numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

2024年度アメリカメジャーリーグ(MLB)のルール改正について

2023年12月22日、MLBが2024年シーズンに向けたルール改正を発表しました。

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MLBにおけるルール変更であり、日本のプロ野球などで適用されるルールではありませんが、MLBを観戦する方や、野球規則を勉強されている方ははぜひ知っておいてほしい内容です。

改正のポイント

改正のポイントは以下の4点です。

  • ピッチクロック
  • マウンドに行く回数の制限
  • ウォームアップをした投手の義務
  • 本塁一塁間の走路

では、それぞれの詳細を見ていきましょう。
お目当ての項目がある方は、下の目次から直接該当項目に飛んでください。

ピッチクロック

走者がいるときの投球の制限時間が、20秒から18秒に短縮されることになりました。走者がいないときに15秒以内、打者と打者の間で30秒以内という設定は変わりません。

さらに、ファウルボールなどでボールデッドになった後のプレイ再開時のピッチクロックは、2023年では投手がダートサークルやマウンドに入った時点から開始されていましたが、2024年は、投手が新しいボールを受け取った時点から開始されるようになります。これにより、投手がマウンドの端を歩くことでタイマーの開始を遅らせることができなくなります。

マウンドに行く回数の制限

2023公認野球規則5.10(m) マウンドに行く回数の制限

(1) 投手交代を伴わないでマウンドに行くことは、9イニングにつき1チームあたり5回に限られる。延長回については、1イニングにつき1回、マウンドに行くことができる。
(2) 監督またはコーチが投手と話すためにマウンドに行った場合、回数に数える。また、野手が投手と相談するために守備位置を離れた場合や投手が野手と相談するためにマウンドを離れた場合も、位置や時間にかかわらず回数に数える。

上記の規則で、(1)で規定されている「マウンドに行ける回数」が、5回から4回に減らされます。ただし、8回終了時点でマウンドに行ける回数がゼロの場合、9回のときに追加で1回行けるようになります。

2023年のMLBの各チームの1試合平均マウンド訪問回数は2.3回だったそうで、98%の試合が4回のマウンド訪問の制限を超えなかったそうです。

ウォームアップをした投手の義務

規則5.10(g)で、MLBでは、投手は最低3人の打者に投球するか、攻守交替になるまで投球する義務があることとなっていました。

2023公認野球規則5.10(g)

 ある投手に代わって救援に出た投手は、そのときの打者または代打者がアウトになるか一塁に達するか、あるいは攻守交代になるまで、投球する義務がある。ただし、その投手が負傷または病気のために、それ以降投手としての競技続行が不可能になったと球審が認めた場合を除く。
 以下はマイナーリーグで適用される。先発投手または救援投手は、打者がアウトになるか、一塁に達するかして、登板したときの打者(または代打者)から連続して最低3人の打者に投球するか、あるいは攻守交代になるまで、投球する義務がある。ただし、その投手が負傷または病気のために、それ以降投手としての競技続行が不可能になったと球審が認めた場合を除く。

この「最低3人ルール」は、MLBでは2020年シーズンから適用されていました。

今回の改正では、このルールに加えて「イニング前のウォーミングアップに送り出された投手は、最低1人の打者と対戦しなければならない」という義務が加わります。

2023年シーズンで、MLBではイニング間にウォームアップした投手が投球前に交代したケースが24回あり、そのうちの2回は2023年のワールドシリーズでの事象でした。MLB競技委員会はルール改正にあたって、「ウォームアップ後の交代によって無駄な時間が約3分発生していた」と指摘しています。

本塁一塁間の走路

スリーフットレーンという、本塁一塁間の後半部分に設けられた走路を打者走者が走らなかったことで、一塁への守備の妨げになったと審判員が判断した場合、打者走者にはアウトが宣告されることとなっていました。

公認野球規則5.09(a)(11)

 一塁に対する守備が行なわれているとき、本塁一塁間の後半を走るに際して、打者がスリーフットラインの外側(向かって右側)またはファウルラインの内側(向かって左側)を走って、一塁への送球を捕らえようとする野手の動作を妨げたと審判員が認めた場合(、打者はアウトとなる)。この際は、ボールデッドとなる。
 ただし、打球を処理する野手を避けるために、スリーフットラインの外側(向かって右側)またはファウルラインの内側(向かって左側)を走ることはさしつかえない。

【原注】 スリーフットレーンを示すラインはそのレーンの一部であり、打者走者は両足をスリーフットレーンの中もしくはスリーフットレーンのライン上に置かなければならない。

このルールにより、これまで打者は本塁一塁間の後半を走るとき、フェア地域を走ることにリスクがありました。

日本においてこのルールで有名な事象としては、2014年の日本シリーズ第5戦で、西岡選手が守備妨害を宣告されて試合終了となり、ソフトバンクの優勝が決定したシーンではないでしょうか。

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今回の改正では、打者走者が走るレーンが内野の芝生の間の土の部分を含むように広げられることになりました。

レーンが広ったことで、打者走者はより直接一塁へ向かうことができるようになります。このルールの下では、西岡選手の走塁は守備妨害が宣告されないことになりますね。

ただし、ファウルラインと内野の芝生の間の距離は、18インチ(45.72cm)から24インチ(60.96cm)の間とのことですが、競技場によってまちまちです。よって、「本塁周辺の土の部分(ダートサークル)」や「内野と外野の境目」のように、塁間の土の部分の幅にも基準が設けられることが今後十分考えられます。

これらのルールの日本への影響は?

日本の公認野球規則は、例年、前年度のOfficial Baseball Rules 改正を受けて改正が行われます。よって、日本への影響は早くても2025年シーズンとなります。

現状では、日本プロ野球では次のようになっています。

ピッチクロックの時間変更は?

今のところ日本プロ野球では導入が検討されていません。

ピッチクロック導入の話が進まない限り、影響はないでしょう。

マウンドに行ける回数やウォームアップをした投手の義務は?

まず、現時点での日本の公認野球規則での記述を確認しましょう。

「5回に制限」というルールは、公認野球規則では

【注】 我が国では、(m)項については、所属する団体の規定に従う。

となっており、日本プロ野球では適用されていません。

また、「最低3人ルール」に関しては

【注】本項後段については、メジャーリーグでも適用されるが、我が国では適用しない。

となっています。

よって、OBR2024でRule5.10(m)が改定がされれば、2025年度に公認野球規則も規則5.10(m)が同様に改定されるでしょうが、併記されている【注】により、日本では適用されないルールになることが十分考えられます。

本塁一塁間の走路

2025年度に規則5.09(a)(11)が改定されるのは間違いないでしょう。

問題は、「我が国においては……」から始まる【注】を設けるかどうかです。

守備位置ルールに伴う「内野と外野の芝の境目」に関しては適用しないことになっていますし、ベースの大きさは国内には7000以上の球場があるから影響が出る可能性があるとして15インチのままで改正を見送った経緯もあるので、これらと同様に【注】を設けて適用しないとすることも可能性として考えられます。

しかし、スリーフットレーンに関係する打者走者の守備妨害は発生頻度が比較的多い事象ですので、私は日本国内でも適用する方向で日本野球規則委員会は調整するのではないかと考えています。

問題は、規則を適用するためのファウルライン周辺の芝の境目を各球場でどのようにするかです。

日本プロ野球が使用する球場でも、東京ドームのように、走路が土になっていない人工芝の球場もあれば…

甲子園球場のように内野が全面土の球場だってあります。

内野が全面土の球場では、本塁周辺のダートサークルと同じように、一塁線のフェア地域側にもラインカーで線を引いて対応することになるだろうと思います。

一方、東京ドームのように境目がない球場の対応は考えなければなりません。こういったことを考慮した上で、公認野球規則2025がどのように改正されるのか、注目したいと思います。