numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

なんてこった!フェンスに登って捕球したのにファウルボール?!

2022年4月20日、西武vsロッテ戦で珍しいプレイがありました。私もこんなのを見たのは初めてです。

ナイスキャッチ!でしたが…

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4回表、二死一・二塁。ロッテ・福田光選手の打球が三塁フェンス側に上がりました。三塁手の山野辺選手は、フェンスに登ってダイレクト捕球!ナイスキャッチ!

…かと思われましたが、判定はファウルボール。

西武側はリプレイ検証を求めましたが、判定は変わらずファウルボールでした。ファウルボールの理由は審判員から場内アナウンスされず。この瞬間、スタンドのお客さんは悶々としていた方も多かったことでしょう。

なぜファウルボールなのか

この状況でファウルボールという判定になる可能性はいろいろ考えられます。以下に列記します。

打球が防球ネットに当たった?

打球が防球ネットに当たっているかもしれません。すると、その時点でファウルボールとなります。DAZNの中継でも、実況と解説者はこの可能性を繰り返し確認していましたが、どこで当たったのかが確認できませんでした。

これは公認野球規則の「ファウルボール」の定義に記載があります。

公認野球規則 定義32 FOUL BALL「ファウルボール」

──打者が正確に打ったボールで、次に該当するものをいう。(巻頭図参照) (d) ファウル地域内またはその上方空間で、審判員またはプレーヤーの身体、あるいは、地面以外のものに触れたもの。

フェンスに登ったから?

「フェンスの上に登っていいのか?」という疑問もありますよね。

これは差し支えありません。飛球を捕らえた場合のアウトの条件は、公認野球規則5.09(a)(1)に示されていて、ダッグアウトやスタンドに飛び込みそうなボールに対しては、特に【原注2】に詳しく書かれています。

公認野球規則5.09(a) (1)【原注2】

(前略) 野手はフェンス、手すり、ロープなど、グラウンドと観客席との境界線を越えた上空へ、身体を伸ばして飛球を捕らえることは許される。また野手は、手すりの頂上やファウルグラウンドに置いてあるキャンバスの上に飛び乗って飛球を捕らえることも許される。しかし、野手が、フェンス、手すり、ロープなどを超えた上空やスタンドへ、身体を伸ばして飛球を捕らえようとすることは、危険を承知で行うプレイだから、たとえ観客にその捕球を妨げられても、観客の妨害行為に対してはなんら規則上の効力は発生しない。
 ダッグアウトの縁で飛球を捕らえようとする野手が、中へ落ち込まないように、中にいるプレーヤー(いずれのチームかを問わない)によって身体を支えられながら捕球した場合、正規の捕球となる。

この通り、手すりの上に飛び乗っても、フェンスの向こう側にグラブを差し伸べても、ダイレクト捕球なら有効であり、打者アウトです。

ただし、その時に観客に妨害されることがあっても、文句は言えません。話題がそれますが、この映像がルールを理解するのに分かりやすいです。

既に客席スタンドの上方にあるボールなので、先に観客がボールを捕っても文句は言えないということです。審判員が毅然とファウルボールを宣告している姿にインパクトがありますね。

実は踏み越えていたか?

余談ついでとなりますが、あくまでも可能性の話で、フェンスを飛び越えていた…としたら、ファウルボールです。

先ほど示した公認野球規則5.09(a)(1)の、【原注1】にその説明があります。

公認野球規則5.09(a) (1)【原注1】

 野手は捕球するためにダッグアウトの中に手を差し伸べることはできるが、足を踏み込むことはできない。野手がボールを確捕すれば、それは正規の捕球となる。ダッグアウトまたはボールデッドの個所(たとえばスタンド)に近づいてファウル飛球を捕らえるためには、野手はグラウンド(ダッグアウトの縁を含む)上または上方に片足または両足を置いておかなければならず、またいずれの足もダッグアウトの中またはボールデッドの個所の中に置いてはならない。正規の捕球の後、野手がダッグアウトまたはボールデッドの個所に踏み込んだり、倒れ込んだ場合、ボールデッドとなる。

例えばダッグアウトまたはボールデッドの個所で打球をつかんだとき、足をボールデッドの個所(スタンドの中など)に置いていたら、捕球は無効です。

しかし、今回は明らかに、踏み越えてはいませんから、これも関係ありませんね。

山野辺選手が、捕球までに防球ネットをつかんでいたから?

フェンスに登るのは認められるとして、そこにあった防球ネットをつかんでいたとすると、実際、山野辺選手がネットをつかんでしまったことに悪意があったわけではないでしょうが、2つの反則の可能性が考えられます。

1つは、自分自身の捕球体制を有利にするために、本来使ってはならない用具を使って体を支えたことになります。ここまで公認野球規則5.09(a)(1)【原注1・2】を読んできてお分かりのとおり、野手は危険を承知の上でプレイしているものと考えるのがルールのスタンスです。観客の安全のために張ってあるネットをつかんでバランスをとるのは、ズルいことになりますね。

もう1つは、打球が防球ネットに当たらないようにしたとみなされる可能性です。防球ネットに触れた時点でファウルボールなので、それを防いだと取られかねません。

このプレイの真実は

(2023年7月23日 追記)

このプレイについて、NPB公式記録員 藤原宏之さんの見解が示されていることに、最近になって気づきました。

山野辺選手がキャッチした付近ではなくて、防球ネットの最上部の方で飛球が当たったという判定でファウルになりました。リクエストもその判定に対してされたものだったのですが、その後の報道が無かったことでSNS等では「ネットをつかみながら…」が事実となって書かれているように見受けられます。

【記録員コラム】サヨナラの向こう側(NPB.jp 2022年5月20日)

実をいうと、私もこの記事を書いた当初は、ネットをつかんでいたから反則でファウルボールとしたのかと思っていました。

そうではなくて、防球ネットの最上部の方で当たっていたのですね。