numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

打順間違い、どうする

2023年7月15日、高校野球選手権千葉大会 3回戦 木更津総合―市川東で、打順間違いによって35分の中断が発生したようです。

私自身は、幸いなことに(?)、審判員として打順間違いに遭遇したことがありません。しかし、私が関係するチームの試合で、相手チームが打順間違いをしたことがあって、チーム内の選手がそわそわした経験があります。

打順間違いはレアケースではありますが、公認野球規則にはそのときのルールが定められています。当該プレイを例にしながら、打順間違いのルールについて解説していきます。

どういう状況だったのか

ニュース記事として調べられたのはスポニチさんのこの記事だけでした。

www.sponichi.co.jp

記者さんが状況を簡潔に書いてくれてはいますが、残念ながらこれでは打順間違い発生の状況がよくわかりません。Twitterの情報も調べて整理してみたところ、どうやらこういうことだったようです。

プレイの経過(numまとめ)

  1. 3回裏、木更津総合の攻撃。1アウトで塁上に走者が2人はいた模様。
  2. 8番の村山君が一塁ファウルフライを打ち、審判員はアウトを宣告。これで2アウト。
  3. ところが村山君はファウルを打った(自分はアウトではない)と思い込んで、再び打席に立つ。
  4. 村山君が2点タイムリーを打つ。
  5. 次打者として井上君が打席に立つところで守備側の市川東から打順間違いのアピール。
  6. 審判団の打順間違いの確認と両チームへの説明のために、試合が35分間中断。

この試合を観戦していた方は、「走塁妨害か守備妨害の審判団協議のためにプレイが止まっている」と思われていたようです。

打順間違いの時のルール

ルールは決まっているのですが、状況がややこしいので、ルールもややこしくなります。まずは、打順誤りのルールである、6.03(b)の本文を見てみましょう。

公認野球規則6.03(b) 打順の誤り

(1) 打順表に記載されている打者が、その番のときに打たないで、番でない打者(不正位打者)が打撃を完了した(走者となるか、アウトとなった)後、相手方がこの誤りを発見してアピールすれば、正位打者はアウトを宣告される。
(2) 不正位打者の打撃完了前ならば、正位打者は、不正位打者の得たストライクおよびボールのカウントを受け継いで、これに代わって打撃につくことはさしつかえない。
(3) 不正位打者が打撃を完了したときに、守備側チームが〝投手の投球〟前に球審にアピールすれば、球審は、
 (A) 正位打者にアウトを宣告する。
 (B) 不正位打者の打球によるものか、または不正位打者が安打、失策、四球、死球、その他で一塁に進んだことに起因した、すべての進塁および得点を無効とする。
(4) 走者が、不正位打者の打撃中に盗塁、ボーク、暴投、捕逸などで進塁することは、正規の進塁とみなされる。
(5) 不正位打者が打撃を完了した後、〝投手の投球〟前にアピールがなかった場合には、不正位打者は正位打者として認められ、試合はそのまま続けられる。
(6) 正位打者が、打撃順の誤りを発見されてアウトの宣告を受けた場合には、その正位打者の次の打順の打者が正規の次打者となる。
(7) 不正位打者が〝投手の投球〟前にアピールがなかったために、正位打者と認められた場合には、この正位化された不正位打者の次に位する打者が正規の次打者となる。不正位打者の打撃行為が正当化されれば、ただちに、打順はその正位化された不正位打者の次の打者に回ってくる。

攻撃側はどうすればいい?

打順を間違えて打席に立ったとしても、打者はそれだけではアウトにはなりません。打撃を完了するまでなら、本来打席に立つべき打者(正位打者)が出ることができます。

上記「プレイの経過」では、「村山君がファウルを打った(自分はアウトではない)と思い込んで、再び打席に立」ったことが打順の誤りに当たります。打席に立っているうちなら、本来の正位打者である9番の井上君が出てくることができました。ただし、それまでの村山君のボールカウントを引き継ぎます。

ところが村山君は「2点タイムリーを打」ってしまいました。これで不正位打者の村山君は打撃を完了したことになります。

こうなると、村山君の打順の次の打順に当たる井上君を「次の打者」として打席に送り、何事も起こらないことを祈るしかありません。(5)にある通り、投手が井上君に1球投げてくれたら、打順間違いによる村山君の打撃が正当化され、2点の得点も有効になり、打順上、村山君の次の打順である井上君が正式に次の打者となります。打撃完了後は、仮に打順間違いに気づいてもしらばっくれるしかないということです。

守備側はどうすればいい?

守備側は、打順間違いに気づいたら、「不正位打者の打撃が完了するまで黙っている」のが得策となります。そして打撃が完了したところで、球審に打順間違いをアピールすると、本来打席に立つべきだった正位打者にアウトを宣告されます。

今回、守備側の市川東は〝投手の投球〟前に球審にアピールし、球審は、本来の正位打者である9番の井上君にアウトを宣告しました。そして、不正位打者である村山君の打撃によって得られた結果、つまり2点タイムリーが無効になりました。

攻守交替でなく、攻撃が続く状況だったらどうなっていたか

今回はこれで攻守交代でしたが、これで2死だった場合は、どうなっていたでしょう。

6.03(b)(3)のとおり、不正位打者の打撃に基づくプレイがすべて無効になり、正位打者の次の打者に打順が回ります。

今回の例に即して考えると、まず不正位打者の井上君がベンチに戻されます。

また、打席に立とうとした村山君は、球審に打順間違いによるアウトを宣告されて、ベンチに戻されます。

さらに、得点した走者2人は、元いた塁まで戻され、こうして2点タイムリーが取り消されます。

そして、アウトになった9番井上君の次の打順、1番の朝倉君が打席に立つことになります。

注意点は以下の2つ。

  • 打順間違いによるアウトを宣告されるのは、打順を間違えた村山君ではなく、正位打者であった井上君であるということ。
  • 次の打者は、アウトになった正位打者の次の打順になるということ。

守備側が間違いを正したので、「アウトになる資格がある」のは、「打順を間違っている選手」ではなく「本来の打順の選手」にあると考えると分かりやすいでしょうか。

それにしても、ファウルフライを取られているはずが、「自分はアウトになっていない」と君が思い込む状況とはいったい、何があったのか。中継映像が残っていたら見てみたかったですね。