numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

審判は石ころと同じ、ではない!【野球編】

「審判は石ころと同じ」

よく聞きますよね、このフレーズ。

実は、大間違いです。

審判員は人間です!当たったら痛いです。

えっ?そういうことを言ってるんじゃない?「審判員にボールが当たっても、石ころに当たったのと同じルール」って意味だと?

やはり、間違いです!

この記事にたどり着いたあなた。ぜひ、正しい野球規則の理解のために、「審判は石ころではない」というフレーズと共に、拡散希望します(笑)

審判員にボールが当たったとき、プレイが止まる場合

そうなんです。実は、審判員にボールが当たったとき、「ボールデッド」となる場合があるのです。

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タイムなど、ボールデッドとするときのシグナル

ご存じのとおり、ボールデッドとなるときには、審判員は両手を上に広げるジェスチャーをします。これから紹介するのは、審判員にボールが当たったときに、審判員がこのジェスチャーをしてプレイを止めるものです。

まだフェアかファウルか決まっていない打球に、ファウル地域で触れた場合

この場合、ファウルボールとなり、直ちにボールデッドです。

何?そんなことは知っている?

ならば、よく考えてみてください。

ファウル地域で石ころに当たっても、ボールが止まるか、野手が触れるかするまでは成り行きですから、石ころに当たったときにプレイは止まりませんよね。ですから、審判員にボールが当たるのと、石ころにボールが当たるのは同じではないということです。

なんだ、そんなことなら……と思った方。実はもう一つ、審判員に当たった場合にボールデッドとする場合があります。

フェア地域で打球に触れた場合

野手(投手を含む)に触れていないフェアボール、または内野手(投手を除く)を通過していないフェアボールがフェア地域で審判員に触れた場合には、ボールデッドとなり、打者に一塁が与えられ、これによって押し出される走者は進塁します。

公認野球規則5.05 打者が走者となる場合

(b) 打者は、次の場合走者となり、アウトにされるおそれなく、安全に一塁が与えられる。(ただし、打者が一塁に進んで、これに触れることを条件とする)
(4) 野手(投手を含む)に触れていないフェアボールが、フェア地域で審判員または走者に触れた場合。ただし、内野手(投手を除く)をいったん通過するか、または野手(投手を含む)に触れたフェアボールが審判員に触れた場合にはボールインプレイである。

公認野球規則5.06(c) ボールデッド

次の場合にはボールデッドとなり、走者は1個の進塁が許されるか、または帰塁する。その間に走者はアウトにされることはない。
(6) 内野手(投手を含む)に触れていないフェアボールが、フェア地域で走者または審判員に触れた場合、あるいは内野手(投手を除く)を通過していないフェアボールが、審判員に触れた場合──打者が走者となったために、塁を明け渡す義務が生じた各走者は進む。

フェア地域にいる審判員に打球が当たる場合というのは、二塁塁審が内野に位置するときにその可能性が高くなります。

2015年6月2日のソフトバンクホークス対横浜DeNA戦を見てみましょう。7回裏二死満塁で、柳田選手の打球が二塁塁審に当たったあとセンター前へ転がりました(2:37~)。

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この場合、当たった時点でボールデッドになるので、ホーム付近が映ったとき、球審が両手を挙げているのが確認できるかと思います。打者の柳田選手は一塁が与えられ、満塁なので、全ての走者が1つずつ進塁します。当たっていなかったら二塁走者まで本塁に還っていたとは思いますが、ルール上仕方ありません。

ちなみに、この場合の打撃記録は、ヒットになります。フェア地域にいる審判員に打球を当てたら、記録はヒットなんです。

審判員にボールが触れても、ボールインプレイとなる場合

審判に当たっても石と同じ、というのは、野球規則の用語を使うと、「ボールインプレイ」という言い方をします。平たい言い方をすると、「成り行きどおり」ということです。次の場合です。

  • 投球が(暴投や捕逸のために)球審に触れた場合
  • 送球が審判員に触れた場合
  • フェアの打球が、野手(投手を含む)に触れたあとに審判員に触れた場合
  • フェアの打球が、内野手(投手を除く)を通過したあとに審判員に触れた場合
  • フェアと決まった打球が、ファウル地域で審判員に触れた場合

野球のボールの状態は、投球、送球、打球の3つに分けられます。

そのうち、投球と送球が審判員に触れた場合は、ボールインプレイ

打球についても、上記の場合はボールインプレイです。

確かに審判員にボールが触れたとき、その多くの場合はボールインプレイです。それを単純明快に分かりやすく表現したのが「石と同じ」なのでしょうが…単純に表現したがゆえに、誤解を含む表現になっているのです。実際、ボールデッドになる場合もあるわけですから。

このことを理解してほしいというのが、この記事の趣旨です。伝わったでしょうか・・・?

誰が「石と同じ」と言い出した?

YouTubeで探すと、「石ころ事件」というのがヒットします。

1982年日本シリーズ 西武vs中日 第6戦です。

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この場合は、打球が一塁を超えたフェア地域で、一塁手の脇を抜けた直後に一塁塁審の右足に当たりました。つまり、一塁手を通過したフェアボールなので、審判員に当たってもボールインプレイです。

本来なら長打になりそうな打球だったのに審判員に当たり、さらに不運なことに、これが二塁手の前にはね返ったことから、二塁手はすぐに拾って三塁へ送球、三塁を一度回った二塁走者が慌てて三塁に戻るも、アウトになりました。

日本シリーズで起こった事件なので、相当な注目があったことでしょう。

「審判に当たっても石と同じ」という単純な解釈が、ここから一気に広まってしまったのだろうと思います。

繰り返しますが、このプレイは、一塁手を通過したフェアボールなので、審判員に当たってもボールインプレイです。もし一塁手の守備なくダイレクトにあの位置で当たったら、ボールデッドで打者に一塁を与える裁定になります。

だから一塁と三塁の塁審はファウル地域に構える

万が一打球が審判員の身体に当たったら、正直言って、審判員はかなりのパニックに陥ります。

しかし、審判員自身がファウル地域にいたのなら、迷わず「ファウルボール」と判定できるし、フェアと決まった打球が当たった場合も、審判員がファウル地域にいれば、迷わずボールインプレイとすればよいのです。

うかつにファウルラインをまたいでいると、打球に当たっちゃったとき、それがフェアかファウルか分からなくなるでしょ?それによって適用ルールも変わるから、パニック増し増しになって、極めてまずい状況になります。

だから、一塁塁審や三塁塁審の基本的な位置取りとしては、ファウルラインをまたがず、ファウルラインからボール1個分だけファウル地域側に構えることになっています。これなら、万が一打球が身体に当たっても、迷わずファウルボールですから。

最後まで読んでいただいたあなた。ありがとうございます。

冒頭にも書きましたが、ぜひ、多くの方に正しく野球規則を理解してもらうために、

「審判は石ころではない。人間です。」

というフレーズと共に、この記事の拡散を希望します(笑)