野球で、走者の走塁に違反があったとき、そのことを審判員に指摘することをアピールプレイといいます。
どんな場合に該当するのかや、アピールをする方法などについて、公認野球規則とともに確認していきましょう。
- アピールプレイはどんな時に起きるの?
- ルール違反ならアウトじゃないの?
- アピールって、いつまでできるの?
- 注意 アピールすべきプレイが複数あるとき
- 守備側は審判員にどうやってアピールどうすればいいの?
- 飛球を捕ったあと飛び出している走者をアウトにするとき、アピールなんてしてたっけ?
- まとめ
アピールプレイはどんな時に起きるの?
- 飛球が捕らえられた際、塁上にいる走者が投球当時にいた塁に触れ直さなかった(リタッチしなかった)場合
- 走者が進塁や逆走をする際に塁を空過した(踏み損ねた)場合
に起こります。簡単にまとめると、走者がルールに反した走塁をして正しく塁に触れなかったとき、ということができるかと思います。
公認野球規則では、5.09(c)において定められています。
公認野球規則5.09(c) アピールプレイ
次の場合、アピールがあれば、走者はアウトとなる。
(1) 飛球が捕らえられた後、走者が再度の触塁(リタッチ)を果たす前に、身体あるいはその塁に触球された場合。
(2) ボールインプレイのとき、走者が進塁または逆走に際して各塁に触れ損ねたとき、その塁を踏み直す前に、身体あるいは触れ損ねた塁に触球された場合。(5.06b1参照)
(3) 走者が一塁をオーバーランまたはオーバースライドした後、ただちに帰塁しないとき、一塁に帰塁する前に身体または塁に触球された場合。(5.09b11参照)
(4) 走者が本塁に触れず、しかも本塁に触れ直そうとしないとき、本塁に触球された場合。(5.09b12参照)
ルール違反ならアウトじゃないの?
当然、審判員は走者が正しく走塁を行っているか(塁に触れたか)を確認していますが、塁に触れそこなったのを審判員が見つけたからと言って、直ちにアウトが宣告されることはありません。
守備側が、正しく走塁を行っていないことを審判員にアピールし、審判員がそのアピールを認めると、その走者はアウトになります。
公認野球規則 定義2 APPEAL「アピール」
守備側チームが、攻撃側チームの規則に反した行為を指摘して、審判員に対してアウトを主張し、その承認を求める行為である。
審判員は「アピールが正しい」と支持すればアウトを、「アピールが正しくない」場合はセーフを宣告します。
逆に言うと、守備側からのアピールがなければ走者が走塁中に塁を空過(踏み損ね)してもアウトになりません。
審判員は、走者の空過に気づいていても、「踏んでないよ!」などと声をかけるのは言うまでもなく、「あっ!」と声を出したり、空過した塁をジーっと見つめたりするなど、周囲に「何かがあった」と悟られるような言動をしてはいけません。それで誰かに気づかせるような行動をとることは、どちらかのチームに利益を与えてしまうことになるからです。
アピールって、いつまでできるの?
守備側が次のプレイをする前までに行わなければなりません。
ただし、イニングの交代時は、守備側は基本的に次のプレイをすることがありませんので、「守備側チームの投手および内野手がフェア地域を離れるまでに」と定められています。
公認野球規則5.09(c)後段
本項規定のアピールは、投手が打者へ次の1球を投じるまで、または、たとえ投球しなくてもその前にプレイをしたりプレイを企てるまでに行なわれなければならない。
イニングの表または裏が終わったときのアピールは、守備側チームのプレーヤーが競技場を去るまでに行なわれなければならない。
(中略)
〝守備側チームのプレーヤーが競技場を去る〟とあるのは、投手および内野手が、ベンチまたはクラブハウスに向かうために、フェア地域を離れたことを意味する。
注意 アピールすべきプレイが複数あるとき
アピールプレイをすべき事象が複数ある時は、それぞれについてアピールを行うことになります。
アピールプレイを複数行う必要があるとき、アピールプレイ自体は、先ほどのルールで示したアピールする権利が消滅するプレイには当てはまりません。
また、一つの塁について複数の走者が通過していて、そのうちある選手が空過したような場合は、その塁を通過した選手の人数までは、アピールを繰り返すことが認められます。
例えば、A、B、Cの3人の走者が本塁を駆け抜け、そのうちB選手だけが本塁を踏んでいなかったような場合は、本塁でB選手が空過したことをアピールした時にアウトを宣告し、それ以外の場合はセーフの宣告になりますが、A選手やC選手の本塁空過をアピールした後でも、B選手の本塁空過をアピールすることは認められます。
守備側は審判員にどうやってアピールどうすればいいの?
走者が正しく走塁できていないことに守備側が気づいたら、野手は、動作と言葉で、審判員に分かるようにアピールする必要があります。
動作とは、具体的には、
- 正しく走塁していなかった走者の身体に触球する(ボールを保持したグラブで走者に触れる)
または、
- 走者が正しく触れなかった塁に触球する(ボールを保持して塁を踏む)
ことです。
言葉とは、「(どの走者)が、(どの塁)を踏み損ねました」と審判員に伝えることです。具体的には、
- 「打者走者が一塁を踏み損ねました」
- 「タッグアップするとき、三塁走者の離塁が早かったです」
といった感じです。
また、走者をアウトにするためには「ボールインプレイ」(タイムがかかっていない状態)である必要があります。
公認野球規則5.09(c)【原注】
アピールは言葉で表現されるか、審判員にアピールとわかる動作によって、その意図が明らかにされなければならない。プレーヤーがボールを手にして塁に何げなく立っても、アピールをしたことにはならない。アピールが行なわれているときは、ボールデッドではない。
ボールデッド中に野手が審判員にアピールを行ったときは、審判員は「今はタイム中ですよ」とだけ伝え、アウトともセーフともコールしないこととされています。
飛球を捕ったあと飛び出している走者をアウトにするとき、アピールなんてしてたっけ?
…と思った方は、鋭いです。
先ほど、5.09(c) アピールプレイの規則の中で、
(1) 飛球が捕らえられた後、走者が再度の触塁(リタッチ)を果たす前に、身体あるいはその塁に触球された場合
とありました。タッチアップ(規則用語はタッグアップ)の離塁が早い場合がこれに当たりますが、ヒットエンドランの打球が鋭いライナーなって内野手に捕られたときなど、走者が飛び出してしまっていた場合もこの規則に含まれます。
通常、こういうときは走者が帰塁する前に野手が元の塁に送球してアウトにしますが、このとき審判員に対して、動作はともかく、言葉でいちいち「二塁走者が、飛球を捕られたとき飛び出していました」などとは言っていません。
実は、ルール上はこのようなプレイも「アピールプレイ」に分類されます。しかし、走者が飛球を捕られたので帰塁しようとしているときは、野球規則のどこかに書かれているわけではありませんが、守備側が塁に触球すれば、言葉によるアピールは省略する運用になっています。これは攻撃側の走者自身が走塁ミス(離塁してしまったこと)を自覚していることが見て分かるからだと、(少なくとも私は)考えています。
まとめ
野手が審判員に分かるように、動作と言葉でアピールして走者をアウトにするプレイを、アピールプレイといいます。
アピールプレイができるのは、主に次の場合。
- 飛球が捕らえられた際、塁上にいる走者が投球当時にいた塁に触れ直さなかった(リタッチしなかった)場合
- 走者が進塁や逆走をする際に塁を空過した(踏み損ねた)場合
アピールするための動作と言葉とは、正しく走塁していなかった走者の身体または空過した塁に触球して、「(どの走者)が、(どの塁)を踏み損ねた」と審判員に伝えること。
ただし、飛球が捕らえられたときに飛び出していた走者が帰塁しようとしているときは、言葉のアピールは省略する運用をしている。
アピールプレイについては、このくらいのことが理解できていれば、普段の野球観戦では困らないと思います。
しかしこのアピールプレイ、実はかなり奥が深いんです。同じプレイの状況でも、アピールする塁やアピールする順番によって、得点が認められたり取り消されたりします。野球のルールが分かっているかどうかが試される、野球における頭脳戦と言っていいかもしれません。
次回は【発展編】として、具体的な例を考えながら説明していこうと思います。