numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

【野球】指名打者(DH)ってどういう役割?


野球の試合を観戦していると、指名打者(DH)というポジションを目にすることがあります。指名打者がいる試合があればない試合もあります。

具体的にどういうルールなのかよく分からない!

という人もいるかと思います。そこで今回は、DHのルールを解説します。

そもそも指名打者(DH)とはどういう意味?

指名打者とは、攻撃時に投手の代わりに打席に立つ、攻撃専門の選手のことです。英語では"Designated Hitter"とといい、DHと略されます。

指名打者となった選手は、守備をする必要がなく、攻撃のみに専念することができます。

ただし、野球では投手以外の野手にDHを適用することはルール上できず、逆の言い方をすると、投手の代わりにしか打席に立つことができません*1

指名打者ルールの概要…最低限これだけ覚えておけば野球観戦で困らない!

指名打者のルールは公認野球規則5.11で規定されています。

今回の記事は、特に5.11(a)についての解説なのですが、細かい規定が多いので、まずはざっくりと「これだけ覚えておけば野球観戦で困らない」という内容を紹介します。

最低限これだけ覚えておこう!DHのルール

  • 指名打者は試合前に指名し、打順表に記載される。投手は打順表の外に表示される。
  • 指名打者ルールを採用するかどうかは試合によって異なるので、採用する試合も採用しない試合もある。
    ちなみに、日本プロ野球では、次のようになっています。
  • チームは指名打者を指名しなくてもよい。ただし、指名しなかったときは、その試合で後から指名打者を使うことはできない。
  • 指名打者は、投手の代わりに打席に立つ。他の野手の代わりには打席に立てない。
  • 指名打者は、相手チームの先発投手に対して少なくとも1度は打撃を完了しなければならない。完了した後は、代打や代走を送ることができる。指名打者に送られた代打者や代走者は、その後、指名打者の役割を引き継ぐ。

2022年にメジャーリーグでルール改正になった、いわゆる「大谷ルール」(規則5.11(b)、日本でも2023年に公認野球規則改正)は投手とDHの二刀流に関するルールです。今後、別記事で紹介します。

※ これ以降は、指名打者ルール(規則5.11(a))の詳細を扱います。特に、指名打者や投手が絡む選手交代に関することがメインになります。

指名打者が関わる選手交代のルール

DHは、投手の代わりに打席に立つのが役割です。そのため、ルールの裏をかくような選手交代は一切認められていません。

DHは、相手チームの先発投手に対して、少なくとも1度は打撃を完了しなければ交代できない

DHは、相手チームの先発投手に対して、少なくとも1度は打撃を完了しなければなりません(公認野球規則5.11(a)(2))。ただし、DHに打順が回ってくる前に相手投手が交代した場合は、この限りではありません。

2011年5月20日オリックス対広島の試合で、広島の野村謙二郎監督は、7番DHで投手の今村を偵察要員として入れました。試合開始前に打順表の交換を行った後、オリックス岡田彰布監督は本塁付近に引き返し、審判団に「DHは代打出されへんねんで。絶対1打席立たなあかんねんで」と指摘、野村監督はこのルールを把握していませんでした。実際にDHとして打席に立った今村は、送りバントを決め、その後、石井琢朗に交代しました。

www.sponichi.co.jp

試合前にDHを指名しなかった場合

チームは、DHを指名せずに打順を決めることもできますが、その試合でDHを使うことはできなくなります(公認野球規則5.11(a)(3))。

2016年6月12日の日本ハム阪神戦では、予告先発となっていた大谷翔平投手が、5番・投手でスタメン出場しました。したがって、この試合で日本ハムは試合開始時点からDH解除ということになり、日本ハムがDHなし、阪神がDHありという極めて珍しい状況となりました。

baseballking.jp

DHの打順は固定されている

同時に2人以上の選手を交代する場合、監督は交代選手の打順を指定することができます(公認野球規則5.10(b)【原注】)。

上の図では、3人がいっぺんに選手交代をしましたが、このとき、投手の守備位置に入った選手を2番に、レフトの守備位置に入った選手を9番のように打順を監督が指定することができます。

しかし、打順にDHが入る場合、DHの打順は1試合の中で固定されるので、選手交代とともにDHの打順を変更することはできません(公認野球規則5.11(a)(7))。

上の図では、投手も含めて4人をいっぺんに交代しました。しかし、たとえ投手が一緒に変わろうとも、DHの打順を2番から6番のように変えることはできません。

DH選手が守備についた場合

DHの選手が試合の途中から守備につくこともできますが、守備についたDHだった選手は、引き続き自分の打順で打撃を継続し(公認野球規則5.11(a)(5))、これ以後DHルールが解除されます(公認野球規則5.11(a)(12))。

また、このとき、投手は交代して退いた選手の打順に入ります。ただし、同時に2人以上の選手交代をする場合は、監督が打順を指定できます。

ここで、DHがつく「守備位置」にはもちろん投手も含まれます。2023年3月21日、WBC決勝、アメリカ対日本戦で、3番DHで出場していた大谷翔平選手は、9回、クローザーとしてマウンドに上がり、DHが解除されました。

times.abema.tv

投手が他の守備位置についた場合

投手が試合の途中で別の守備位置につくこともできますが、DHの役割は消滅し、DHだった選手はベンチに退きます(公認野球規則5.11(a)(8))。

このとき、投手がついた守備位置の選手も退いた場合は、同時に2人以上の選手が退くことになるので、元投手と新たに登板する投手の打順も含め、監督が打順を指定できます。

2013年7月19日、オールスターゲーム第1戦で、5回にパ・リーグの3番手投手として1イニングを投げた大谷翔平投手は、6回から守備位置をレフトに変更しました。

これによってDHが解除、DHのジョーンズ選手が退いて、菊池雄星投手が5番、大谷選手は6番の打順に入りました。

なお、このときはレフトの中田翔選手が一塁手に回りました。

代打者・代走者が投手となった場合

代打者がそのまま投手となった場合、それ以後DHの役割は消滅します(公認野球規則5.11(a)(9))。代打者だった投手は自分が打った打順にそのまま入り、DHが退いて、DHだった打順に交代選手が入ります。

なお、規則に明記がありませんが、代走者がそのまま投手となった場合も同様です。

投手が指名打者に代わって打撃または走者になる場合

試合に出場している投手は、DHに代わってだけ打撃または走者になることができます。ただし、DHの役割は消滅し、DHだった選手はベンチに退きます(公認野球規則5.11(a)(10))。

他の守備位置にいた選手が投手になった場合

別の守備位置についていた選手が投手になることもできますが、DHの役割は消滅し、DHだった選手はベンチに退きます(公認野球規則5.11(a)(14))。

まとめに代えて

DHは、攻撃時に投手の代わりに打席に立つ、攻撃専門の選手です。「投手の代わって打席に立つ」というのがDHルールのポイントであり、そのために選手交代に関する細かな規定も設けられています。

解説の途中でいくつか実例を紹介しましたが、大谷選手はDHが絡む選手交代でDH解除となった経験を多くしていることが分かります。

いわゆる「大谷ルール」はこういった背景もあって制定されたのかもしれません。

最後に、公認野球規則5.11(a)の全文を紹介します。

公認野球規則5.11(a)本文

指名打者ルールは次のとおりである。

(1) 先発投手または救援投手が打つ番のときに他の人が代わって打っても、その投球を継続できることを条件に、これらの投手に代わって打つ打者を指名することが許される。
投手に代わって打つ指名打者は、試合開始前に選ばれ、球審に手渡す打順表に記載されなければならない。監督が打順表に10人のプレーヤーを記載したが、指名打者の特定がされておらず、球審がプレイを宣告する前に、審判員またはいずれかの監督(またはその指名する者)がその誤りに気づいたときは、球審は、監督に投手以外の9人のプレーヤーのうち誰が指名打者になるのかを特定するように命じる。

【原注】 指名打者特定の明らかな誤りは、試合開始前であれば訂正することができる。(4.03〔原注〕参照)

(2) 試合開始前に交換された打順表に記載された指名打者は、相手チームの先発投手に対して、少なくとも1度は、打撃を完了しなければ交代できない。ただし、その先発投手が交代したときは、その必要なはい。

(3) チームは必ずしも投手に代わる指名打者を指名しなくてもよいが、試合前に指名しなかったときは、その試合で指名打者を使うことはできない。

(4) 指名打者に代えて代打者を使ってもよい。指名打者に代わった打者は以後指名打者となる。退いた指名打者は再び試合に出場できない。

(5) 指名打者が守備についてもよいが、自分の番のところで打撃を続けなければならない。したがって、投手は退いた守備者の打順表を受け継ぐことになる。ただし、2人以上の交代が行なわれたときは、監督が、打撃順を指名しなければならない。

(6) 指名打者に代わって代走者が出場することができるが、その走者が以後指名打者の役割を受け継ぐ。指名打者が代走者になることはできない。

(7) 指名打者は、打順表の中でその番が固定されており、多様な交代によって指名打者の打撃の順番を変えることは許されない。

(8) 投手が一度他の守備位置についた場合、それ以後指名打者の役割は消滅する。

(9) 代打者が試合に出場してそのまま投手となった場合、それ以後指名打者の役割は消滅する。

(10) 投手が指名打者に代わって打撃するかまたは走者になった場合、それ以後指名打者の役割は消滅する。試合に出場している投手は、指名打者に代わってだけ打撃または走者になることができる。

(11) 監督が打順表に10人のプレーヤーを記載したが、指名打者が特定されておらず、試合開始後に、相手チームの監督がその誤りを球審に指摘した場合は、
(A) チームが守備についた後では、投手は、守備につかなかったプレーヤーの打撃順に入る。
(B) チームがまだ守備についていないときには、投手は、そのチームの監督が指定した打撃順に入る。
いずれの場合も、投手が置きかわったプレーヤーは交代したとみなされ、試合から退き、それ以後指名打者の役割は消滅する。誤りが球審に指摘される前に起きたプレイは、6.03(b)により、有効となる。

(12) 指名打者が守備位置についた場合それ以後指名打者の役割は消滅する。

(13) 指名打者に代わって出場させようとするプレーヤーは、指名打者の番がくるまで届け出る必要なない。

(14) 他の守備位置についていたプレーヤーが投手になれば、それ以後指名打者の役割は消滅する。

(15) 指名打者は、ブルペンで捕手を務める以外は、ブルペンに座ることはできない。

 

*1:ソフトボールでは、どの守備者の代わりとしてでも打つことができる「指名選手」=Designated Playerというルールがあります。