numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

【野球】観客がフライを捕っちゃった?観客が試合を妨害したら……

スポーツには、する人だけでなく応援する人も必要です。プロの試合となれば、チームは試合をすることで儲けないといけませんから、入場料を払ってくれる観客の存在は必須です。

その観客が試合を妨害したらどうなるのでしょう。公認野球規則の記述から確認していきます。

公認野球規則では「観衆の妨害」

2022年6月26日、楽天vs西武で6回ウラ、三塁側スタンドぎりぎりの打球を三塁手オグレディ選手が捕りに行こうとしたとき、スタンドの観客がグラブを出して上から捕球しました。

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三塁塁審は両手を広げてボールデッドにしたあと、右手で拳を作って左手で右手首をつかむシグナルをしました。DAZNの中継で確認してみると、実況はファウルボールかと思ったようですが、三塁塁審の柳田さんがこんなシグナルをしていました。

右手で拳を作って左手で右手首をつかむシグナル

このシグナルは「観衆の妨害」があったことを示します。この直後、三塁塁審はアウトを宣告しました。

ちなみに、ネット上のニュースでも、また三塁塁審・柳田さんの説明でも「観客の妨害」という言葉が使われていますが、野球規則用語は「観衆の妨害」です。公認野球規則では、次のような規則が定められています。

公認野球規則6.01(e) 観衆の妨害

打球または送球に対して観衆の妨害があったときは、妨害と同時にボールデッドとなり、審判員は、もし妨害がなかったら競技はどのような状態になったかを判断して、ボールデッド後の処置をとる。
【規則説明】 観衆が飛球を捕らえようとする野手を明らかに妨害した場合には、審判員は打者に対してアウトを宣告する。

今回の場合は飛球を捕ろうとした三塁手を明らかに妨害した場合に当たるので、妨害がなければ捕球できたとみなして、打者にアウトが宣告されました。

この球場では1年前にも…

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2021年5月1日の楽天vsロッテ戦でも、同じような位置で、ファウルフライを捕ろうとする野手を観客が妨害するケースがありました。観客のモラルの問題でもあるし、球場そのものの課題なのかもしれませんね。

これは観衆の妨害になりません

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2019年7月22日のマリナーズ対レンジャーズ戦でのシーンです。同じように三塁側スタンドギリギリのファウルフライを三塁手が追いかけ、観客が上からグラブを出して捕っているのですが…

三塁手の上から観客が捕球

三塁塁審は、スタンド側を指差すシグナルをしています。これは「スタンドに入った」つまり「ファウルボール」という意味です。

スタンド側を指さすシグナル=ファウルボール

なぜこれが観衆の妨害に当たらないのかというと、先ほどの規則6.01(e)の続きには【原注】があり、このプレイはそれが適用されています。

公認野球規則6.01(e)【原注】

(前段略)
 野手がフェンス、手すり、ロープから乗り出したり、スタンドの中へ手を差し伸べて捕球するのを妨げられても妨害とは認められない。野手は危険を承知でプレイしている。しかし、観衆が競技場に入ったり、身体を競技場の方へ乗り出して野手の捕球を明らかに妨害した場合は、打者は観衆の妨害によってアウトが宣告される。

三塁手がスタンドの中に身を乗り出して捕球しようとしている場合は、観客に妨げられても、妨害とは認められないのです。

三塁手がスタンドの中に身を乗り出す

実際、三塁塁審は、スタンド内に入ったと判定した後、セーフのシグナルもして「妨害ではない」と示しています。三塁手のシーガーが何とも言えない顔をしているのが印象的ですが、これはルール通りです。

観衆の妨害はないという判定です

観衆の妨害に当たらない捕球、日本でも

2024年4月13日の巨人対広島戦で、これと類似の状況が起こりました。

8回裏の巨人の攻撃で、松原選手が打った飛球が三塁側ファウルスタンドぎりぎりの位置に飛びました。広島の三塁手の田中選手がフェンス際まで追って捕球しようとしたところで、観客が身を乗り出して捕球したのですが…

「ファウルフライが、フェンスよりお客さんの席の方で、お客さんが捕りました。これは妨害にはなりません。ファウルとして、(試合を)再開します」という説明でした。

なお、これはスタンド側だったのかグラウンド側だったのかをリプレイ検証(リクエスト)することができる事案になりますが、新井監督は、リクエストを行いませんでした。

打球に対する妨害も起こります

野手の守備に対する妨害だけでなく、こういう妨害も起こります。

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皮肉なことに打球に当たってしまった旗は、新庄選手を応援するもの。当たった位置がグラウンド側で、スタンドに入っていないとみなされました。

実況はエンタイトルツーベースと説明していましたが、このようなときは自動的に二塁打になるわけではなく、審判員が「もし妨害がなかったら競技はどのような状態になったかを判断して、ボールデッド後の処置をとる」こととなります。

スタンドに届くか届かないかのギリギリの軌道だったので、旗に当たっていなかったらホームランになっていた可能性もなくはありません。しかし、断定できるものでもないので、恐らくはスタンドに入らなかったとみなし、旗に打球が絡まったことで落下が遅れたために新庄選手が三塁まで行けたと判断して、二塁に戻したのでしょう。

というわけで、いろいろ残念なことが起こるので…

ついつい盛り上がってしまうことがあっても、選手のプレイを妨害するようなことがあってはいけません。スポーツ観戦は、マナーを守って、楽しく観るようにしましょう。このような残念なルールを適用しなければならない状態は起こってほしくないですし、状況によってはスタンドから退場させられたり、最悪の場合出入り禁止となってしまったりする場合もあります。