野球ルールは確かに複雑でややこしいですが、しばしば「なんで?よく分からない!」と言われる野球ルールの1つが、いわゆる「振り逃げ」ルールです。
三振なの?アウトじゃないの?なんで走れるの?やっぱりアウトなの?
といった混乱とともによく質問を受けます。
「振り逃げ」ルールを、ここで一緒に確認していきましょう!
「振り逃げ」できる条件
次の条件①〜③の3つをすべて満たしていると、打者は走者として一塁に向かうことができます。(公認野球規則5.05(a)(2))
条件① 捕手が第3ストライクと宣告された投球を正規に捕球できなかった
条件② 走者が一塁にいない、または走者が一塁にいてもアウトカウントが2アウトである
条件③ まだ打者がアウトになったと思いこんでダートサークル(本塁の周りを囲む土の部分)を出ていない
このとき、守備側が打者走者をアウトにするためには、他の走者と同様に触球(タッグ)するか、一塁に送球するかしなければいけません。
ストライク3つ取られたのに、なぜ走れるの?
もともと、野球は打者に打ってもらうことから始まるスポーツでした。投手の役割は、できるだけ打ちやすい球を投げること。そして、3回打てなかった(打てる球を打てなかったときに「ストライク!」(打て!)と宣告されていた)ときは、そこから打者が一塁に走るルールでした。
そう。もともとは、ストライク3つ取られると、打者が走るルールだったのです。
しかし、野球の試合のスピードアップやスリリングさを求めてルールが改定され、1880年に「第3ストライクの投球を捕手が直接捕球すれば、打者はアウトになる」とルールが改定されました。つまり、打者が一塁に向かうルールの中に、後から「即アウト」のルールが追加されました。
即アウトの条件は、直接捕球すること。 直接捕球されていないなら、従来どおり、打者は一塁に走ることになります。今では「ストライク3つ取られたらアウト」と考えるほうが一般的ですが、一塁に走るルールのほうがもともとのルールだったという、このルールの変遷が条件①の理由です。
実は振ったかどうかは関係ない
条件①をもう一度よく見てもらいたいのですが、
「第3ストライクと宣告された投球」を正規に捕球できなかったら、
としか書かれていません。
第3ストライクが空振りでなく、見逃しのストライクでも、これを捕手がそらすなどした場合は、振り逃げ条件を満たすことになります。
つまり、振ったかどうかは関係ありません。
そもそも「振り逃げ」は野球規則の用語ではありません。通称なんです。
でも、振り逃げって言いますよね。なぜなんでしょう。
捕手が捕球できなかったストライクは、普通はワンバウンドしたり、大きく外れていたりするので、そういう投球は振らないとストライクになりません。だから、一般的には、打者が空振りして、打てなかったけれど一塁に走る(逃げる)から、通称・振り逃げと呼ばれています。
捕手が正規に捕球するとは?
条件①には、捕手が「正規に捕球」できなかったら、とありました。
ここで言う「正規の捕球」とは、簡単な言葉で説明すると、
投球が投手が投げてから地面に着くことなく直接ミットに収まり、これを確実につかむこと
です。捕手が投球を確実につかめなかった場合はもちろん、ワンバウンドした投球を捕手が確実につかんでも、正規の捕球には該当しません。正規の捕球ができていないことが、振り逃げ条件の1つです。
一塁走者がいるとなぜ振り逃げできないの?
続いて条件②の理由についてです。実はこれは、悪意ある併殺の防止のためです。
一塁に走者がいる状態で振り逃げできるようになると、一塁走者は、走ってくる打者走者のために一塁を明け渡さなければならず、進塁義務が発生します。
すると、このルールを悪用して、捕手がわざと投球を手元に落とし、すぐ拾って二塁、一塁と送球してダブルプレイを取ることができてしまいます。
三振でアウト1個のはずがダブルプレイでアウト2個とれてしまうのはずるいですね。これを防止するために、一塁走者がいるときは、打者を直ちにアウトにするルールにしているのです。
しかし、2アウトのときはダブルプレイが起こりません。ですから、2アウトのときは、一塁走者がいても振り逃げが認められます。例えば2アウト満塁なら、振り逃げ状態になると、すべての走者に進塁義務が発生することになります。
この例では、捕手が一塁に送球していますが、ボールを拾った捕手が本塁を踏んで、三塁走者をフォースアウトにすることもできます。
ダートサークルって?
最後に条件③の理由についてです。これは端的に言うと、打者走者に走塁の意思があるかどうかを判断する基準です。
本塁の周りを囲む土の部分のことをダートサークルといいます。
ダートサークルは本塁を中心に直径26フィートと規定されているので、半径にして13フィート(3.962 メートル)。打者がアウトになったと思い込んで、約4メートル離れると、走塁を放棄したとしてアウトが宣告されます。多くのプロ野球の球場では、土と芝の境目を境界線として判断することができるのですが、阪神甲子園球場のように内野が全面土の球場の場合は、白線をひいて対応しています。
このルール、以前はベンチの階段に足がかかったらアウト、とされていました。
かつてはこの位置からでも、振り逃げできることに気づいたら、一塁に向かうことが可能でした。
しかし、振り逃げを巡るルールのトラブルでメジャーリーグで2006年、日本では1年遅れて2007年にルール改正になり、現在は、ダートサークルを超えたかどうかを基準にしています。
この他に振り逃げ出来なくなる場合
第3ストライク宣告とともに直ちにボールデッドになるときは、振り逃げは認められず、打者にアウトが宣告されます。
例えば、以下の場合は、捕手が捕球できていなくても振り逃げはできません。
- スリーバントを失敗した
- 空振りした打者の身体に投球が当たった
- ストライクゾーンで打者の身体に投球が当たった
- ホームスチールしてきた三塁走者に第3ストライクの投球が当たった
ちなみに、第3ストライク宣告後にボールデッドになる場合でも、このようなときは、打者に一塁が与えられます。ある意味、ルール的に振り逃げ成功が認められたことになります。
まとめ
振り逃げできる条件とその理由、また、振り逃げが認められない場合と、振り逃げ成功とみなされる場合(打者に一塁が与えられる場合)について確認してきました。
野球のルールは確かにややこしいですが、ルールそのものを暗記するより、そういうルールになっている理由を考えるようにすると覚えられますよ!