2024年3月11日、アメリカメジャーリーグ(MLB)でも「ブロッキングベース」のルールが導入されることを日本野球機構(NPB)の森健次郎審判長が明かしました。
日本プロ野球(NPB)では、2023年9月5日から「ブロッキングベース」の判定基準が導入され、判定基準見直しのきっかけとなったプレーに関わった選手や、走塁妨害について訴えた監督の名前から、「京田ルール」「岡田ルール」などとも呼ばれているようです。
日本プロ野球で導入したルールがメジャーリーグに採用された、ルールが“メジャーに逆輸入”された、といった論調が多いですが、いろいろ調べてみると、「ブロッキングベース」というルール(規則運用)ではあっても、NPBとMLBでは運用の仕方がずいぶん異なるようです。少なくとも同じルールだと思ってはいけません。
今回は、「NPBブロッキングベース」と「MLBブロッキングベース」の違いについて解説します。
(おさらい)NPBのブロッキングベースとは
- 塁に入った野手が捕球しようとした結果、不可抗力的に塁を塞いでしまった
- タイミングがセーフのとき
という条件のときに適用する判定基準です。
このとき審判員は、
- 野手のプレイは走塁妨害には当たらない
- しかし走者が不利益を受けているので、その不利益を取り除く
という考え方に基づき、走者が占有しようとしていた塁について「セーフ」と判定します。
なお、NPBではこの事象は、
- リプレイ検証の対象とする
こととなっています。盗塁の際や、けん制の帰塁でこのようなケースがあった場合に運用されます。
MLBのブロッキングベースとは
2024年3月7日のナショナルズ対メッツでのこのシーンを例に確認してみましょう。
A new rule change for the 2024 season:
— SNY (@SNYtv) 2024年3月7日
Ildemaro Vargas gets awarded third base on interference due to Joey Wendle blocking second base on a pickoff pic.twitter.com/26ljAnJkk0
このように、ベースカバーに入った野手は、送球を受ける前から塁の前にひざをついて捕球しようとしています。
このような
- 野手が走路を塞ぐ位置で捕球しようとしたとき
- NPBのように「タイミングがセーフかどうか」は考慮しない
ことになっています。
このとき審判員は、
- 走塁妨害を宣告してボールデッド
- 走者を1つ先の塁に進塁させる
つまり、走塁妨害(1)を適用する措置を取ります。
なお、MLBではこの事象は走塁妨害かどうかの判断になるので、
- リプレイ検証の対象としない
こととなっています。
考察:MLBでの走塁妨害(1)適用の考え方の変化か?
公認野球規則では、走塁妨害(Obstruction)を次のように定義しています。
定義51 OBSTRUCTION「オブストラクション」(走塁妨害)
野手がボールを持たないときか、あるいはボールを処理する行為をしていないときに、走者の走塁を妨げる行為である。(6.01h1・2)
また、野球には「守備優先」という考え方があります。
公認野球規則6.01(b)守備側の権利優先
攻撃側チームのプレーヤー、ベースコーチまたはその他のメンバーは、打球あるいは送球を処理しようとしている野手の守備を妨げないように、必要に応じて自己の占めている場所(ダッグアウト内またはブルペンを含む)を譲らなければならない。
野手がボールを持っているとき、走者をアウトにしようと触球しに行くことは当然の行為で、野手がボールを持っているときは走路を塞いでも問題ありません。また、打球や送球などが飛んできたのなら、捕球しようとする位置に野手が入る(ボールを処理する)のも仕方がないことです。その場合は、野手が守備をしようとする行為のほうが優先で、走者はこれをよけなければいけません。
このように、野球のルールにおいては、野手がボールを持っているときかボールを処理する行為をしているときは守備優先、そうでないときは走塁優先という捉え方になっています。そのため、走塁妨害は「故意か故意でないか」という考え方ではなく、「野手がボールを持っているかいないか」「ボールを処理しようとしているかいないか」で判断するのが基本的な考え方となります。
ここで、「ボールを処理する」とはどこからどこまでをいうのかがポイントになってきます。定義51の【原注】にはこのような記述があります。
定義51【原注】
ここにいう〝野手がボールを処理する行為をしている〟とは、野手がまさに送球を捕ろうとしているか、送球が直接野手に向かってきており、しかも十分近くにきていて、野手がこれを受け止めるにふさわしい位置をしめなければならなくなった状態をいう。これは一に審判員の判断に基づくものである。(以下略)
「野手がまさに送球を捕ろうとしているか、送球が直接野手に向かってきており、しかも十分近くにきていて、野手がこれを受け止めるにふさわしい位置をしめなければならなくなった状態」を、「野手がボールを処理する行為をしている状態」といいます。
さて、2024年3月7日のナショナルズ対メッツでのシーンを4コマピックアップしてみてみます。こうしてみてみると、下の図の2コマ目から、野手が右ひざをつこうとする態勢になっていることが分かります。
確かに走路を塞ぎにいっているようにも感じられますが、今までならこれは「野手がボールを処理する行為をしている状態」ととらえ「おとがめなし」でした。もし、野手が触球できていれば、アウトと判定されていたところです。
NPBブロッキングベースでの規則運用では、タイミングがセーフならば、走者は二塁セーフと判断します。
しかし、MLBブロッキングベースでの規則運用では、このプレイは走塁妨害を宣告し、二塁走者が三塁に進むように変わりました。このことから、MLBでは、野手が塁の前に膝をつく行為は、よほどボールが近くまで来て、膝をつかなければ捕球はできない状況といえない限り許されないと考えが変わったということでしょう。
守備側にしてみると、走者をアウトにできないどころか、走者が1つ先の塁に進んでしまうのですから、ベースブロックは損でしかありません。こうすることで、野手がブロックする行為自体を辞めさせることができるだろう、というのがMLBの考え方のようです。
まとめ:NPBとMLBの「ブロッキングベース」運用の比較
ここまで説明したことを表にまとめてみました。
ちなみに、野手がボールを持たずに、またボールを処理する前から走路を塞いでいると審判員が判断した場合は、NPBにおいても「ブロッキングベース」運用が始まる以前から、走塁妨害を適用しています。