激闘という言葉がふさわしい、ものすごい試合でした。J1昇格を決めた東京ヴェルティの皆さんやサポーターの皆さん、おめでとうございます。
さて、試合の中で決まった得点がいずれもPKだったことから、この試合をさばいた池内主審のPK判定に対して様々な意見がX(旧Twitter)上で挙げられています。
今回は、それぞれの判定について考察することから、ハンドのルールやVARプロトコルに関して確認していきたいと思います。
61分 東京V森田のハンドで清水にPK
クロスボールに競ろうとしたときと、直後にボールをコントロールしようとしたときの2回、左腕にボールが触れたように見えます。
サッカー競技規則第12条 ファウルと不正行為 - ボールを手や腕で扱う
競技者が次のことを行った場合、反則となる。
- 例えば手や腕をボールの方向に動かし、意図的に手や腕でボールに触れる。
- 手や腕で体を不自然に大きくして、手や腕でボールに触れる。手や腕の位置が、その状況における競技者の体の動きによるものではなく、また、競技者の体の動きから正当ではないと判断された場合、競技者は、不自然に体を大きくしたとみなされる。競技者の手や腕がそのような位置にあったならば、手や腕にボールが当たりハンドの反則で罰せられるリスクがある。
(以下略)
秋葉選手の左腕は、クロスボールに対して競ろうとしたときに伸ばしたものですが、ボールの方向に動かしていますし、そのあと地面から跳ね返ってきたボールをコントロールしようとするときも左腕が体から離れていて体を不自然に大きくしたことにあたりますから、どちらの事象を採用してもハンドの反則に該当すると考えます。
90+4分 高橋のファウルで東京VにPK
相手ディフェンスの背後へ抜けだした東京Vの染野選手を清水の高橋選手がスライディングで倒したとしてPKの判定に。
メインスタンド側からの俯瞰映像だとファウルかどうか判然とせず、正直なところ私も最初はノーファウル・ノーPKでは?と思いました。
しかしゴール裏からの映像で確認すると、高橋選手のスライディングは染野選手の左足を払ってからボールに届いているので確かにファウル、PKです。これを見極めた池内主審はナイスジャッジでした。
VAR制度をまだまだ正しく理解できていないのでは?
PK判定の直後、さらには試合終了後も、X上では「大事な試合だから」「微妙な判定だから」「VARが確認すれば納得できる」「主審がなぜ映像を見ないんだ」といった主張が多く見られました。
どちらのサポーターでもないので、中正の立場としての個人的な意見にはなりますが、これだけ大事な試合だったからこそ微妙な判定の場面は、主審のVARチェックは必要だったんじゃないか?#J1昇格プレーオフ#東京ヴェルディ#清水エスパルス#染谷唯月 #高橋祐治 pic.twitter.com/reLNgumAVi
— HIROKI (@32ogatter19) 2023年12月2日
仮に確実にPKだったとしても、わかりづらい判定ならばVARを使うべきじゃないですかね。
— さっさー (@esnic_ryo) 2023年12月2日
何のために取り入れたんですかね?
だったら初めから取り入れるべきじゃないと思います。
PKかPKじゃ無いか以前に、「VARが確認しなかった」とか「微妙なんだから映像見て判定するべき」みたいな、VARの運用を理解してないツイートの多さ…
— オカムー@たのしめてるか。 (@bellshun) 2023年12月2日
普段、VARが導入されていないJ2の影響なのか?🙄
J2には普段VARが入っていないから慣れていないからか?という意見自体には賛同しかねますが、とはいえまだまだVAR介入までのプロセス(VARプロトコル)を正しく理解できていない方が多いのかもしれないとは感じました。
DAZNで解説をしていた清水範久さんの「VARが入っているんで間違いなく確認するとは思います」といった発言も、やや混乱ぎみと感じています。
VARが介入するのはどんなとき?
そもそもVARは試合映像を常に確認するのが任務です。「間違いなく確認するとは思います」ではなくて、当然、映像を確認しています。
そして、VARは以下の4つの事象について「はっきりとした明白な間違い」または「見過ごされた重大な事象」があったときに、介入することになっています。
VARが確認する手順は以下の通りです。「判定の正誤ではなく、主審が認識している事実が映像と比較して明らかに乖離しているかどうか」を確認します。その結果、主審の判定に明白な間違いがあるとなれば、VARが介入します。
今回の2つのPKの事象では、VARはリプレイ映像をチェックし、主審と交信も行っていました。
その上で、「主審がPKとした判定にはっきりとした明白な間違いはない」として、VARの介入には至りませんでした。
VARプロトコルの存在
サッカーでは、IFAB(国際サッカー評議会)によって、介入条件や手順がVARプロトコル [ビデオアシスタントレフェリー(VAR)の実施手順 ―原則と実践および進め方] として定められています。日本語版は、日本サッカー協会のサイトから、サッカー競技規則PDF版のp.137~に記載されていて、誰でも読めます。
「J1昇格のかかる大事な試合なんだから」
「微妙な判定だから」
「せめてオンフィールドレビューだけでもすれば」
Xでこういった主張がいくつもみられましたが、大事じゃない試合なんてありませんし、リプレイ映像を確認することで納得感を得たい気持ちも分からないでもないですが、微妙だからオンフィールドレビューをするという運用方法は、国際的に認められていません。
参考までに、2021年11月7日の鳥栖vs川崎戦でVARを務めた家本政明氏は、当該試合での判定に関してTwitterの反応を受けてこんなコメントをしています。
鳥栖川崎戦の「こういうのはOFRして皆で映像を見た方が納得感があっていい」という意見はわかりますし、尊重いたします。
— 家本政明 (@referee_iemoto) 2021年11月9日
ですがその方法はIFABやFIFAが定めた正規の運用方法とは異なるJリーグ独自のものとなるので、卒業するからと言って僕が勝手にどうこうできるものではないことはご理解ください。
ビデオ判定に神の視点のようにすべての正しい判定を下すことを期待している方もいるように感じます。
これは私の雑感ですが、ビデオ審判員がなんでもかんでも介入して、よい結果にはなりません。ビデオ判定の介入プロセスやその権限が明確になっていないと…
…こういうことが最高峰の国際大会でも起こって、もはや誰が審判だか分からなくなってしまいます。こんな状態の審判で、サッカーの試合、見たいですか?