前回の記事では、打撃妨害のルールの基本的なことについて紹介しました。
- 審判員がタイムを宣告し、ボールデッドになる。
- 打者は、アウトにされるおそれなく、一塁への進塁が認められる。
- 塁上に走者がいる場合は、押し出しになる。
- ただし、走者が盗塁しようとしていた場合、盗塁先の塁が空いていれば、その盗塁は認められる。
以上を頭に入れておけば、打撃妨害発生のときの一般的な対応は大丈夫です。
しかし、もしバットが捕手のミットに当たりながら投球も打ち、フェアの打球が飛んだときはどうなるでしょう。今回は打撃妨害のルール応用編として、このことを書いてみようと思います。
説明をはじめる前からでなんですが、けっこう難しいです。繰り返し読んで、1項目ずつ理解しながら先に進むことをおすすめします。
打撃妨害にも関わらず打者が打った場合
9回表 1アウト ランナー 一・三塁。ボールカウントは3ボール2ストライクを想定してください。
打者が打とうとしたところバットに捕手のミットが接触、打撃妨害が発生しました。球審は、捕手を指差してプレイの様子をそのまま見守ります。
内野ゴロが打たれてダブルプレイ!?
打撃妨害を受けながらも打者は打って、打球はショートゴロ。二塁、一塁と送球されダブルプレイが成立しました。
攻撃側の監督が「打撃妨害がありましたよね?」と確認のためにベンチを出てきました。
この場合は、公認野球規則5.05(b)(3)がそのまま適用されます。
公認野球規則5.05(b)(3)
打者は、次の場合走者となり、アウトにされるおそれなく、安全に一塁が与えられる。(ただし、打者が一塁に進んで、これに触れることを条件とする)
捕手またはその他の野手が、打者を妨害(インターフェア)した場合。
したがって、プレイが一段落したところで審判員はタイムをかけ、打撃妨害を宣告して打者を一塁に、一塁走者は押し出されて二塁に進めます。また三塁走者は三塁に戻します。1アウト満塁で再開となります。
走者一掃ツーベースになったら…
打撃妨害を受けながらも打者は打って、打球はレフト線を破り長打コース。2人の走者が還り、打者も二塁まで進みました。
捕手は球審に「バットがミットに当たったんで、打撃妨害になりますよね。ボールデッドで打者は一塁じゃないですか?」と主張したのですが…
この場合は、公認野球規則5.05(b)(3)後段ただし書きの記述が適用されます。
公認野球規則5.05(b)(3)ただし書き
ただし、妨害にもかかわらず、打者が安打、失策、四球、死球、その他で一塁に達し、しかも他の全走者が少なくとも1個の塁を進んだときは、妨害とは関係なく、プレイは続けられる。
これは前回の説明では省略していた部分になります。この場合は、打者と、一塁走者、三塁走者の3人全員が1個以上の塁を進んでいますので、打撃妨害ではなく、このプレイの成り行きどおり、2点が入って1アウト ランナー二塁で再開となります。
犠牲フライになった場合は?
打者が捕手に妨げられながらも外野に飛球を打ち、捕球後三塁走者がタッグアップを行って犠牲フライとなりました。1点が入って2アウト ランナー二塁の状態になっています。
得点は入りましたが、打者はアウトになっています。どうしたらよいでしょうか。
この場合は、先ほど(中略)としたところの記述が適用されます。
公認野球規則5.05(b)(3) 妨害にもかかわらず~
妨害にもかかわらずプレイが続けられたときには、攻撃側チームの監督は、そのプレイが終わってからただちに、妨害行為に対するペナルティの代わりに、そのプレイを生かす旨を通告することができる。…
球審はプレイが一段落したところでタイムをかけて打撃妨害を宣告します。そして、打者を一塁へ、一塁走者を二塁へ、三塁走者を三塁に戻して、1アウト満塁の状態にし、頭上で左手甲を右手で二三度たたきます。
攻撃側の監督は、ここで「監督の選択権」を使うことができます。つまり、打撃妨害が適用されて1アウト満塁の状態での再開を選んでも、打撃妨害をなかったことにし、犠牲フライで1点、打者アウトで2アウト二塁の状態での再開を選んでもかまいません。
公認野球規則5.05(b)(3)【注1】
監督がプレイを生かす旨を球審に通告するにあたっては、プレイが終わったら、ただちに行なわれなければならない。なお、いったん通告したら、これを取り消すことはできない。
監督が何も言わなければ、このまま打撃妨害適用となります。犠牲フライで1点、2アウト二塁を選ぶためには、監督はその旨を球審に通告します。
今回は9回表ですし、1点確保はとても重要な局面なので、監督が犠牲フライで1点、2アウト二塁を選んだとしましょう。
プレイが再開したところで投手は三塁に送球。アピールプレイが行われて、三塁塁審がアウトを宣告、3アウトになりました。攻撃側監督は、あわてて球審に「やっぱり打撃妨害を選択するから、戻してほしい!」と主張しましたが…
なお、いったん通告したら、これを取り消すことはできない。
というわけで、一度選んだからには、もう取り消しできません。3アウトチェンジとなります。
打撃妨害ルールのまとめ
改めて、打撃妨害のルールをまとめます。
- 審判員がタイムを宣告し、ボールデッドになる。
- 打者は、アウトにされるおそれなく、一塁への進塁が認められる。
- 塁上に走者がいる場合は、押し出しになる。
- 走者が盗塁しようとしていた場合、盗塁先の塁が空いていれば、その盗塁は認められる。
- 妨害にもかかわらず、打者が安打、失策、四球、死球、その他で一塁に達し、しかも他の全走者が少なくとも1個の塁を進んだときは、妨害とは関係なく、プレイは続けられる。
- 妨害にもかかわらずプレイが続けられ、打者を含む全ての走者が1個の塁を進められなかったときには、攻撃側チームの監督は、そのプレイが終わってからただちに、妨害行為に対するペナルティの代わりに、そのプレイを生かす旨を通告することができる。なお、いったん通告したら、これを取り消すことはできない。
太字が、応用編として加えた部分です。上記の全てが理解できれば、打撃妨害の規則はほぼばっちりです。
まとめとして、最後に公認野球規則5.05(b)(3)の全文を示します。
公認野球規則5.05(b)(3) 全文
打者は、次の場合走者となり、アウトにされるおそれなく、安全に一塁が与えられる。(ただし、打者が一塁に進んで、これに触れることを条件とする)
(3) 捕手またはその他の野手が、打者を妨害(インターフェア)した場合。
しかし、妨害にもかかわらずプレイが続けられたときには、攻撃側チームの監督は、そのプレイが終わってからただちに、妨害行為に対するペナルティの代わりに、そのプレイを生かす旨を通告することができる。
ただし、妨害にもかかわらず、打者が安打、失策、四球、死球、その他で一塁に達し、しかも他の全走者が少なくとも1個の塁を進んだときは、妨害とは関係なく、プレイは続けられる。
【原注】 捕手の妨害が宣告されてもプレイが続けられたときは、そのプレイが終わってからこれを生かしたいと監督が申し出るかもしれないから、球審はそのプレイを継続させる。
打者走者が一塁を空過したり、走者が次塁を空過しても、〔5.06b3付記〕に規定されているように、塁に到達したものとみなされる。
監督がプレイを選ぶ場合の例 (省略)
三塁走者が盗塁またはスクイズプレイにより得点しようとした場合のペナルティは、6.01(g)に規定されている。
投手が投球する前に、捕手が打者を妨害した場合、打者に対する妨害とは考えられるべきではない。このような場合には、審判員は〝タイム〟を宣告して〝出発点〟からやり直させる。
おまけ 以上で収まらない例外規定があります
ここから先は完全なおまけです。めったなことでは起こりませんが、知識として覚えられるようであれば覚えてみてください。
【例外1】打撃妨害の前にボークがあったら
ボークにも関わらず投球された場合、打者はこれを打つ権利があります。打者が安打、失策、四球、死球、その他で一塁に達し、かつ、他のすべての走者が少なくとも1個の塁を進んだときには、プレイは、ボークや打撃妨害に関係なく続けられます。
しかし、これに該当しなかった場合は、時系列的にはボークの発生が先なので、ボークの規則が優先されて、塁上の全ての走者は1個の塁を進み、打者は打ち直します。監督の選択権は発生しません。
【例外2】スクイズで打撃妨害が発生したら
三塁走者がスタートし、打者がバントを構えたのを見て、捕手はあわてて本塁の前に出て、打者のバットに触れました。このようなときは、例外的に次の規則が適用されます。
公認野球規則6.01(g) スクイズプレイまたは本塁の妨害
3塁走者が、スクイズプレイまたは盗塁によって得点しようと試みた場合、捕手またはその他の野手がボールを持たないで、本塁の上またはその前方に出るか、あるいは打者または打者のバットに触れたときには、投手にボークを課して、打者はインターフェアによって一塁が与えられる。この際はボールデッドとなる。
何と、ボーク+打撃妨害という重いペナルティが課されます。盗塁の有無に関係なく塁上の走者はボークによって1個の塁が与えられ、さらに打者も打撃妨害で一塁に進みます。