numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

アピールプレイがサヨナラ負けを救った!―日本航空vs帝京三

2024年7月19日の高校野球山梨大会準々決勝、日本航空高校対帝京第三高校戦、野球の教科書というものがあるなら、この一連の流れは教材にできますね。

www.nikkansports.com

今回解説するテーマは、大きくまとめると

の2点です。またおまけでケーススタディとして

  • 1アウト満塁でこのケースが起こったときは
  • 11回裏の押し出しサヨナラのときのルール

についても触れてみたいと思います。

9回裏のシーンを見てみましょう

9回裏、日本航空の攻撃。二死満塁から打球がセンター前に飛びました。

試合終了かと思ったが…!

満塁なので全ての走者はフォースの状態にあり、打球が打たれたら全ての走者は次の塁に進塁しなければなりません。しかし、一塁走者は二塁を踏まずに歓喜の輪に加わってしまいました。

打球を処理した中堅手はその様子を見ていたのでしょうね。

中堅手はボールを持ったままずっと二塁方向を見ていました

日本航空側が本塁前に整列しようとする中、帝京三側は一塁走者が二塁を踏んでいないことをアピールしました。この場合一塁走者はフォースアウトになるので、第3アウトがフォースアウトとなることからこのプレイでの得点は取り消されます。

このことは、公認野球規則5.08(a)【例外】のところに記載されています。

公認野球規則5.08(a)

 3人アウトになってそのイニングが終了する前に、走者が正規に一塁、二塁、三塁、本塁に進み、かつこれに触れた場合には、その都度、1点が記録される。

【例外】 第3アウトが次のような場合には、そのアウトにいたるプレイ中に、走者(1、2にあたる場合は全走者、3にあたる場合は後位の走者)が本塁に進んでも、得点は記録されない。

(1) 打者走者が一塁に触れる前にアウトにされたとき。(5.09a、6.03a参照)
(2) 走者がフォースアウトされたとき。(5.09b6参照)
(3) 前位の走者が塁に触れ損ねてアウトにされたとき。(5.09c1・2、同d参照)

野球ファンの方に分かりやすい場面で例えるなら、二死満塁で二塁ベース付近にセカンドゴロが打たれて、二塁手がベースカバーに入った遊撃手にトスしたような場合、三塁走者が先に本塁に到達していても「二塁フォースアウト」なので得点が記録されない、というのと同じ結果になったということです。

このプレイの記録はセンターゴロとなりました。

まず、このプレイの教訓として覚えておいてほしいことは、
サヨナラヒットで勝利が決まってどんなにうれしくても、走者は必ず次の塁まで走らなければいけない
ということです。

サヨナラのときのアピール権はいつまであるのか

アピール権が消滅する時期は、公認野球規則で定められています。

ただし、アマチュア野球の習慣から、試合終了時のアピールについては日本独自の【注】も設けられています。そのため、アマチュア野球(高校野球も含む)とプロ野球では、試合終了時だけルールが異なります。

公認野球規則5.09(c) アピールプレイ

 次の場合、アピールがあれば、走者はアウトとなる。

(1) 飛球が捕らえられた後、走者が再度の触塁(リタッチ)を果たす前に、身体あるいはその塁に触球された場合。

(2) ボールインプレイのとき、走者が進塁または逆走に際して各塁に触れ損ねたとき、その塁を踏み直す前に、身体あるいは触れ損ねた塁に触球された場合。(5.06b1参照)

(3) 走者が一塁をオーバーランまたはオーバースライドした後、ただちに帰塁しないとき、一塁に帰塁する前に身体または塁に触球された場合。(5.09b11参照)

(4) 走者が本塁に触れず、しかも本塁に触れ直そうとしないとき、本塁に触球された場合。(5.09b12参照)

 本項規定のアピールは、投手が打者へ次の1球を投じるまで、または、たとえ投球しなくてもその前にプレイをしたりプレイを企てるまでに行なわれなければならない。

 イニングの表または裏が終わったときのアピールは、守備側チームのプレーヤーが競技場を去るまでに行なわれなければならない。

(中略)

 〝守備側チームのプレーヤーが競技場を去る〟とあるのは、投手および内野手が、ベンチまたはクラブハウスに向かうために、フェア地域を離れたことを意味する。

【注3】 攻守交代の場合と試合終了の場合との区別なく、いずれの場合でも投手および内野手が、フェア地域を離れたときに、アピール権が消滅することとする。

マチュア野球では、試合終了の場合に限って、両チームが本塁に整列したとき、アピール権は消滅することとする。

このルールから、日本のアマチュア野球の場合は

  • イニング終了時のアピール権の消滅は、投手および内野手がフェア地域を離れた(ファウルラインを超えた)とき
  • 試合終了時に限っては、両チームが本塁に整列したとき

ということになっています。

今回のケースではまだ両チームが本塁に整列していないので、アピール権は消滅していません。

本塁前に整列しているのは日本航空高校側だけ

なお、NPBの場合は【注3】の「アマチュア野球では、試合終了の場合に限って~」が適用されないので、審判員は、(アピールプレイの有無に関係なく)持ち場についたまま内野手が全員ファウルラインを越えるのを確認しています。サヨナラゲームになったときは、試合終了の瞬間の審判員の様子もぜひ確認してみてください。

おまけ1 今回のケースが一死満塁からだったら?

ここからは今回の事象を踏まえて、こんな場合だったらどうなるかというケーススタディです。

一死満塁から今回のケースが起こった場合はどうなるでしょう。

一塁走者が二塁を踏んでいないことのアピールにより一塁走者はフォースアウトになりますが、2アウトならば得点は取り消されないので、サヨナラが成立します。

 

しかし、もしも二塁走者も三塁に到達していなかったら?

ピールアウトにできる走者が、一塁走者と二塁走者の2人いることになります。

  • 二塁に送球してアピールすれば、一塁走者をアウトにできます。
  • 三塁に送球してアピールすれば、二塁走者をアウトにできます。

この場合、どうすればいいでしょうか。

 

正解は・・・・・・

 

 

 

まず三塁に送球してアピールし、二塁走者をアウトにします。このアウトは第2アウトで、フォースアウトです。

次に二塁に送球してアピールし、一塁走者をアウトにします。このアウトが第3アウトになり、これもフォースアウトです。

そう、要するにアピールプレイでのダブルプレイを取りに行くということになります。

アピールの順序が逆になって、一塁走者を先にアウトにしてしまうと、二塁走者を三塁でフォースアウトにできなくなってしまいます。

だから、試合終了が宣告されるまで、選手は気を抜いてはいけません。攻撃側はちゃんと次の塁まで進塁することが、守備側は走者が次の塁まで進んだかどうかを確認することが大切です。

おまけ2 四球押し出しでサヨナラになったときは?

実はこの試合、延長11回裏に、日本航空高校は再び二死満塁から、今度は四球を選び、押し出しでサヨナラ勝ちを決めました。

この場合は、特別なルールが定められています。

公認野球規則5.08(b)

 正式試合の最終回の裏、または延長回の裏、満塁で、打者が四球、死球、その他のプレイで一塁を与えられたために走者となったので、打者とすべての走者が次の塁に進まねばならなくなり三塁走者が得点すれば勝利を決する1点となる場合には、球審は三塁走者が本塁に触れるとともに、打者が一塁に触れるまで、試合の終了を宣告してはならない。

【注】 たとえば、最終回の裏、満塁で、打者が四球を得たので決勝点が記録されるような場合、次塁に進んで触れる義務を負うのは、三塁走者と打者走者だけである。三塁走者または打者走者が適宜な時間がたっても、その義務を果たそうとしなかった場合に限って、審判員は、守備側のアピールを待つことなくアウトの宣告を下す。
 打者走者または三塁走者が進塁に際して塁に触れ損ねた場合も、適宜な時間がたっても触れようとしなかった場合に限って、審判員は、守備側のアピールを待つことなく、アウトの宣告を下す。

最終回裏の満塁で押し出しサヨナラになるときに限って適用されるルールです。

適用される事象は、打者に一塁への安全進塁権を与える場合なので、次の4つが考えられます。

  • 四球(フォアボール)
  • 死球(デッドボール)
  • 打撃妨害
  • 野手に触れていないフェアの打球がフェア地域で審判員に触れたとき

打者が進塁することによって走者が押し出され、自動的に次の塁への安全進塁権が与えられるので、一塁走者、二塁走者の進塁は問わず、打者走者と三塁走者のみ、進塁の義務を負います。

また、この場合に限って塁を空過したときはアピールプレイではなく、審判員が自らアウトの宣告を下します。

極めて例外的なルールです。覚えるのも難しいと思うので、基本は「進塁することになったら試合終了のときでも次の塁まで進もう」と覚えておきましよう。