都市対抗野球 第5日 第1試合 日本製鉄鹿島(鹿嶋市)vs ヤマハ (浜松市)の試合で、ヤマハの勝ち越しタイムリーが取り消される事象が起こりました。
◢◤ #都市対抗ライブ 第5日 ◢◤
— 毎日新聞LIVE (@mainichi_live) 2023年7月18日
第1試合#日本製鉄鹿島(鹿嶋市)
vs
#ヤマハ (浜松市)
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ヤマハの勝ち越しタイムリーが取り消される珍事
相手投手の #ピッチクロック 20秒ルールを適用
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ライブ配信中
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Twitterを見ていると、
「なんで守備側の違反なのに攻撃側が不利受けるのか」
「こういう時、監督の選択権は使えないのか」
「サッカーみたいにアドバンテージにすればいいのに」
「ゲームのスピードアップのためのルールなのに、かえってゲームを長引かせている」
といった、ルールに対する疑問がたくさん挙げられているようです。
こういうときこそ、ルールを知るチャンス。関係するルールをまとめますので、ぜひ、なぜこうなったのかについて理解を深めてください。
ピッチクロックとは
投手は、ボールを受け取ってから、走者がいない場合は12秒(都市対抗野球の場合。MLBでは15秒)、走者がいる場合は20秒以内に投球動作に入らなければなりません。
違反した場合、球審は走者がいるときの1回目に限り警告を発することとし、同一の投手が繰り返したら、そのつどボールを宣告します。また、ボールデッドとなって、これが四球によって打者に一塁が与えられたことにより押し出される走者以外は進塁できません。
このルールは「日本野球連盟(社会人野球)スピードアップ特別規程」によるもので、2023年シーズンから適用されることとなりました。
日本野球連盟公式サイト | 「スピードアップ特別規程」の導入について
なぜタイムリーは取り消されたのか
実は、タイムリーヒットが打たれた投球は、投げる寸前で20秒が経過していました。
このことに気付いた一塁塁審が〝タイム〟を宣告していたのです。
〝タイム〟の宣告の直後に投球が行われ、打者はこれを打ってタイムリーにしたわけですが、既にボールデッドになっているのでこのプレイは無効、得点は認められませんでした。
審判員はどんな時でも〝タイム〟をかけていいのか
野球のルールでは、〝タイム〟を宣告してボールデッドにする権限は4人の審判員に同等に与えられています。一方、試合を開始/再開させるための〝プレイ〟の宣告は、球審にのみ認められています。
公認野球規則5.12をよく読むと、「審判員」と「球審」と用語が書き分けられていることに気づくと思います。
公認野球規則5.12 〝タイム〟の宣告
(a) 審判員が試合を停止するときは〝タイム〟を宣告する。球審が〝プレイ〟を宣告したときに停止状態は終わり、競技が再開される。タイムの宣告からプレイの宣告までの間、試合は停止される。
(b)(8) 審判員はプレイの進行中に、〝タイム〟を宣告してはならない。ただし、(2)項、または(3)項後段に該当するときは、この限りではない。
ボールデッドになった後、投手が新しいボールか、元のボールを持って正規に投手板に位置して、球審がプレイを宣告したときに、競技は再開される。
投手がボールを手にして投手板に位置したら、球審はただちにプレイを宣告しなければならない。
「プレイの進行中に〝タイム〟を宣告してはならない」とあるので、例えば、ボールが動いていたり、走者が走ったりしているときには(ライトの故障や選手のけがなどの突発事象がなければ)審判員は〝タイム〟を宣告することはありません。
言い換えると、今回審判員がピッチクロックの「0」を確認して〝タイム〟を宣告したタイミングは、まだ投手が投球動作に入っていなかったと判断したから。
そして一塁塁審が〝タイム〟を宣告した直後、投手が投球動作を始めました。しかし、一度〝タイム〟を宣告したらもう既にボールデッド。そのため、一塁塁審は全力でプレイを止めようとしていました。
他の審判員が気づいて、追従して〝タイム〟を宣告してくれるまで、一塁塁審はひたすら〝タイム〟を連呼していたはずです。
まとめ
要するに本件は、〝タイム〟がかかっていたからプレイが認められなかったということです。「もう投げる寸前だったんだからいいじゃないか」という意見もあるでしょうが、審判員が1人でも〝タイム〟を宣告すればそれでボールデッドというのが野球のルールです。
「サッカーみたいにアドバンテージにすればいいのに」という意見も見かけましたが、本件をサッカーで例えるなら、ファウルだと思って主審が笛を吹いたにも関わらず選手がアドバンテージだと思い込んでプレーを続けたような状況です。たとえゴールにボールが入っても、笛を吹いた後のプレーは認められません。
「ルールの表面的なことじゃなくて、ピッチクロック導入の背景を考えろ。この審判員の判断がナンセンス」なんてツイートも見かけましたが、審判員にとってこの瞬間に大切なことは、ボールデッドにもかかわらずプレイが続いてしまっている状態を早く収束させることでした。プレイが止まるのに時間がかかったために、この試合に関わった人たちがいろいろな思いを抱いたのは事実ですが、対応は適切であり、この結果は致し方ありません。
一方、守備側の違反に端を発した事象で、攻撃側が得点が取り消されるという不利益を被ることに納得がいかないという気持ちも分かります。
しかし、攻撃側も守備側も同じルールでやっているのですし、本当にこのルールは改善すべきと感じるのなら、改善されていくでしょう。例えば「大谷ルール」のように、野球のルールでは思い切った改革がされることだって現に起こっているのですから。