numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

「誤審」と「競技規則の適用ミス」はどう違うのか

2022年4月3日のJ2リーグ モンテディオ山形vsファジアーノ岡山 戦で、審判員による競技規則の適用ミスが起こり、Jリーグは再試合を行う決定をしました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220405/k10013568921000.html 多くの場合、審判の間違いのことを一般に「誤審」といいますが、今回は「競技規則の適用ミス」という用語が使われ、しかも再試合をするという重大な決定になりました。

この試合で何があったのか。「誤審」と「競技規則の適用ミス」は何が違うのか。なぜJリーグは再試合という判断をしたのかをまとめていきます。

どんなプレーだったのか

まずは実際の映像を見ていきましょう。当該シーンはこの動画の1分06秒からです。

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10分、山形の選手が蹴ったバックパスが山形ゴールに向かっていったため、GK後藤選手は、手を使って掻き出しました。このプレーに主審は笛を吹き、間接フリーキックを与えた上で、後藤選手にレッドカードを提示しました。

さて、競技規則にはこのような記載があります。

「サッカー競技規則2021/22」第12条 ファウルと不正行為

ゴールキーパーは、自分のペナルティーエリア外でボールを手や腕で扱うことについて、他の競技者と同様に制限される。ゴールキーパーが自分のペナルティーエリア内で、認められていないにもかかわらず手や腕でボールを扱った場合、間接フリーキックが与えられるが、懲戒の罰則は与えられない。

そのため、後藤選手は確かにハンドの反則を犯しており、岡山には間接フリーキックが与えられます。しかし、この場合、後藤選手に懲戒罰(カードの提示)は与えられないことになっています。つまり、主審がこのプレーで後藤選手を退場にしたことが、「競技規則の適用ミス」なのです。

「誤審」とは

スポーツ全般において「誤審」とは、プレーを見た審判員が、判定を誤ることをいいます。

例えば、野球でいえば、

  • ストライクゾーンを通ったかどうかでのストライク/ボールの判定
  • 送球と走者の触塁のどちらが早かったかでのアウト/セーフの判定 など

サッカーでいえば、

  • ボールがタッチラインを超えたかどうかや、そのとき、どちらのチームのボールなのか
  • あるプレーをファウルとするかどうか など

のように、審判員は、プレー中の事実を見極め、判断することが求められます。このとき、審判員も人間なので、判断に誤りが生じることも残念ながら起こります。近年はビデオ判定が導入されるようになり、審判員の目で「見極められなかった」ことも確認出来るようになり、誤審を防ぐ、あるいは一度下された誤った判定を正すことができるようになってきました。

「競技規則の適用ミス」とは

では、「競技規則の適用ミス」とは、「誤審」とどう違うのでしょう。

「競技規則の適用ミス」あるいは「規則適用の誤り」とは、プレーを見た審判員が、競技規則に書かれている通りに規則を適用しなかったことをいいます。

つまり、「誤審」は審判員がプレーを見極めることのミスであるのに対し、「競技規則の適用ミス」は当てはめるルールを間違えることです。

「誤審」は致し方ないが「競技規則の適用ミス」は許されない

「どちらも審判員のミス」と思われるでしょうが、この両者には大きな違いがあります。

「誤審」は、(結果として)審判員が誤った判定をしていますが、当該審判員には「そのように見えた」のであり、当該審判員の「判定」は尊重されなければいけません。もちろん判断を誤ることを積極的に肯定するものではないですが、言い方を変えれば「審判員の見極めの誤り」すなわち「誤審」も、その競技の一部と考えなくてはならないのです。

大抵の競技には、競技規則には「審判員の判定は最終」とか「プレーが再開したあとは、たとえ審判員自身が誤りに気づいても判定を修正することはできない」などと書かれているかと思います。 さらに、野球のルールブックである『公認野球規則』には、「審判員に対する一般指示」としてこんなことが記載されています。

たとえ誤りを犯したとしても、埋め合わせをしようとしてはならない。すべて見たままに基づいて判定を下し、ホームチームとビジティングチームとに差別をつけるようなことがあってはならない。

これに対して、「競技規則の適用ミス」は、審判員が見極めたことに対して、適用するルールが間違っています。

「気持ちが入ってないからボールだ」というフレーズで有名な、二出川延明球審の「ボール」判定は、発言からも明らかに、投球がストライクゾーンを通過しています。当時捕手だった野村克也さんはこの件に憤慨し、投手だった皆川睦雄さんはこの一喝に感銘を受け発奮したそうですが、審判員がルールを無視していることは明白ですから、このようなことを認めてしまうと、スポーツがルールに則らない別のものになってしまいます。

このようなわけで、「競技規則の適用ミス」は、誤審とは違って、認められないのです。

主審の決定は最終だが・・・

サッカーにおいて主審は、その試合に関して競技規則を施行する一切の権限を持っていて、適切な処置をとるために競技規則の枠組の範囲で裁量権が与えられています。プレーに関する事実についての主審の決定は、得点となったかどうかや試合結果を含め、それが最終判断です。

しかし、今回のミスでJリーグは、「山形は約 80 分間にわたって一人少ない状態で試合を行うことになり、試合の結果に重大な影響を及ぼし得た」とし、また「本事象は『サッカー競技規則に従っていない』ため、直ちに『主審の決定を最終である』とはならない」とのIFAB(国際サッカー評議会)の見解も得て、再試合とすることを決定しました。

ピッチ上の全員でフォローし合うことが大切

先ほども述べたように、主審にはそれだけ重い職責が課されています。

しかし、審判は主審一人で行うものではありません。ピッチ上には、主審だけでなく、2人の副審と第4の審判員がいます。4人の審判団(VARsがいればさらにVARとAVARも)が互いにフォローし合うことで、ミスを防ぐことはできます。他の審判員も誤りに気付いていたのなら、止めるべきでした。ですから、今回の件は主審一人の責任ではなく、審判団としてのミスです。

私も審判目線でこのような記事を書いている者として、今回の件を通して改めて正しく規則適用を行うことの重要さを再確認できました。

楽しくスポーツをするためには、審判員だけでなく競技者もルールを正しく理解し、尊重することが大切です。

審判員が間違っていたら、非難や抗議ではなく、ルールに基づいて指摘してみてください。きっと正しい方向に試合が進むはずです。