンであっても、毅然とボークを宣告した球審の林さんはすばらしいと思います。

(2) 投手板に触れている投手が、一塁または三塁に送球するまねだけして、実際に送球しなかった場合

軸足を投手板の後縁の後ろに外せば、本塁以外の塁への偽投(送球するまね、フェイント)が許されますが、投手板を外さない場合は、二塁にしか偽投は認められません。

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投手板を外さずに三塁に踏み出して偽投し、すぐさま一塁に振り向く…というこの動作、かつては認められていました。しかし、アメリカで2013年、日本では2014年に規則が改正され、投手板を外さずに三塁へ偽投することが認められなくなりました。そのため、この動作は、三塁へ偽投した時点でボークです。

(3) 投手板に触れている投手が、塁に送球する前に、足を直接その塁の方向に踏み出さなかった場合

公認野球規則6.02(a)(3)【原注】

投手板に触れている投手は、塁に送球する前には直接その塁の方向に自由な足を踏み出すことが要求されている。投手が実際に踏み出さないで、自由な足の向きを変えたり、ちょっと上にあげて回したり、または踏み出す前に身体の向きを変えて送球した場合、ボークである。投手は、塁に送球する前に塁の方向へ直接踏み出さなければならず、踏み出したら送球しなければならない。

上記の【原注】にある通り、自由な足を「送球する塁の方向へ直接踏み出す」ことがルールになっています。

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軸足を踏み替えているように見えますが、それと同時に自由な足が送球する塁の方向に踏み出されていれば、「一挙動」といって容認されています。しかしこの投手は、送球の際、自由な足が明らかに一塁方向に踏み出されていないので、ボークが宣告されました。

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この投手は、一塁へ送球する際に、自由な足を本塁と一塁の中間の方向に踏み出しています。送球する塁の方向にまっすぐ踏み出されていないので、ボークが宣告されました。

(4) 投手板に触れている投手が、走者のいない塁へ送球したり、送球するまねをした場合

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投手が走者のいない一塁に送球したとしてボークが宣告されました。実はこの直前のプレイで、打者が二塁打を放っていました。投手は、打者が二塁に向かう途中で一塁を踏んでいなかったのではないか、というアピールプレイのために一塁に送球したようです。しかし、一塁走者がきちんとそのアピールをしなかったため、プレイの必要のない塁に送球したとしてボークが宣告されました。

もちろん、プレイのために必要がある送球なら差し支えありません。ちゃんとアピールしていれば、たとえアピールの結果が「セーフ」でも、ボークが宣告されることはありません。

また、別の例として、投手が投球する前に一塁走者が盗塁しようとして二塁に走り出したときに、投手が投手板を外さずに走者のいない二塁に送球しても、必要な送球なのでボークではありません。

(5) 投手が反則投球をした場合

クイックピッチ

規則6.02(a)(5)【原注】では、反則投球の具体例としてクイックピッチ(打者が打者席内でまだ十分な構えをしていないときに投球すること)が挙げられています。クイックピッチは危険であり、絶対に許してはいけません。走者がいないときは反則投球でボール、走者がいるときはボークが宣告されます。

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本塁方向への2度目のステップ

ワインドアップポジションでもセットポジションでも、本塁の方向に2度目のステップを踏んで投げることは反則投球、走者がいればボークとなります。

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この投球フォームが議論を呼び、2017年にMLBで規則改正があり、5.07(a)【原注】に次の記述が追加(日本も2018年に改正)されました。現在では、この投球フォームは反則投球です。

公認野球規則5.07(a)【原注】

投手は投球に際して本塁の方向に2度目のステップを踏むことは許されない。塁に走者がいるときには、6.02(a)によりボークが宣告され、走者がいないときには、6.02(b)により反則投球となる。

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この投手は、セットポジションを取った後なぜか振りかぶっていますが、この時に左足(自由な足)を左前方に踏んでから再度本塁方向に踏み出しています。これも、2度ステップを踏んだことになるので、ボークが宣告されました。

(6) 投手が打者に正対しないうちに投球した場合

クイックピッチとほぼ同義ですが、打者にとっては見ていないところで急に硬いボールが飛んでくるのですから、大変危険です。投手は、打者が「今から投げてくるな」と認識できるように投げましょう。

(7) 投手が投手板に触れないで、投球に関連する動作をした場合

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動画をパッと見ただけだと分かりづらいかもしれません。両手を合わせ、右足(自由な足)を踏み出した後に左足(軸足)を踏みかえています。 つまり、軸足が投手板に触れる前に投球動作を始めていたことになるので、ボークが宣告されました。

(8) 投手が不必要に試合を遅延させた場合

一塁ベースについていない一塁手に向かって送球しました。走者をアウトにしようとする意図が感じられないため、遅延行為に当たり、ボークが宣告されました。

走者をアウトにしようとする意図が感じられない緩い送球(山なり牽制などと言われます)は、遅延行為に当たるとして、ボークを宣告されることがあります。

(9) 投手がボールを持たないで投手板に立つか、これをまたいで立つか、あるいは投手板を離れていて投球するまねをした場合

隠し球をしようとしたときに起こりやすいです。1999年4月3日巨人対阪神戦で、巨人の三塁手元木大介隠し球を試みたとき、投手・桑田真澄が投手板をまたいだとして、このケースのボークを宣告されています(残念ながらその動画は見つかりません)。

類例としてこちらをどうぞ。投手がボールを持たずにマウンドに上がります。

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残念ながら、審判員は走者にアウトを宣告してしまいましたが、本来、このプレイではボークが宣告されるべきでした。

(10) 投手が正規の投球姿勢をとった後、実際に投球するか、塁に送球する場合を除いて、ボールから一方の手を離した場合

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両手を合わせて静止し、セットポジションをとった後、(顔の汗をぬぐうためなのでしょうが)ボールから手を離しました。そのため、ボークが宣告されました。

(11) 投手板に触れている投手が、故意であろうと偶然であろうと、ボールを落とした場合

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ボールを握りそこねて落としてしまう場合の他、投球の最中に太ももなどにボールが触れて落としてしまう場合などが考えられます。

(12) 故意四球が企図されたときに、投手がキャッチャースボックスの外にいる捕手に投球した場合

俗に「キャッチャーボーク」と呼ばれるケースですが、ボークの宣告を受けるのはあくまで投手です。 「故意四球」とは公認野球規則の用語で、いわゆる「敬遠」のことです。

公認野球規則6.02(12)【注】

〝キャッチャースボックスの外にいる捕手〟とは、捕手がキャッチャースボックス内に両足を入れていないことをいう。したがって故意四球が企図されたときに限って、ボールが投手の手を離れないうちに捕手が片足でもボックスの外に出しておれば、本項が適用される。

上記【注】のとおり、敬遠をするとき、捕手は、投手がボールを離すまでキャッチャースボックスに両足を入れていなければなりません。

下の動画では、2球目でボークが宣告されますが、私には1球目からボークに見えます。

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2017年にアメリカで、2018年に日本で規則が改正されて「申告敬遠」ルールが運用されるようになり、投手は敬遠のために、立ち上がっている捕手に向かって投球しなくてよくなりました。

わざわざ球数をかけて投球する必要がなく、しかも投球することでボークというリスクもあるわけですから、敬遠するなら「申告敬遠」のほうが圧倒的に有利。そのため、このルールでボークが宣告されるケースは、実質なくなったと考えてよいでしょう。

(13) 投手がセットポジションから投球するに際して、完全に静止しないで投球した場合

セットポジションをとった投手は、両手を合わせたら完全に体を静止させることが求められており、完全に静止せずに投球するとボークが宣告されます。ただし、静止に「何秒」という決まりはありません。審判員から見て、完全に静止したと確認できる程度に動きを止める必要があります。

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ボークが宣告されたときのペナルティ

大前提として、ボークは、走者がいるときに適用されるルールです。

原則としてボールデッドになります。審判員が両手を挙げ、プレイを止めます。

塁上の全ての走者に、1個の安全進塁権が与えられます。要するに走者が1つ先の塁に進めるということです。したがって、三塁走者がいるときにボークが宣告されると、攻撃側に1点が入ります。

ボークにもかかわらず投手が投球した場合、原則としてボール/ストライクはカウントされず、打者は打ち直しです。

走者がいなかったら?

ボークが宣告されることはありません。

ただし、反則投球にあたる場合は「ボール」が宣告されます。例えば、投手が投球動作中にバランスを崩すなどしてボールを落とし、そのボールが転がった場合、ボールがファウルラインを超えたら「ボール」が宣告されます。ファウルラインを越えなかった場合は投球とみなされず、何も宣告されません。

ここまでのことが分かれば…ボークについて、大抵のことは大丈夫!野球をプレイするときや指導するとき、観戦するときの参考にしていただければ幸いです。

Special Thanks!

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この記事の作成に当たり、こちらの動画が大変参考になりました。いい動画をありがとうございました!