numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

【サッカー】2021/7/3 仙台vs浦和 なぜVAR介入で仙台のファウルに変わったのか

Jリーグジャッジリプレイ18回で取り上げられた、仙台vs浦和 53分のシーン。

審判ゲスト奥谷さんの解説があってもなお、「なぜVARが介入できたのか分からない」という意見がいくつか見られます。

ここでは、当該プレーの状況と奥谷さんの解説をおさらいし、さらにTwitterなどにあげられているいくつかの質問にも答えてみようと思います。

プレーの状況

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浦和のゴールキーパー西川選手からトーマス・デン選手にボールを渡してビルドアップしようとした場面。柴戸選手からのリターンを受けたデン選手に仙台の赤崎選手がプレッシャーをかけ、デン選手からボールがこぼれたところで、主審が笛を吹きました。デン選手は、倒れたときに左手を使ってボールを止めており、主審はデン選手のハンドの反則をとって、デン選手にイエローカードを提示しました。

ここでVARが介入します。

主審がオンフィールド・レビューが行った結果、主審はこのプレーを赤崎選手のファウルと判定。仙台ボールではなく、浦和ボールのフリーキックで再開するとともに、デン選手に出されたイエローカードは取り消されました。

なぜVARの介入になったのか

詳しくは別記事で説明していますが、VARが介入する事象は、次の4つに関する場合と決められており、その中でも「はっきりとした、明白な間違い」または「見逃された重大な事象」があった場合に限られています。

(1) 得点かどうか
(2) PKかどうか
(3) 一発退場かどうか(2枚目の警告は該当しない)
(4) 警告・退場の人間違い

今回はこの中の、(3)退場かどうか で介入となりました。デン選手のプレーを主審がファウルとしたのなら、状況はDOGSO*1なので、出すべきカードはイエローではなくレッドだというのが理由です。

質問1:仙台側の、カードもPKにもならないファウルにVAR?

上で述べたとおり、VARからの助言でレビュー対象になっているのは、「デン選手を退場とすべきかどうか」です。デン選手のプレーをハンドでファウルとするならDOGSOでレッドカードです。まずVARはその指摘をしました。

しかし、退場かどうかについてVARから助言することができるということは、「退場ではないのではないか(DOGSOはなかったのではないか)」を助言することも可能だということです。今回の場合は、その直前のプレーでデン選手が相手選手との接触で倒れています。この接触がファウルかどうかについても、オンフィールド・レビューで検討されました。

その結果、主審はデン選手が先に赤崎選手からファウルを受けていたと判断しました。赤崎選手のファウルを認めると、デン選手を退場させる理由となる、決定的な得点機会自体がなかったことになるので、DOGSOが成立しなくなります。そのため、デン選手は退場にはならない(イエローカードも出ない)という結論に至りました。

レッドカードレビューにAPPまでの遡りがあるのか?といったご意見もありましたが、著しく不正なプレー(相手競技者の安全を脅かすタックルまたは挑むこと、また過剰な力や粗暴な行為を加えた場合)を罰するレッドカードと、得点の阻止や決定的な得点機会の阻止を罰するレッドカードでは考え方が変わってくるということです。

質問2:もし主審が初めからレッドカードを提示していたら?

「カードの色が違うからVARの介入になった」という意見もありました。

確かに今回の介入では「カードの色が違う」ことの指摘からVARが介入していますが、たとえ初めからレッドカードが出されていたとしても、同様のオンフィールド・レビューが行われ、退場取り消しになっただろうと考えます。

「退場かどうか」のVARレビューには、「退場にはならないのではないか」もありますから、「直前にデン選手がファウルを受けていたからDOGSOにはならないのではないか」とVARが助言することは可能です。

質問3:もしこのプレー自体がSPA相当の反則だったら?

デン選手の近くに味方競技者がサポートに来ていて、ハンドがあったときの状況がSPA相当だったとしたら、それでもVARは介入出来るのかという疑問も見られました。

これはいい視点です!

デン選手が接触により転倒→ボールに手で触れる→主審がハンドと判定→SPAでイエローカード

この流れで行くと、VARはDOGSOの可能性を確認しますが、SPA相当という判断が妥当となれば、それ以上の介入はありません。

したがって、直前に赤崎選手がファウルをしていたことについても、VARから助言することはありません。

よって、当初の判定のとおり、デン選手のハンドの反則により、仙台の直接フリーキックで再開になります。

まとめ

今回のケースは、珍しいケースだと思います。それゆえ、いろいろ疑問が出て、中には「主審の誤審になんでもVARが介入している」とか、「こんな最終判定はおかしい、納得いかない」という思いにつながった方もいたことと思います。

*1:※ DOGSOって何?という方はこちらをどうぞ num-11235.hateblo.jp