2022年8月10日の日本ハムvs西武で、ボナファイドスライドルールが適用されたシーンがありました。
\ リプレイ検証📺 /
— ファイターズ on GAORA SPORTS (@gaora_fighters) 2022年8月10日
終盤の1点を巡る判定の結果は…⁉️
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責任審判の笠原さんの説明では、「清宮選手はアウト、そして危険なスライディングとして、ボナファイドスライドルールを適用して、打者走者の近藤選手もアウトといたします。」とありました。
ボナファイドスライドルールとは何なのか、起こった場合はどのようになるのかを説明します。
- 正しい用語は「ボナファイドスライドルール」
- ボナファイドスライドルールとは具体的には?
- 併殺崩しは重罰!
- 清宮選手のプレイはなぜリクエストになったのか
- ボナファイドスライドルールが設けられた背景
- まとめ
正しい用語は「ボナファイドスライドルール」
まず、用語から説明します。冒頭のプレイが起こった後、ネット上には「ボナファイド」「ボナファイドルール」という用語が飛び交いましたが、「ボナファイドスライドルール」が正しい言い方です。
“bona fide slide”という用語は「Official Baseball Rules」の6.01(j)に出てくる用語で、ここから、6.01(j)のことを「ボナファイドスライドルール」と呼んでいます。
Official Baseball Rules 6.01(j)
ボナファイド(bona fide)はラテン語で、「本物の」「誠意ある」「合法的な」といった意味合いになります。 “bona fide slide”を日本語に翻訳した「公認野球規則」では〝正しいスライディング〟と訳されています。
清宮選手のスライディングは、いわゆる「併殺崩し」と見なされて、守備妨害が宣告されたわけですが、「ボナファイドでアウト」という言い方は言葉の使い方としては誤り。「ボナファイドスライドじゃなかったからアウト」というのが正しい言葉の使い方です。
ボナファイドスライドルールとは具体的には?
では、具体的に公認野球規則6.01(j)を見ていきましょう。規則本文を引用します。
公認野球規則6.01(j) 併殺を試みる塁へのスライディング
走者が併殺を成立させないために、〝正しいスライディング〟をせずに、野手に接触したり、接触しようとすれば、本条によりインターフェアとなる。
本条における〝正しいスライディング〟とは、次のとおりである。
走者が、
(1) ベースに到達する前からスライディングを始め(先に地面に触れる)、
(2) 手や足でベースに到達しようとし、
(3) スライディング終了時は(本塁を除き)ベース上にとどまろうとし、
(4) 野手に接触しようとして走路を変更することなく、ベースに達するように滑り込む。〝正しいスライディング〟をした走者は、そのスライディングで野手に接触したとしても、本条によりインターフェアとはならない。また、走者の正規の走路に野手が入ってきたために、走者が野手に接触したとしてもインターフェアにはならない。
前記にかかわらず、走者がロールブロックをしたり、意図的に野手の膝や送球する腕、上半身より高く足を上げて野手に接触したり、接触しようとすれば、〝正しいスライディング〟とはならない。
走者が本項に違反したと審判員が判断した場合、走者と打者走者にアウトを宣告する。その走者がすでにアウトになっている場合については、守備側がプレイを試みようとしている走者にアウトが宣告される。
併殺崩しは重罰!
併殺が起こる状況で、走者が(1)~(4)の要件を満たさないスライディングをした、あるいは、ロールブロック(身体を回転させながら野手に接触しようとする行為)をしたり、意図的に高く足を上げて野手に接触に行こうとしたりすれば、「〝ボナファイドスライド〟ではない」として、併殺崩しの守備妨害が宣告されます。
この場合、実際に併殺が完成するタイミングであったかどうかは関係なく、守備妨害をした走者とともに、打者走者にもアウトが宣告されるという重いペナルティが課せられます。また、守備妨害をした走者には警告が与えられ、次に警告をされるような行為があれば退場となります。
清宮選手のプレイはなぜリクエストになったのか
リプレイをもう一回見てみましょう。
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終盤の1点を巡る判定の結果は…⁉️
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二塁塁審の村山さんはセーフを宣告していて、これに対して秋山監督から「守備妨害ではないのか?」という規則適用にかかる疑義(しばしば抗議という言い方をされますが、審判員の判定への抗議はそもそも認められません。規則適用の誤りを指摘することは、監督にのみ認められた権利です)が示されました。
今回はプロ野球なのでリプレイ検証が行われましたが、リプレイ検証ができない試合でも、監督からの要請を受けて(あるいは受けなくても)審判員が集まって協議し、このプレイの状況なら、恐らく同じ結論に達しただろうと思います。
つまり、プロ野球なので「リクエスト」という結果になってしまったが、リクエストがなくても、審判団協議が行われる事象だったと私は考えます。
もちろん、理想的な判定は、プレイ発生時点で二塁塁審がボールデッドにすることです。しかし、このときの二塁塁審の最重要任務は、走者の足と野手の触球のどちらが早かったかの判定であり、視線がそこに集中していますから、プロの審判員でも瞬間的に守備妨害の宣告に切り替えるのは難しい状況だったと思います。
ボナファイドスライドルールが設けられた背景
実は、このルールができたのは、アメリカで2016年のこと。日本はこれの追従改正をして2017年から設けられました。もっとも、「併殺崩し」に係るルールは、先ほど説明した規則改正以前からも存在していて、具体的には5.09(a)(13)【原注】や、6.01(a)(5)に記述がありました。このルールは今も明記されています。
公認野球規則5.09(a) 打者アウト
次の場合、打者はアウトになる。
(13) 野手が、あるプレイをなし遂げるために、送球を捕らえようとしているか、または送球しようとしているのを前位の走者が故意に妨害したと審判員が認めた場合。
【原注】 この規則は攻撃側プレーヤーによる許しがたい非スポーツマン的な行為に対するペナルティとして定められたものであって、走者が塁を得ようとしないで、併殺プレイのピボットマン(併殺の際、ボールを継送するプレーヤー。すなわち遊撃手─二塁手─一塁手とわたる併殺ならば二塁手、二塁手─遊撃手─一塁手の併殺ならば遊撃手がピボットマンである)を妨害する目的で、明らかにベースラインからはずれて走るような場合に適用されるものである。公認野球規則6.01(a) 打者または走者の妨害
(5) アウトになったばかりの打者または走者、あるいは得点したばかりの走者が、味方の走者に対する野手の次の行動を阻止するか、あるいは妨げた場合は、その走者は、味方のプレーヤーが相手の守備を妨害(インターフェア)したものとして、アウトを宣告される。(5.09a13参照)
しかし、この文章だけだと、具体的にどのようなスライディングならよくて、どのようなスライディングが規則違反なのか、不明瞭でした。
一方で、コリジョンルールが設けられたのと同様、「併殺崩し」のためにピボットマンを邪魔しようと、一塁走者が軸足や身体めがけてスライディングや体当たりに行く行為はしばしば見られます。私も、アマチュア野球レベルで「(ピボットマンを)潰せ!」という声が監督やコーチから発せられるのを聞いたことがあります。実際、これで故障してしばらく野球ができなくなる選手もいて、極めて危険な状況でした。
「正しいスライディングとは何かを明記しよう」 そこで、「正しいスライディング」を具体的に明記しようという流れになりました。それが、
(1) ベースに到達する前からスライディングを始め(先に地面に触れる)、
(2) 手や足でベースに到達しようとし、
(3) スライディング終了時は(本塁を除き)ベース上にとどまろうとし、
(4) 野手に接触しようとして走路を変更することなく、ベースに達するように滑り込む。
の4点です。また、これに関わらず、ロールブロックや足上げタックルも禁止事項に含まれました。
まとめ
まずは、「ボナファイドスライドルール」という用語を正しく覚えましょう。ボナファイドは、「本物の」「誠意ある」「合法的な」といった意味なので、「ボナファイドルール」とか、単に「ボナファイド」だと、言葉の使い方としては不正確です。
「ボナファイドスライドルール」は併殺崩しの悪質性や危険性から定められたルールであること、「ボナファイドスライド」(正しいスライディング)の要件として4点があることもこれをきっかけに覚えていただけたら幸いです。