2023年6月23日、広島vs巨人戦のダブルプレイは、野球のルールを知っているからこそできるミラクルプレイでした。吉川選手、中田選手のどちらかにちょっとでもミスがあると、このダブルプレイは成立しません。
このプレイのすごさを、関係するルールとともに解説していきます。
まずはプレイを見てみよう
状況は無死一塁、浅めのセカンドフライが飛びます。
吉川選手の意図的なショートバウンド
吉川選手は、わざとダイレクトキャッチをせず、ショートバウンドで捕球しました。
無死または一死で、内野手がわざと飛球を落とす場合には、故意落球というルールがあります。しかし、吉川選手は「打球に触れて落とす」ことをしていないので、このルールは適用されません。
公認野球規則5.09(a)(12)
0アウトまたは1アウトで、走者一塁、一・二塁、一・三塁または一・二・三塁のとき、内野手がフェアの飛球またはライナーを故意に落とした場合。(打者はアウトになる。)
ボールデッドとなって、走者の進塁は認められない。【注1】 本項は、容易に捕球できるはずの飛球またはライナーを、内野手が地面に触れる前に片手または両手で現実にボールに触れて、故意に落とした場合に適用される。
もし吉川選手が先に打球に触れてからグラウンドに落としていたら、審判員はタイムを宣告してプレイを止めていました。
🔻詳しいことはこちらの記事で。
中田選手の完璧な判断
突然起こったことのはずなのですが、中田選手はこの状況で行うべき最適の対応をしています。
公認野球規則5.06(a)(1)
走者がアウトになる前に他の走者の触れていない塁に触れれば、その塁を占有する権利を獲得する。
その走者は、アウトになるか、または、その塁に対する正規の占有権を持っている他の走者のためにその塁を明け渡す義務が生じるまで、その権利が与えられる。
打者走者が一塁に向かっているので、一塁走者は一塁を明け渡す義務が生じます。そのため、一塁に触れていても一塁を占有できません。
この状態で、中田選手が一塁を踏みながら捕球すると、一塁への触球が成立し、打者走者がアウトになります。それと同時に、一塁走者は一塁を明け渡す義務がなくなり、一塁に触れ続けていればそのまま一塁に残れてしまいます。
したがって、中田選手がダブルプレイを完成させるためには
- 捕球するときに一塁から足を外すこと
- 一塁から足を外したまま一塁走者に触球すること
- その直後に一塁を踏むこと
この手順を、順番通りに、しかも素早く行う必要がありました。
このプレイができたのは、吉川選手のショートバウンド捕球の意図を理解した中田選手がとっさに判断できたから。お見事でした。
もし、打者走者が一塁に到達していたら
さて、実際には2人ともアウトになったのですが、もし送球が若干遅くなり、一塁走者が一塁に残ったまま打者走者が一塁に到達できていたら、どういうルールになるでしょう。
以前、「同一の塁に2人の走者がついたときのルール」を解説しましたが、この例外の規則が適用される状況です。
公認野球規則5.06(b)(2)
打者が走者となったために進塁の義務が生じ、2人の走者が後位の走者が進むべき塁に触れている場合には、その塁を占有する権利は後位の走者に与えられているので、前位の走者は触球されるか、野手がボールを保持してその走者が進むべき塁に触れればアウトになる。
つまり、2人の走者にポン、ポンと中田選手が触球(タッグ)すると、アウトになるのは一塁を踏んだままの一塁走者です。また、おそらく打者走者は一塁を駆け抜けるでしょうが、塁を離れていてもそれだけでは触球されてもアウトになりません。これは通常通りのルールです。
ルールを知っていれば、それだけチームの勝利の可能性が高くなります。こういった頭脳プレイと一緒に覚えると理解しやすいのではないでしょうか。