2023年12月15日、日本野球規則委員会から野球規則の改正について発表されました。
2024年度は、大きく9項目が改正されました。
本塁からバックネットまでの距離とか、タイブレークとか、ピッチクロックとか、いろいろ野球のルールが話題になっていますが、それらが野球規則においてどのようになったのかを解説したいと思います。
なお、当ブログでは、ルール本文を理解することを何よりも大切にしているので、以下、改正内容そのものを引用した上で解説を行っていきます。いつもにもまして文字量が多いのでご容赦ください。
野球規則の改正とは
日本の野球規則は、アメリカの"Official Baseball Rules"の改正を受けて、1年遅れで改正されます。「原文に忠実に」をモットーにしつつ、日本国内のどのカテゴリーでも適用されるルールとしてあるために、日本独自の【注】を設けるなどしたものが、『公認野球規則』として発表されます。
この、『公認野球規則』は、日本国内の全ての野球の試合で適用されるものであり、日本プロ野球にだけ適用されるものではないことに注意が必要です。
2024年度 野球規則改正の内容
まずは項目から確認しましょう。
- 規則2.01 競技場の設定について
- 規則2.03 塁(ベース)の大きさについて
- 規則2.05 ベンチの位置について
- 規則3.02(a) バットについて
- 規則5.02(c) 野手の守備位置について
- 規則5.10(k) 試合中にベンチやブルペンに入ることを許された関係者について
- 規則7.01(b) 延長回の扱い、タイブレークについて
- 規則8.04 審判員の報告義務について
- 定義46「リーグプレジデント」の削除
では、それぞれの詳細を見ていきます。お目当ての項目がある方は、下の目次から直接該当項目に飛んでください。
- 野球規則の改正とは
- 2024年度 野球規則改正の内容
- (1) 2.01 競技場の設定について
- (2) 2.03 塁(ベース)の大きさについて
- (3) 2.05 ベンチの位置について
- (4) 3.02(a) バットについて
- (5) 5.02(c) 野手の守備位置について
- (6) 5.10(k) 試合中にベンチやブルペンに入ることを許された関係者について
- (7) 7.01(b) 延長回の扱い、タイブレークについて
- (8) 8.04 審判員の報告義務について
- (9) 定義46「リーグプレジデント」の削除
- まとめ
(1) 2.01 競技場の設定について
2.01の中では、3か所の改正点があります。
①第6段落を次のように改める。(下線部を改正)
本塁からバックストップまでの距離、塁線からファウルグラウンドにあるフェンス、スタンドまたはプレイの妨げになる施設までの距離は、60フィート(18.288メートル)以上を必要とする。 |
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本塁からバックストップまでの距離、塁線からファウルグラウンドにあるフェンス、スタンドまたはプレイの妨げになる施設までの距離は、60フィート(18.288メートル)以上を推奨する。 |
2023年から使用開始となったエスコンフィールド北海道が、本塁からバックストップまで約15mしかなかったことで規則違反になるのでは?と開業前に話題となり、3月に「日本ハムが寄付金を出して野球振興に充てる代替案で解決する」ことで決着した件がありました。
日本ハム新球場は改修せず 野球振興の代替案で解決―プロ野球:時事ドットコム
この件で改めて"Official Baseball Rules"(OBR)を確認してみると、Rule 2.01 では次のように記載されています。
It is recommended that the distance from home base to the backstop,
and from the base lines to the nearest fence, stand or other obstruction
on foul territory shall be 60 feet or more.
recomended = 「推奨する」ということで、「原文に忠実に」のモットーに基づき、公認野球規則の表現を原文に合わせる改正が行われることになりました。これにより、エスコンフィールド北海道は、公認野球規則違反に当たらなくなります。
②最終段落の末尾に次を加え、【注】を追加する。
巻頭1図のグラスライン(芝生の線)および芝生の広さは、多くの競技場が用いている規格を示したものであるが、その規格は必ずしも強制されるものではなく、各クラブは任意に芝生および芝生のない地面の広さや形を定めることができる。ただし、内野の境目となるグラスラインは、投手板の中心から半径95フィート(28.955メートル)の距離とし、前後各1フィートについては許容される。しかし、投手板の中心から94フィート(28.651メートル)未満や96フィート(29.26メートル)を超える箇所があってはならない。 【注】 我が国では、内野の境目となるグラスラインまでの距離については、適用しない。 |
これは、改正内容(5)の「野手の守備位置」に関係するもので、内野と外野の境目となるグラスラインの引き方が定められました。
ただし【注】に記載の通り、日本国内では適用されないルールです。
③【付記】を削除する。
【付記】 (a) 1958年6月1日以降プロフェッショナル野球のクラブが建造する競技場は、本塁より左右両翼のフェンス、スタンドまたは左右両翼のフェアグラウンド上にあるプレイの妨げになる施設までの最短距離は325フィート(99.058メートル)、中堅のフェンスまでの最短距離は400フィート(121.918メートル)を必要とする。 (b) 1958年6月1日以降現在の競技場を改造するにあたっては、本塁より左右両翼およびフェンスまでの距離を、前記の最短距離以下に短縮することはできない。 |
上記の内容が、今回の改正で削除されることになりました。
(2) 2.03 塁(ベース)の大きさについて
2.03の最終段落を次のように改め(下線部を改正)、【注】を追加する。
キャンバスバッグはその中に柔らかい材料を詰めて作り、その大きさは15インチ(38.1センチ)平方、厚さは3インチ(7.6センチ)ないし5インチ(12.7センチ)である。 |
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キャンバスバッグはその中に柔らかい材料を詰めて作り、その大きさは18インチ(45.7センチ)平方、厚さは3インチ(7.6センチ)ないし5インチ(12.7センチ)である。 【注】 我が国では、一塁、二塁、三塁のキャンバスバッグの大きさは15インチ(38.1センチ)平方とする。 |
MLBでは、2023年から塁の大きさが18インチ(45.7センチ)に変更されています。
塁を大きくする目的は、選手の接触によるけがの予防です。また、塁間の距離が若干短くなることで、盗塁しやすくなることも指摘されていました。実際、2023年のMLBでは、投手のけん制数が制限されるルールも合わせて導入されたこともあって、レギュラーシーズンだけで2000年以降最多の3503の盗塁数が記録されました。
しかし、日本国内にはバックネットが常設された球場が7000以上あり、このルールを導入して塁の大きさを変えるとなると、非常に大きな問題になります。また、アマの国際大会を開催するWBSCでは塁の大きさが変更されていません。このようなことから、この規則には【注】を設け、日本国内ではこれまで通りの大きさで運用することとなりました。
(3) 2.05 ベンチの位置について
「各ベースラインから最短25フィート(7.62メートル)離れた場所に、」を削除する。
ホームクラブは、 各ベースラインから最短25フィート(7.62メートル)離れた場所に、ホームチーム用およびビジティングチーム用として、各1個のプレーヤースベンチを設け、これは左右後方の三方に囲いをめぐらし、屋根を設けることが必要である。 |
このように、ベンチをベースラインからどれだけ離して設置するかという記述がなくなりました。
(4) 3.02(a) バットについて
【注3】および同【軟式注】を削除する。
【注3】 アマチュア野球では、金属製バットを次のとおり規定する。 【軟式注】 軟式野球では、この規定を適用しない。 |
上記の内容が、今回の改正で全て削除されることになりました。
高校野球では、投手への打球事故を防ぐために、2022年2月に日本高野連が金属製バットの新基準として、より反発の少ないものを導入することを決め、2024年春の選抜高校野球大会からは新基準のものに完全移行することになっています。
カテゴリーによってバットのルールが違ってくるため、公認野球規則で一律に金属製バットのルールを制定することは困難になってきたので、記述自体を削除し、大会特別規定などに委ねることにしたのかな?と私は想像しています。
(5) 5.02(c) 野手の守備位置について
【注】を【注1】とし、その後に、以下の本文、【原注】、ペナルティ、【注2】を追加する。
5.02(c) 投手と捕手を除く各野手は、フェア地域ならば、どこに位置してもさしつかえない。 内野手の守備位置については、次のとおり規定する。
【原注】 ペナルティ 【注2】 我が国では、本項後段の内野手の守備位置については、適用しない。 |
結論だけ端的に言うと、今回は【注2】記載の通り、内野手の守備位置については日本国内では適用されないルールとなります。日本国内ではプロ・アマ問わず、極端な守備シフトを敷くことがほとんど見られないからというのがその理由のようです。
このルールの制定の背景は、「大谷シフト」と言われるような極端な守備シフトをとるケースがみられたことからです。
このルールでは、投手が投手板に触れて、打者への投球動作および投球に関連する動作を開始するとき、
- 2人ずつは二塁ベースの両側に分かれて、両足を位置した側に置いていなければならない。
- 二塁ベースの両側に分かれた2人の内野手は、投手がそのイニングの先頭打者に初球を投じるときから、そのイニングが完了するまで、他方の側の位置に入れ替わったり、移動したりできない。
となっているので、三塁手が二塁ベースより一塁側、二塁手が二塁ベースより三塁側に守備位置をとるようなことはできなくなり、しかも野手の交代が伴わない限り、イニング中に入れ替わることもできなくました。
さらに、
- 4人の内野手は、内野の境目より前に、両足を完全に置いていなければならない。
というルールにより、内野手が外野側に位置することもできなくなりました。
なお、規則改正(2)でグラスラインの位置が明確になったのは、内野の境目が球場によってばらつきがないようにするためで、まさにこの規則に影響があるからです。
ちなみに、よく読んでもらうと、守備側チームがこの規則に違反したとき、攻撃側に「監督の選択権」が認められる場合があることが書かれています(日本では適用されませんが)。野球規則を勉強している方は見落とさないようにしてほしいところです(今回は詳細な解説は割愛します)。
(6) 5.10(k) 試合中にベンチやブルペンに入ることを許された関係者について
後段を次のように改める。
5.10(k) 両チームのプレーヤーおよび控えのプレーヤーは、実際に競技にたずさわっているか、競技に出る準備をしているか、あるいは一塁または三塁のベースコーチに出ている場合を除いて、そのチームのベンチに入っていなければならない。 試合中は、プレーヤー、控えのプレーヤー、監督、コーチ、トレーナー、バットボーイのほかは、いかなる人もベンチに入ることは許されない。 |
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5.10(k) 両チームのプレーヤーおよび控えのプレーヤーは、実際に競技にたずさわっているか、競技に出る準備をしているか、あるいは一塁または三塁のベースコーチに出ている場合を除いて、そのチームのベンチに入っていなければならない。 プレーヤー、監督、コーチ、トレーナーおよび試合中にベンチやブルペンに入ることを許されたクラブ関係者は、実際に競技にたずさわっているか、競技に出る準備をしているか、その他許される理由以外で、競技場に出ることはできない。 |
現実的には通訳などがベンチに入っていますので、コーチやトレーナー以外の「ベンチに入ることを認められたクラブ関係者」として規則に記載されました。また、必要がないときはベンチやブルペンから競技場に出てこないように、という意味合いの規則に変更されました。
(7) 7.01(b) 延長回の扱い、タイブレークについて
7.01(b)の見出しを「延長回」とし、次のように改める。
① 本文を同(1)とし、従来の(1)、(2)を(A)、(B)とする。
7.01(b) 延長回 (1) 両チームが9回の攻撃を完了してなお得点が等しいときは、さらに回数を重ねていき、 |
② 同(2)および【注】を追加する。
(2)9回が完了した後、10回以降は、走者二塁から、次のとおり始めることとする。 【注】 我が国では、所属する団体の規定に従う。 |
このように、タイブレークに関する規則(延長10回以降、継続打順で無死二塁から)が野球規則に記載されました。
2023年12月15日の規則改正の発表の後、一部メディアで誤報があったため、いまだに混乱があるようですが、【注】に記載されている通り日本国内では「所属する団体の規定に従う」となっていますので、タイブレークを行うかどうかは所属団体や大会特別規定等で定めることになります。
なお、日本プロ野球では2024シーズンでは導入しないことになっています。9回終了時点で同点の場合は、これまで通りの延長戦が行われます。
(8) 8.04 審判員の報告義務について
(a)(試合終了後)「12時間以内」、(b)前段の「4時間以内に」、(c)前段の(その所属クラブ)「の代表者」、(c)後段の「通告後5日以内に、」を削除する。
(a) 審判員は、すべての規則違反またはその他の報告しなければならない出来事を、試合終了後 12時間以内にリーグ会長まで報告する義務がある。ただし、監督またはプレーヤーを退場させた試合には、その理由を付記することを必要とする。 (b) 審判員がトレーナー、監督、コーチまたはプレーヤーを次の理由で退場させた場合には、審判員はその詳細を 4時間以内にリーグ会長に報告する義務がある。 すなわち、これらの人々が、審判員、トレーナー、監督、コーチまたはプレーヤーに、野卑不作法な言を用いて黙過できない侮辱を加えたためか、暴力を働いたことが退場理由となった場合がそれである。 (c) リーグ会長は、審判員から、監督、コーチ、トレーナー、プレーヤーを退場させた旨の報告を受けたならば、ただちに自己の判断で適当と思われる制裁を科し、その旨を当事者ならびにその所属クラブ の代表者に通告しなければならない。 制裁金を科せられた当事者が、 通告後5日以内に、リーグ事務局長にその総額を支払わなかった場合には、支払いが完了するまで、試合に出場することもベンチに座ることも禁止される。 |
審判員のリーグ会長への報告期限を規則から削除し、退場後の制裁内容の通告先を代表者にこだわらず「所属クラブ」とした、というところですね。試合自体に影響のある改正ではありません。
(9) 定義46「リーグプレジデント」の削除
定義46「リーグプレジデント」(リーグ会長)を削除し、以下繰り上げる。
46 LEAGUE PRESIDENT「リーグプレジデント」(リーグ会長)──リーグ会長は本規則の施行の責任者であり、本規則に違反したプレーヤー、コーチ、監督または審判員に制裁金または出場停止を科したり、規則に関連する論争を解決する。 【原注】 メジャーリーグでは、本規則のリーグ会長の職務はコミッショナーの指名した者によって遂行される。 【注】 我が国のプロ野球では、本規則のリーグ会長の職務はコミッショナーの指名した者によって遂行される。 |
これも、試合自体に影響のある改正ではありません。
まとめ
というわけで、今回の改正は9項目でしたが、日本国内の野球の試合に具体的な影響がある(プレーヤーや野球ファンに影響がある)ものに絞ると、以下の4項目になります。
- 規則2.01 競技場の設定について
(バックネットは本塁から18メートル以上を推奨) - 規則2.05 ベンチの位置について
(ベースラインからどれだけ離して設置するかという記述がなくなった) - 規則3.02(a) バットについて
(アマチュア野球、軟式野球の独自の【注】がなくなった) - 規則5.10(k) 試合中にベンチやブルペンに入ることを許された関係者について
(通訳などがベンチに入ることも考慮した、現実に即した表現に変更)
【注】で「適用しない」となっているルールも、いずれ適用するようになるかもしれませんし、国際大会では適用となる可能性もありますから、知っておく必要は当然あります。
さて、ピッチクロックについては、今回公認野球規則改正においては議題にもなっていませんでした。一方、MLBでは走者ありのときのタイマーが18秒に変更されることになっています。なお、ピッチクロックはリーグの内規のようなもの(特別規定)で定めているものなので、MLBで何らかの改定があっても公認野球規則に影響することはありません。とはいえ、OBR2024では、次年度に影響のありそうな改定がありましたので、動向を注視したいところです。
最後に、本としての『公認野球規則』は、例年3月末ごろに発売されます。野球を愛する人は、是非手元で正しいルールを確認できるようにしておきましょう。