numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

【野球】日本プロ野球伝説のサヨナラインフィールドフライ事件を解説!

インフィールドフライにまつわる伝説、「サヨナラインフィールドフライ事件」。
今回は、日本プロ野球で起こった2つのサヨナラインフィールドフライ事件を解説します。

▼ 「インフィールドフライってそもそも何だっけ?」という方は、こちらのインフィールドフライの解説記事をどうぞ。

num-11235.hateblo.jp

日大藤沢vs武相のことを調べている方はこちらの記事で。

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※なお、私は日大藤沢vs武相の件は「サヨナラインフィールドフライ」とは別の事象と捉えています。

1991年6月5日 大洋vs広島、「達川事件」

概要

2-2の同点で迎えた9回裏、大洋の攻撃で一死満塁。

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大洋の打者・清水義之は本塁付近の三塁線上に飛球を打ち上げ、球審の谷さんは「インフィールドフライ・イフ・フェア」を宣告した。
広島の捕手・達川光男は、飛球の落下点に入ったものの直接捕球せず、フェア地域内でバウンドした打球をフェア地域内で捕球し、本塁を踏んで一塁に送球した。
大洋の三塁走者・山崎賢一は、飛球が落ちるのを見るなり本塁に向かって走り出していたが、達川が本塁を踏んだのを確認した後本塁手前で走るのを止め惰性で歩いて本塁を踏んだ。
球審の谷さんは得点を宣告、大洋のサヨナラ勝ちとなった。

「インフィールドフライ・イフ・フェア」

インフィールドフライは、打球がフェアでなければ適用されない。そのため、ファウルライン付近に打球が打ちあがったときは「インフィールドフライ・バッターアウト」ではなく、「インフィールドフライ・イフ・フェア」(もしもフェアならインフィールドフライ)と宣告することになっている。

ただし、宣告がどっちであっても適用するルールに変わりはない。

そして、達川がフェアグラウンド上で打球に触れたことでこの打球がフェアと確定して、打者・清水はアウト。したがってこの状況においては、清水は一塁に走る意味がなかった。

策士・達川、策に溺れる

達川は、飛球が打ちあがっている状況で清水が一塁に走っていないことに気づき、「わざとワンバウンドで捕球し、本塁を踏んで一塁に送球すれば併殺が狙える」と考えて作戦を実行した。

しかし、これがまさにインフィールドフライのルールが存在する理由で、この行為がずるいからこそ、審判員が「インフィールドフライ」を宣告して打者を先にアウトにし、走者のフォースの状態を解除して進塁義務をなくしている。

達川は併殺をとるなら本塁を踏むのではなく、飛球が落ちるのを見るなり飛び出してきた三塁走者・山崎に触球すればよかった。そのため、このプレイで、達川にはエラーが記録された。

ルールを正しく理解できている選手・監督が少なかった

併殺を狙って本塁を踏んで一塁に送球した達川も、本塁に向かって突っ込んできた山崎も、両者とも「インフィールドフライ」のルールを理解できていなかったためにこのような動きになったと考えられる。

さらに、打者の清水は達川の落球を見て慌てて一塁に向かって走り出し、広島の一塁手長内孝は、達川の送球を受けた後走ってベンチに戻り、試合終了後に広島・山本浩二監督が激しく抗議を続けるなど、この試合では、インフィールドフライのルールを理解できている人が少なかった。

そんな中、ルールに基づいた的確な判定を行った球審の谷さん。現代の某テレビ番組なら「あっぱれ!」が連呼されるようなナイスジャッジであり、実際、1991年度にこの判定で表彰を受けたとか。お見事です。

そしてインフィールドフライの「教材」となって伝説に

この一件は、「こういうふうに、ずるいことができないようにするためのルールなんだよ」と紹介するのに分かりやすい具体例なので、野球のルールを解説する本で紹介されるように。

また、当人の達川も、後述の2015年5月4日の試合に関連して、「あの時の失敗は私自身にとっても勉強になったし、後に『インフィールドフライの処置の仕方』として、アマチュアの教材にもなったんよ」と報道陣にコメントしている。

2015年5月4日の広島vs巨人「フランシスコ事件」

概要

2-2の同点で迎えた9回裏、広島の攻撃。1アウト満塁で打者は小窪。

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小窪は、本塁とマウンドの中間あたりに飛球を打ち上げ、三塁手の村田と一塁手のフランシスコが突っ込んでくるが、お見合いをしてこれを落球。
フランシスコが打球を拾って本塁を踏み、直後に三塁走者の野間が本塁を駆け抜けた。
しかし、フランシスコと村田が落球する前に、二塁塁審の嶋田さんと三塁塁審の丹波さんが「インフィールドフライ」を宣告していた。

球審の福家さんは、丹波さん(この日の責任審判だった)と確認を行い、本塁に向かってセーフを宣告。得点を認めて試合終了となった。

巨人が犯したミス

1人でも審判員がインフィールドフライを宣告すれば、そのプレイはインフィールドフライのルールが適用になり、フォースプレイでなくなる。

二塁塁審の嶋田さんと、三塁塁審の丹波さんは、インフィールドフライを宣告していた。福家さんはインフィールドフライの宣告をしていなかった。恐らくこの瞬間、プレイに直接かかわっていた村田とフランシスコはインフィールドフライを把握できていなかっただろう。

しかし、嶋田さんと丹波さんがインフィールドフライを宣告していたのを見た野手はいるのだから、誰か1人くらい状況を把握し、指示を出せたはず。村田とフランシスコが落球したときに、誰か「拾ってランナーにタッチ!」とでも一声かけることができなかったか。

広島の無謀で果敢な挑戦

野間は、嶋田さんと丹波さんのインフィールドフライの宣告は知らなかったらしく、落球が見えた瞬間、満塁なので行くしかないと思ったようだ。

一方、三塁コーチの石井コーチは把握していた。だからこそ、そのあとすぐに福家さんに抗議に行けたわけだ。

ならば、

「アウトになる、危ないから止まれ!」

となぜ言わなかったのか。言えなかったのか。それとも、直後に起こる混乱を予期して、あえて「ゴー!」と言ったのか…?

野間の走塁自体は、普通に考えれば無謀。しかし、果敢な挑戦をした結果がサヨナラ勝ち。ルールを承知していたコーチが、状況を判断してあえて止めなかったのだとしたら、すごい決断力ということになる。

判定の混乱

球審の福家さんは、インフィールドフライの宣告より先に、フェアのシグナルをしていた。これは、飛球の上がった位置と野手が突っ込んできた状況から、キャッチ/ノーキャッチと、フェア/ファウルの2つのきわどい判定を球審が確実に行わなければいけないため、打球と野手の行動に集中していたから。

そのせいでなのか、福家さんは、嶋田さんと丹波さんがインフィールドフライを宣告していたのを見落としてしまった可能性が高い。本来なら、インフィールドフライの追従宣告が必要だった。

審判団としても、インフィールドフライを宣告した他の塁審が、大きな声と動作でインフィールドフライを宣告していればよかっただろう。

ちなみに、球審がフェアのシグナルをしたことは、このプレイでは重要な意味をもつ。それは、打球がフェアであることによって、インフィールドフライ、打者アウトが確定するということである。もしファウルボールなら、インフィールドフライは取り消しだ。

ただし福家さん、フランシスコが拾う前にフェアをシグナルしている気が。落球のとき、村田もフランシスコも触ってはいなかったはず。なお、フランシスコが拾った場所はフェアグラウンド上なので、フェアのシグナルは結果的に正しいことになった。

福家さんはフェアのシグナルの後、フランシスコが本塁を踏んだところでアウトを宣告。野間のアウトを宣告したのだろうが、これは誤りだった。でも、丹波さんの指摘を受けてその誤りを認め、改めて本塁にセーフを宣告したので、結論として、審判団の裁定に間違いはない。

こういうプレイが起きるからこそ、みんな野球のルールに詳しくなれる

こういった伝説の事件は、これから野球ルールを学ぶ時のよい教材になって、理解を深めるのに役立つ。こういう伝説が起こるくらい、野球のルールは奥が深いんです。

ぜひ、多くの人に野球のルールを正しく知ってもらいたい。そのためにも…早く野球も、インターネット上で自由にルールを閲覧できるようになるといいのに。(野球のルールブックである『公認野球規則』は、書店で1100円で販売されています)