numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

Referee と Umpire はどう違うのか【後編】

今週のお題「自由研究」

2年前、東京オリンピックパラリンピックを見ているときに、私が夏の自由研究として、以前から気になっていたこのテーマについて、調べてみた結果のまとめです。過去の焼き直しになっちゃいますが、このお題のチャンスを生かし、はてなブログへの引っ越しも機に、再構成して紹介し直そうと思います。

前編では、

num-11235.hateblo.jp

RefereeとUmpireの意味を、国語辞典、英和辞典、英英辞典で調べた。

Refereeは、「試合を進めるにあたって、規則に照らして最終的な権限を持った人」という意味合いのようだ。だからこそ日本語にしたときには「主審」という用語を当てるのが一般的なのだろう。

一方、Umpireは、当事者間で争いごとが解決できなかった時の「第三者の仲裁役」として関わり、最終決定をする人というニュアンスのようだ。

どちらも審判員であることは間違いないが、Refereeの方がUmpireよりも権限が強そうな感じもする。

ということで後編では、審判員を「レフェリー」と呼ぶ競技と、「アンパイア」と呼ぶ(またはアンパイアと呼ぶ規則がある)競技における、競技規則上の審判員の位置づけについて調べた結果をまとめてみた。

 

調査3 審判員を「レフェリー」と呼ぶ競技での位置づけ

サッカーの他に、ラグビー、バレーボール、柔道、レスリングを調べてみた。調べた結果が下の表のとおり。

審判員を「レフェリー」と呼ぶ競技での位置づけ

サッカー、ラグビー、バレーボールでは、主審(レフェリー。バレーボールでは1stレフェリー)には、最終的な権限があり、主審でない審判員(副審、スコアラーやジャッジなど)の判断を覆すことができる。

一方、柔道では主審(Referee)は試合進行を司り、副審(Judges)は試合場そばに配置された机に座り、三者多数決の原理に基づき、主審に無線機を通じて助言をする、となっている。

また、レスリングにはマットチェアマンがいるとのこと。レフェリーとジャッジが判定するまでマットチェアマンは意見を言わず、意見の相違があったときに調整する役割なのだそうだ。

調査4 審判員を「アンパイア」と呼ぶ競技での位置づけ

野球、ホッケー、バスケットボールを調べた。

審判員を「アンパイア」と呼ぶ競技での位置づけ

やはり野球が分かりやすいと思うのだが、マスクをかぶって捕手の後ろに位置する審判員は、球審と呼び、主審ではない。ただし、アンパイア イン チーフという呼称がある。

基本的には球審や塁審は、自分が担当する塁や領域について責任を持ち、それぞれの判定に権限の違いはない。選手を退場させる権限も、同様に持っている。

球審にのみ与えられている権限は、試合の進行に関すること。具体的に言うと、試合開始の「プレイ」の宣告や、試合終了「ゲーム」の宣告、選手交代の受付など。つまり、複数人が有すると混乱を招く権限のみだ。

ホッケーもフィールドを半々に分けて、それぞれの判定領域に責任を持つと書かれている。

バスケットボールは、クルーチーフと1~2人のアンパイアという言い方になっている。クルーチーフとアンパイアをひっくるめた「審判団」というニュアンスでRefereeという用語が用いられているようだ。

つまり、アンパイアと呼ぶ競技では、審判団が試合を裁き、審判団の中にチーフが存在する。試合の運営に関することはチーフが行うが、それ以外のことについては権限に違いがない、ということのようだ。

テニスの競技規則でびっくり。

テニスの競技規則には、レフェリーとアンパイアの両方がいることを知った。

ITF RULES OF TENNIS
The referee is the final authority on all questions of tennis law and the referee’s decision is final.

拙訳:テニス競技規則に関するすべての疑義については、レフェリーが最終的な権限を持ち、レフェリーの決定は最終的なものである。

トラブルを解決するため、コート上のチェアアンパイアと両プレイヤーから事情を聞き、状況を判断し解決するのが、レフェリーの任務のようだ。ということは、普段はコート上にいないということかな。

ITF RULES OF TENNIS
Case 6: Is a line umpire allowed to change the call after the chair umpire has announced the score?
Decision: Yes. If a line umpire realises a mistake, a correction should be made as soon as possible provided it is not as the result of a protest or appeal of a player.
拙訳:
ケース6 チェアアンパイアが得点を発表した後に、ラインアンパイアが判定を変更することはできるか?
判定:できる。ラインアンパイアが誤りに気付いた場合は、プレイヤーの抗議やアピールの結果でない限り、可能な限り速やかに訂正されるべきである。

チェアアンパイアというのは、ネットの脇で椅子に座っていて、マイクで得点をコールする審判員で、試合の進行をしている。コート上にいる審判員は、チェアアンパイアの他にラインアンパイアやネットアンパイアがいる。野球に置き換えれば、チェアアンパイア球審で、ラインアンパイアやネットアンパイアが塁審や外審になるだろう。

なんと、バレーボールとは異なり、ラインアンパイアチェアアンパイアの判定の誤りを正すこともできることが分かった。

私なりの一応の結論を

主審(レフェリー)は、最終的な判定の権限を持っていて、他の審判員の判定を覆すことができる。最終決定権を持つので、レフェリーはその試合に1人しかいない。他の審判員は、主審の試合進行の支援をする役割となる。

一方、アンパイアと呼ばれる審判員が試合を裁く競技では、各アンパイアには担当領域が割り当てられていて、担当領域における判定に責任を持つ。各アンパイアが下した判定を、他のアンパイアが覆すことは基本的にない。ただし、審判団のチーフになるアンパイアが決められている。野球であれば球審、テニスであればチェアアンパイアということになり、その審判員には、試合進行の権限を与えられている。

複数人のアンパイアが1つのプレーに対して異なる判定をした場合は、審判団が集まって協議を行い、最終的な判定を決定する。アンパイアのチーフだからと言って、球審チェアアンパイアがレフェリーのように他の審判員の判定を覆すことはない。テニスでは、チェアアンパイアの判定の誤りをラインアンパイアが訂正することも認められている。

最終的な権限を有し、他の審判員の判定を覆すことができる主審とは立ち位置が違う。どうやら、アンパイア同士は対等の関係という理解でよさそうである。

そして、レフェリーもアンパイアも両方いるテニスでは、アンパイアの判定にプレイヤーが異議を示した場合、レフェリーが出てきて、最終判定をするシステムになっているということだった。よって、

 レフェリー > アンパイア 

という力関係があることになる。これを一応、今回の夏の自由研究の結論ということにしたい。

しかし、疑問は残った

柔道やレスリングではこの認識がすっと当てはまらない。例えば柔道では、主審の判定を副審が覆すことができるということだ。そういえば、かつて柔道の副審がパイプ椅子に座って畳上にいたとき、主審の判定を2人の副審のうち1人が認めないと、主審が判定を取り消していたのを思い出した。

格闘技では、主審が絶対的な権限を持っているわけではないということなのだろうか。ボクシングのレフェリーとか、プロレスのレフェリーとか。

相撲の行司も、英語にするとレフェリーになるんだと辞書には書かれていた。しかし行司は、物言いがついたら5人の勝負審判が土俵に上がって協議することになっていて、その時、行司は、意見は述べられても採決には加われない。その物言いをつける権利は、勝負審判だけでなく、土俵の周りで次の取組に控えている控え力士にも認められていて、控え力士が物言いをつけたら、勝負審判は必ずこれを取り上げないといけないことになっている。

こういうルールを考えると、行司には、これまで調べてきたレフェリーの絶対的権限は、到底ないように思う。

格闘技は本当に専門分野じゃないからなあ。ここから先は気長に研究します。夏の自由研究、これにて終了。

最後まで駄文にお付き合いいただいた皆さま、ありがとうございました。
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