野球で、走者の走路とはどこを指すのでしょう。では、その走路を外れて走者が走ったら?あれ?でも実際その「走路」を厳格に走っていますか?分かっているようで意外とあやふやな「走路を外れたとき」のルールについて確認しましょう。
※ 2024年3月20日、追記しました
走者が「走路」を外れてアウトになるとき
そもそも、走者の「走路」とは
公認野球規則で「走路」はどのように定義されているのでしょう。
『公認野球規則』の本を開いたことがある方ならすぐに「定義」の項目を調べると思うのですが、実は定義の項目に「走路」の記載はなく、規則5.09(b)(1)の中で示されています。
公認野球規則5.09(b)(1)
【注1】 通常走者の走路とみなされる場所は、塁間を結ぶ直線を中心として左右へ描く3フィート、すなわち6フィートの幅の地帯を指すが、走者が大きく膨らんで走っているときなど最初からこの走路外にいたときに触球プレイが生じた場合は、その走者と塁を結ぶ直線を中心として左右へ各3フィートが、その走者の走路となる。
ここに「3フィート」という用語が出てきます。3フィートは91.44cm。細かく覚えられない場合は、1mいかないくらい、としておいてください。Googleなどで単位変換すれば、すぐ求められます。
通常の走者の走路はこんな感じ
「塁間を結ぶ直線を中心として左右へ描く3フィート、すなわち6フィートの幅の地帯」を図示すると下の図のようになります。
多くの球場では、芝と土の境界線が通常の走路の端となっていることが多いですが、必ずそうなっているとも限りません。
走者が走路を外れて走っていたらどうなる?
例えば長打を打ったときなどは、しばしば走者が走路を外れて走ることがあります。実際、トップスピードで走っている走者が塁のところで直角に曲がって次の塁に向かって走るようなことはあり得ませんね。どうしても身体が外側に振れるので、安全に走り抜けるためにも、外に膨らんで走ることになるのは想像がつくと思います。このことは、規則で特に禁止されていません。
しかし、通常の走路を外れて走っているときに送球が来て、野手が触球しようとしてきたら、状況は変わります。この場合は、「その走者と塁を結ぶ直線を中心として左右へ各3フィートが、その走者の走路」となります。
「タッグを避けて」走路を外れたら、アウト
繰り返しになりますが、走路を外れて走ること自体は禁止されていません。しかし、走者をアウトにするため野手が走者にタッグ(触球、ボールを保持した手やグラブで走者に触れること)しようとしたとき、走者は、走路の幅を超えて避けてはいけないというのがルールです。
走路は左右両方に3フィートずつ。だから、3フィートを超えて逃げることを「スリーフィートオーバー」といい、この場合、その走者はタッグされなくても、アウトになります。
このとき、野手がタッグしようとしていなければ、ラインアウト(スリーフィートオーバー)は宣告されません。タッグするためには、ボールを保持した手やグラブで走者に触れなければならないので、走者に向かって腕を伸ばそうとする動作はもちろん、その手またはグラブにボールが保持されていなければなりません。例えば、右手にボールを持って、左手にはめた空っぽのグラブで走者に触れようとしても、それはタッグとは言いません。(状況によっては、逆に走塁妨害が宣告されることもあります)
審判員は、「アウト・オブ・ザ・ベース・ライン」と宣告し、下のように逃げた方向に両手を振るジェスチャーをすることになっているようなのですが…
審判員によって、この宣告やジェスチャーがまちまちなんですよね。「ラインアウト」や「スリーフィートオーバー」と言って走者にアウトを宣告する審判員が多い印象があります。
なお、現在、英語では「アウト・オブ・ベースパス」というのが正しいのだそうです。
実例で確認!
これはスリーフィートオーバーになりました
2018年4月6日の阪神vs中日戦。阪神がホームユニフォームを着ていて、球場は京セラドームです。
この球場、土と芝の境目に注目してもらうと、フェアグラウンド側に比べてファウルグラウンド側のほうが、土の部分が広くなっているのがお判りでしょうか。単純に境目で3フィートだとは判定できないことが、こういうところからもご理解いただけるかと思います。
さて、走者はアウトになるまいと、がんばってタッグをかわしましたが…
このタイミングで、球審がマスクを持っている左手で走者を指しています。この時点でスリーフィートオーバーになったと判断したのでしょう。走者の足に注目すると、土と芝の境目からさらに芝側まで出ているように見えますね。3フィートを超えて逃げたと判断するには十分です。
このプレイはスリーフィートオーバーと判定されませんでした
2024年3月18日、センバツ高校野球 近江対熊本国府戦で8回表、一死一・三塁から、熊本国府がスクイズを仕掛けましたが、近江がこれを外し、三塁走者が三本間に挟まれました。
捕手から三塁手にボールが渡った後の様子を4コマピックアップして見てみましょう。
このとおり、走者は、走路を外れて大回りして三塁に戻ろうとしています。しかし、三塁手は走者を目で追ってはいますが、アウトにするためにタッグをしようとする様子が見られませんでした。
そのため、三塁塁審は、三塁セーフと判定しました。
スリーフィートオーバーはアピールプレイではない
このプレイが起こったあと、X(旧Twitter)上には「アピールしないからセーフになった」「スリーフィートオーバーはアピールプレイ」といった投稿が目立ちました。
なぜスリーフィートをアピールしないのか
— チャロ🐴🐲 (@CHAROdra) 2024年3月18日
常連校との違いはこういうとこだよな
スリーフィートにはアピールプレーの要素があり、タッチする動きが重要です。ただし、守備側がタッチしにいく姿勢を見せないと適用されないので、注意が必要です。少年野球では「タッチ!あ〜ん届かな〜い!🥺」と言うように指導されるようです。それによって、スリーフィートの正しいルールが伝えら
— @yosiokamamoru (@yosiokamamoru) 2024年3月18日
ちょっと誤解があるようです。スリーフィートオーバーはアピールプレイではありません。
もしかすると、過去に、審判員に向かって「スリーフィートオーバーです!」と主張し、そのあと審判員がアウトを宣告したという経験がある人が、このように投稿しているのかもしれません。
しかし、審判員に「スリーフィートオーバー!」と叫んでも、審判員はそれでアウトを宣告することはありません。野手に求められているのは、走者をアウトにするためにタッグをしに行こうとすることです。野手がタッグしようとしていなければ、ラインアウト(スリーフィートオーバー)は宣告されることはありません。
あるいは、走者をアウトにするためにタッグをしに行こうとすることを「アピール」と表現しているのかもしれませんが、それは野球規則でいう「アピールプレイ」には当たらないので、「アピールプレイ」という言葉を使って説明すると混乱が起こります。スリーフィートオーバーに関して「アピール」という言葉を使うのは避けることを強くお勧めします。
▼「アピールプレイとは何か」かはこちらから num-11235.hateblo.jp
まとめ
- 通常は、「塁間を結ぶ直線を中心として左右へ描く3フィート、すなわち6フィートの幅の地帯」が走路
- 走路を外れて走塁すること自体は、ルールで禁止されていない
- 野手のタッグを避けて走路を外れる(3フィートを超えて逃げる)とその走者はアウト
- 走者が通常の走路から外れている状態からタッグプレイが始まったときは、「その走者と塁を結ぶ直線を中心として左右へ各3フィートが、その走者の走路」として考える
- 野手がタッグしようとしていなければ、ラインアウト(スリーフィートオーバー)は宣告されない
以上を頭に入れておけば、野球観戦する上では困らないと思います。ルールを知って、より楽しく野球観戦していただけたら幸いです。